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#075 NHK受信契約締結承諾等請求事件最高裁大法廷判決等(2017.12.07)

  • 記 事

 

◉ NHKニュース(2017.12.6)

 NHK受信契約訴訟 契約義務づけ規定は合憲 最高裁大法廷

 NHKが受信契約の申し込みに応じない男性に対して起こした裁判で、最高裁判所大法廷は、「受信料は憲法の保障する表現の自由のもとで国民の知る権利を充たすための制度で合理的だ」として、テレビなどを設置した人に受信契約を義務づける放送法の規定は憲法に違反しないという初めての判断を示しました。

 NHKは、テレビなどの設置者のうち、繰り返し受信契約を申し込んでも応じない人たちに対して、申し込みを承諾することや受信料の支払いなどを求める訴えを起こしています。
 このうち都内の男性に対する裁判では、設置者に受信契約を義務づける放送法64条の規定が憲法に違反するかどうかや、契約がいつ成立するかなどが争われました。
 6日の判決で、最高裁判所大法廷の寺田逸郎裁判長は、NHKの受信料について、「NHKの公共的性格を特徴づけ、特定の個人、団体または国家機関などから財政面での支配や影響が及ばないようにしたものだ。広く公平に負担を求めることによってNHKが放送を受信できる人たち全体に支えられていることを示している」と指摘しました。
 そのうえで、放送法の規定が憲法に違反するかどうかについて、「受信料の仕組みは憲法の保障する表現の自由のもとで国民の知る権利を充たすために採用された制度で、その目的にかなう合理的なものと解釈され、立法の裁量の範囲内にある」として、最高裁として初めて憲法に違反しないという判断を示しました。
 また、受信契約に応じない人に対しては、NHKが契約の承諾を求める裁判を起こして判決が確定した時に契約が成立し、支払いの義務はテレビなどを設置した時までさかのぼって生じるという判断も示しました。
 判決では裁判官15人のうち鬼丸かおる裁判官が、契約者に受信料の支払いという経済的負担をもたらすことを考えると、契約の内容は法律で具体的に定めるのが望ましいという補足意見を述べたほか、木内道祥裁判官は、裁判の判決によって契約を成立させることはできず、別の形でNHKが請求すべきだという反対意見を述べました。

 男性側 「納得いかない判決」

 男性の弁護団の高池勝彦弁護士は「受信料が憲法違反ではないという最高裁大法廷の判決には、納得いかない。受信料制度の改革には役立たないし、NHKの抜本的な見直しにはつながらない」と話していました。

 

 NHK「主張が認められた」

 

 NHKは「判決は公共放送の意義を認め、受信契約の締結を義務づける受信料制度が合憲であるとの判断を最高裁が示したもので、NHKの主張が認められたと受け止めています。引き続き受信料制度の意義を丁寧に説明し、公平負担の徹底に努めていきます」とコメントしています。

 

 総務相「引き続き公平負担の確保取り組みを」

 

 野田総務大臣は「判決においては、放送法64条1項の規定は憲法上許容される立法裁量の範囲内であり、合憲であると判断されたものと考えている。NHKにおいては、受信料が広く国民・視聴者に負担していただいているということを踏まえ、引き続き丁寧に受信料の公平負担の確保に向けた取り組みを推進することを期待している」というコメントを発表しました。

 裁判で争われた4つの論点

 この裁判では、4つの論点が争われました
 1つ目は、「放送法64条の規定が憲法に違反するかどうか」です。
 放送法64条は、「協会(NHK)の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない」と規定しています。最高裁判所大法廷は、「受信料の仕組みは、憲法の保障する表現の自由のもとで国民の知る権利を充たすために採用された制度で、その目的にかなう合理的なものと解釈され、立法の裁量の範囲内にある」と指摘しました。
そのうえで「受信契約を結ぶことで支払い義務を生じさせるのは、NHKがテレビなどを設置する人の理解をえてその負担によって支えられる事業体であることに沿ったもので、妥当な方法だ」として憲法に違反しないと判断しました。
 2つ目は、「受信契約はどの時点で成立するか」です。 
 これについて最高裁は、「契約を申し込んだ時に契約が成立する」というNHKの中心的な主張は認めず、「NHKが裁判を起こして訴えを認めた判決が確定した時」だと判断しました。
 3つ目は、「いつから支払いの義務が生じるか」です。
 NHKが「受信機を設置した時」だと主張したのに対して、男性側は「契約が成立した時」だと反論していました。最高裁は、「同じ時期に受信機を設置したのにすぐに契約を結んだ人と結ばなかった人との間で支払うべき受信料に差が生まれるのは公平とはいえない。受信機を設置した時に支払い義務が生じるとした規定は、公平を図るうえで必要かつ合理的だ」としてNHKの主張を認めました。
 そして4つ目は、「いつから時効によって支払い義務が消滅するか」です。
 受信料の時効は5年ですが、いつから数えて5年なのかが争われていました。最高裁は、判決が確定して契約が成立した時が起点になるという判断を示しました。契約の成立から5年が経過すると、5年以上前の分の支払い義務は消滅しますが、今回のケースでは6日の判決で契約が成立したため、過去の分は時効にならず、テレビを設置した時までさかのぼって受信料の支払いが命じられました。

 

 受信料はNHK運営のほぼ唯一の財源

 

 受信料は、NHKを維持・運営するための、ほぼ唯一の財源となっています。
 放送法64条は、NHKの放送を受信することのできるテレビなどの設置者に、受信契約を結ぶことを義務づけ、受信料はこの受信契約に基づいて支払われるものです。税金や広告収入ではない受信料を財源とすることで、国や特定のスポンサーなどの影響にとらわれず、自主・自律を堅持し、公共放送の役割を果たすことを目的としています。
 受信料額は、口座振替やクレジットカード払いで支払う場合、地上契約は月額1260円、衛星契約は2230円となっており、社会福祉施設や学校、生活保護の受給者などは、受信料の支払いが免除される規定があります。
 平成28年度末時点の有料契約件数はおよそ4030万件、平成28年度の受信料収入は6769億円で、NHKの事業収入に占める割合は96%、受信料の支払い率は79%となっています。

 

 

② 社説・論説

 

◉ 朝日新聞(2017.12.7)

 

 NHK判決 公共放送の使命を常に

 家にテレビがある者はNHKと受信契約を結ばなければならない――。そう定める放送法の規定が「契約の自由」などを保障する憲法に反するかが争われた裁判で、最高裁大法廷は合憲とする判決を言い渡した。

 判断の根底にあるのは、公共放送の重要性に対する認識だ。特定の個人や国の機関などの支配・影響が及ばないようにするため、放送を受信できる者すべてに、広く公平に負担を求める仕組みにしているのは合理的だと、大法廷は結論づけた。

 問題は、判決が説く「公共放送のあるべき姿」と現実との、大きな隔たりである。

 NHK幹部が政治家と面会して意見を聞いた後、戦時下の性暴力を扱った番組内容を改変した事件。「政府が右ということを左というわけにはいかない」に象徴される、権力との緊張感を欠いた籾井(もみい)勝人前会長の言動。過剰演出や経費の着服などの不祥事も一向に絶えない。

 今回の裁判でNHK側は「時の政府や政権におもねることなく不偏不党を貫き、視聴率にとらわれない放送をするには、安定財源を確保する受信料制度が不可欠だ」と主張した。

 近年強まる政治家によるメディアへの介入・攻撃に抗し、この言葉どおりの報道や番組制作を真に実践しているか。職員一人ひとりが自らを省み、足元を点検する必要がある。

 メディアを取りまく環境が激変し、受信料制度に向けられる視線は厳しい。それでも多くの人が支払いに応じているのは、民間放送とは違った立場で、市民の知る権利にこたえ、民主主義の成熟と発展に貢献する放送に期待するからだ。

 思いが裏切られたと人々が考えたとき、制度を支える基盤は崩れる。関係者はその認識を胸に刻まなければならない。

 あわせて、NHKが道を踏み外していないか、政治の側が公共放送の意義をそこなう行いをしていないか、チェックの目を光らせ、おかしな動きにしっかり声をあげるのが、市民・視聴者の務めといえよう。

 最近のNHKは、民放との二元体制で放送を支えてきた歴史を踏まえずに事業の拡大をめざすなど、自らの事情を優先する姿勢に批判が寄せられている。

 今回の受信料裁判を機に、公共放送のあり方について、あらためて社会の関心が集まった。

 これからの時代にNHKが担う役割は何か。組織の規模や業務の内容は適正といえるか。NHKが置き去りにしてきた、こうした根源的な問題について議論を深めていきたい。

 

◉ 読売新聞(2017.12.7)

 「受信料制度合憲 NHKの在り方を考えたい」

 全国にあまねく良質の番組を提供する。公共放送の目的が果たされてこそ、受信料に対する国民の理解が得られる。
 最高裁大法廷が、NHKの受信料制度を「合憲」とする初めての判断を示した
 判決は「憲法が保障する表現の自由の下、国民の知る権利を充足すべく採用された」と、受信料制度の合理性を認めた。受信契約を義務付けた放送法の規定についても、「公平な受信料徴収のために必要だ」と結論付けた。
 国家や特定の個人、団体から財政面での支配や影響を受けないよう、事業運営の財源を受信料に求める。広く公平な負担によって支えられているNHKの特性と、公共放送としての存在意義を踏まえた判決だと言えよう。
 自宅にテレビがある男性が「視聴者の意思に委ねられる」と受信契約を拒否したため、NHKが受信契約を求めて提訴した。
 判決は「NHKがテレビ設置者の理解が得られるよう努め、これに応じて受信契約が結ばれることが望ましい」とも指摘した。
 これをNHKは重く受け止めるべきだ。災害情報など、公共の福祉に資する報道や番組をより充実させることが欠かせない。
 不偏不党で、公正な報道が求められるのは言うまでもない。報道番組での不適切な演出や、偏向した内容が目立つようでは、受信料制度の基盤が崩れる。
 NHKでは、制作費の流用といった不祥事が相次ぎ、受信料の支払い拒否が増えた。3月末時点の支払率は79%だ。未契約は全国で約900万世帯と推計される。
 最高裁は、NHKが未契約者を提訴し、勝訴が確定した段階で契約が成立するとの見解も示した。規約上、テレビを設置した月に遡って支払い義務が発生する。
 NHKにとっては、受信料を徴収しやすくなる。徴収業務の経費を節減する余地も生じよう。
 受信料収入の増大で、NHKの肥大化が今以上に進まないか。経営効率化への取り組みが疎おろそかになることも懸念される。
 NHKは、テレビ番組をインターネットで同時配信する新規事業を2019年度にもスタートさせる方針だ。4K・8Kなど、高画質放送の事業も手がけている。
 事業を野放図に広げれば、民業圧迫につながる。事業拡大に突き進むのではなく、受信料の値下げを検討するのが先決だろう。
 最高裁判決を契機に、公共放送としての在り方を虚心坦懐たんかいに見直してもらいたい。

 

◉ 毎日新聞(2017.12.8)

 NHK受信料に合憲判決 公共放送の自覚を新たに

 テレビを設置した者にNHKとの契約を義務づけた放送法64条の憲法適合性が問われた訴訟で、最高裁は合憲との判断を示した。

 判決は受信料制度を「国民の知る権利」を満たす仕組みと認定した。受信料を、特定の個人や国家機関などから影響が及ばないよう、公平に負担を求めたものと結論づけた。

 そして契約を拒む男性に、受信料を支払う必要があると述べた。

 社会の情報基盤であるNHKの役割を重くみて、その維持・運営を受信設備の設置者が支えるという判決の考え方は理解できる。

 NHKは、2006年から支払い督促の法的手続きに乗り出した。未契約者を相手取った訴訟は今年9月末で約280件にのぼる。

 受信料制度が合理的と認められたことで、未契約世帯約900万からの徴収にも影響が予想される。

 ただし、NHKはこの判決をお墨付きにせず、公共放送としての自覚を新たにしなければならない。

 前会長は国際放送について「政府が右というものを左というわけにはいかない」と述べるなど、政治との距離が問われた。職員の無駄遣いが問題になったことも少なくない。

 放送法は、NHKの目的を、あまねく全国で受信できる、豊かで良い番組を放送するとうたう。NHKの倫理・行動憲章は冒頭に、自主自律を堅持し、健全な民主主義の発展に役立つ放送を掲げている。

 つまり公共放送は、国の言い分を伝えるのではなく、多くの角度から論点を明らかにするなど、多様性の確保が期待されているのである。

 今回の訴訟では、法相が戦後2例目となる意見書を提出した。危急時の情報提供をNHKの使命に挙げ、受信料は不合理ではないと記した。

 NHKの災害報道には一定の評価がある。しかし、公共放送には他にも重要な役割があるだろう。

 日本の放送は、NHKと民間放送の二元体制を特徴とする。広告収入に頼る民放と補い合い、NHKには例えば地方や少数者に配慮する番組が求められるのではないか。

 NHKではテレビ離れが進む中、ネット業務の範囲や負担のあり方も検討されている。公共放送としての役割をもっと議論し、人々の理解を得るよう努めてほしい。

 

◉ 北海道新聞(2017.12.7)

 

 受信料合憲判決 公共放送論じる契機に

 NHKが受信契約を拒む男性に受信料の支払いを求めた訴訟の上告審で、最高裁大法廷は、テレビを持つ人にNHKとの受信契約締結を義務付けた放送法の規定を合憲とする初の判断を示した。

 男性側が、規定は契約の自由を侵害し憲法違反と主張したのに対し、最高裁は、国民の知る権利の充足などに寄与するために必要な仕組みと結論づけた。

 受信料制度が、国や特定の団体などによる影響を防ぐための財政的基盤と判断したのだろう。

 だからといって、NHKが法的措置を多用して受信料を強硬に徴収すれば、反発を招くだけだ。

 受信料制度とは本来、視聴者との信頼関係に基づいていることをNHKは忘れてはならない。

 根底には、独立性と多様性を備えた公共放送を支えるコストとして、見ても見なくても、受信料を任意で支払うという理念がある。

 NHKは、質の高い番組作りに取り組むと同時に、丁寧に受信料制度の意義を説明し、国民の理解を得る努力が求められる。

 そもそも、NHKが法的手段に踏み切ったのは、相次ぐ不祥事で受信料不払いが急増したためだ。

 2006年から、「公平な負担」を理由に、不払い世帯を対象に簡裁への支払いの督促を申し立て、その後、未契約世帯などへの訴訟も開始した。

 NHKの側に原因があるにもかかわらず、強制的な手法に訴えたことは、視聴者との信頼関係を傷つけたのではないか。

 インターネットが急速に普及した現在は、若い世代を中心にテレビを見ない人も増えた。

 NHKは新しい時代の公共放送のあり方や将来像を詰めることなく、関連事業を広げて組織を肥大化させてきた。

 これがコスト意識の低さや不祥事の温床となったと言える。

 さらに、NHKは予算が国会で承認を受け、放送内容を巡って、政府・与党の介入を招きやすい。真摯(しんし)に反省してもらいたい。

 多くの国で公共放送の受信料は義務化され、罰則を設けている国も少なくない。

 これに対し、むしろNHKの受信料は、強制力なしで国民の自主性に支えられているところに価値を見いだすべきだろう。

 視聴者の側も、主体的に参加する意識が欠かせない。

 公共放送のあるべき姿や、受信料で制作するに値する番組について、視聴者がもっと声を上げ、社会全体で議論する必要がある。

 

◉ 東奥日報(2017.12.8)

 あるべき姿 探る契機に/NHK受信料 「合憲」

 NHKの受信料制度が契約の自由を保障した憲法に反するかどうかが争われた訴訟の上告審判決で、最高裁大法廷は「合憲」とする初の判断を示した。テレビがあれば契約を結び、受信料を支払うことを、事実上の法的義務と位置付け、NHKに“お墨付き”を与えた形だ。
 徴収業務や契約・支払いを求める裁判に及ぼす影響は大きい。ただ、インターネットの普及で若者のテレビ離れが進むなどメディアを取り巻く環境が大きく変わる中、公共放送の役割そのものが問われており、検討すべき課題は多い。最高裁判決を契機に、時代の変化を踏まえた公共放送のあるべき姿を探る議論を深める必要がある。
 NHKは、テレビがあるのに受信契約を拒む男性に支払いを求めて提訴。「受信設備を設置した者はNHKと受信契約を結ばなければならない」と定める放送法の解釈が主な争点となった。
 契約の強制は契約の自由への重大な侵害と男性側は主張したが、最高裁は公共放送としてのNHKの役割を重視。その財政的基盤を広く負担してもらう仕組みについて「憲法が保障する表現の自由の下で国民の知る権利を実質的に充足すべく採用され、合理的なものと解される」とした。
 未契約世帯は900万を超えるとされる。受信料収入に頼るNHKは戸別訪問で説得を重ね、どうしても応じてもらえない場合には裁判を起こすことになる。今回の判決は追い風となろう。
 ただ、これまでも「弱い個人を狙い撃ちにしている」といった声があったことを忘れてはならない。判決も「NHKが理解を得られるよう努め、契約が締結されることが望ましい」としている。
 一方、2019年度開始を目指し、NHKがインターネットで番組を同時配信するサービスを巡っては当初、ネットのみの視聴世帯からも受信料を徴収する意向を示していたが、当面は負担を求めない方針を9月に表明した。
 「NHKの肥大化」を危ぶむ民放の反発に配慮したものとみられるが、そもそもネットで公共放送は必要なのか、民放の経営を圧迫しないかといった観点から検討を加えることが求められる。
 このほか、ワンセグ機能のある携帯電話を持つ人から受信料を徴収できるかでも争いは続いており、公共放送の在り方を巡る論点は尽きない。

 

 

◉ 河北新報(2017.12.7)

 

 NHK受信料「合憲」/公共放送の役割 問われる

 最高裁大法廷はきのう、テレビを持つ人にNHKの受信料支払いの義務が生じる現行の制度について、「合憲」との初判断を示した。
 受信契約を巡る放送法の規定が「契約の自由」を保障する憲法に違反するかどうか争われた訴訟の上告審判決。国民が公平に財源を負担して公共放送を支える制度に「お墨付き」を与えた形だ。
 全国で900万世帯超とされる未払い者への徴収業務に影響を与えるのは確実。NHKにとっては「追い風」だろうが、この判決を「錦の御旗」にして、強引な受信料の徴収があってはならない。
 放送法64条1項は「受信設備を設置した者はNHKと契約を結ばなければならない」と規定する。訴訟では受信料徴収の根拠となってきたこの条文の解釈が争われた。
 自宅にテレビを設置したものの契約に応じないとして、NHKに訴えられた東京都の男性は「努力規定であり、支払う必要はない」と主張。強制するのは契約の自由の侵害だと訴えた。
 最高裁判決は「受信料制度は、憲法の保障する表現の自由の下で国民の知る権利を充足する合理的な仕組みだ」などと指摘し、憲法に違反しないと結論付けた。
 契約がどの時点で成立するかも焦点の一つだったが、NHKにとっては手放しで喜べない判断だったのではないか。未契約者相手に裁判を起こし、判決が確定した時点とされたからだ。
 支払率を上げていくためには個別に訴えていく必要があり、膨大なコストとエネルギーが求められよう。
 ただ、裁判を起こさないで済むなら、それに越したことはあるまい。そのためには視聴者に対して、公共放送の役割や受信料制度の意義を丁寧に説明して、理解を得ることが不可欠だ。これまではその努力が足りなかったと言わざるを得ない。
 そもそも被告の男性が受信契約を拒んだのは「NHKの偏った内容に不満がある」という理由だった。とりもなおさず、公共放送のあり方への問い掛けでもあった。
 判決は「公共の福祉のための放送」と位置付けたが、具体的な中身に踏み込まなかったのは物足りなかった。
 NHKは予算の承認などが事実上、国会の手に握られているため、政治との距離が近いという批判が絶えない。謙虚に耳を傾けるべきだ。
 実際、1月に退任した前会長の籾井勝人氏は「政府が右と言うものを左と言うわけにはいかない」などと政権寄りの発言をして問題視された。
 公共放送として目指すべきは、民間放送のような視聴率や利益優先の姿勢と一線を画し、NHKならではの良質な番組を制作していくことだ。東日本大震災を巡る息の長い報道がいい例だろう。そのための受信料制度なら、国民も納得するはずだ。

 

 

◉ 山形新聞(2017.12.8)

  NHK受信料「合憲」 あるべき姿、探る契機に

 NHKの受信料制度が「契約の自由」を保障した憲法に違反するのかどうかが争われた訴訟の上告審判決で、最高裁大法廷は、制度は「合憲」とする初めての判断を示した。

 テレビがあるのに受信契約を拒む男性にNHKが支払いを求めて提訴していた。裁判では、「受信設備を設置した者はNHKと受信契約を結ばなければならない」と定める放送法の解釈が主な争点になり、男性側は契約の強制は契約の自由への重大な侵害と主張した。

 しかし最高裁は、公共放送としてのNHKの役割を重視し、その財政的基盤を広く負担してもらう仕組みについて、「憲法が保障する表現の自由の下で国民の知る権利を実質的に充足すべく採用され、合理的なもの」と指摘、議論のあった制度の法的性格を明確にした。

 さらに、テレビがあれば契約を結び受信料を支払う法的義務があると指摘して、NHKに「お墨付き」を与えた形になる。契約・支払いなどを求める他の裁判や徴収業務に及ぼす影響は大きい。

 NHKによると、2016年3月末の時点で受信契約の対象は全国で4621万世帯を数える。このうち3709万世帯は契約を結んでおり、3612万世帯が受信料を支払っている。支払率は78.2%で、過去最高だった。16年度決算では、事業収入7073億円のうち、受信料収入は6769億円で95.7%と大半を占めている。

 一方で、職員の不祥事が相次いで発覚した04年以降、支払い拒否が急増した。受信契約を結んだが支払いが滞っている場合や未契約のケースには法的措置も取っているが、未払いは依然として多く、不公平感が生じているのも事実だ。

 今回の判決はNHKには追い風になるが、今後も受信者に公共放送の役割と公平負担の意義を丁寧に説明し、自発的に払ってもらうよう理解を得る取り組みが欠かせない。

 インターネットの普及により若者のテレビ離れが進むなどメディアを取り巻く環境が激変する中、NHKを巡っては、ネットのみの視聴者からも受信料を徴収しようという動きもあり、厳しい視線が向けられている。民放からは「NHKの肥大化」を危ぶむ声も出ている。

 基本的にNHKは国営放送ではなく、国家権力とは別の立場にある。しかし振り返ると前会長の籾井勝人氏は14年の就任会見の際、「政府が右というものを左というわけにはいかない」などと発言、政権との距離感が疑問視された経緯がある。国家機関や特定の団体などから支配や影響が及ばないよう、公権力からの独立性の確保、公共放送としての自主・自律は徹底すべきだ。

 公共放送の役割を規定した放送法が施行されたのは1950年で、67年を数える。最高裁判決を機に、時代の変化を踏まえ、受信料も含めて公共放送のあるべき姿を探る議論を深めてほしい。

 判決を受けて視聴者からは「支払いを義務付けるのであれば、幅広い年齢層の人が見たいと思える番組づくりを」との声も聞かれる。NHKにはこれまで以上に、国民の負託に応える質の高い番組制作に励むことを求めたい。

 

◉ 東京新聞(2017.12.7)

 NHK受信料 強制は時代に合うか

 NHKの受信料はテレビを設置したら支払い義務が生じる。最高裁大法廷はこれを「合憲」とする初判断をした。だが、今や技術革新が進む。昔ながらの方法・法規が時代に合うのか疑問にも思う。

 NHKは公共放送だから、受信料は払わねばならない。放送法六四条一項にはこうある。

 <受信設備を設置した者はNHKと受信についての契約をしなければならない>

 この規定は努力義務だろうか、それとも強制的な規定だろうか-。受信契約を拒む東京都内の男性は「強制を認めているとすれば、憲法が保障する『契約の自由』を侵害する」と主張していた。放送法の規定は確かに契約の自由の制限にあたるように読め、憲法の「財産権の保障」など、いくつかの条文とかかわってくる。

 最高裁は「国家機関から財政面で支配や影響がNHKに及ぶことのないよう(中略)広く公平に負担を求める」受信料の方式を述べたうえで、「適正・公平な受信料徴収の定め」として現行方式を「合憲」とした。初判断だ。

 契約したくない人は、どうしたらいいのだろうか。やはり契約は必要である。でも双方の「意思表示の合致」がないから、NHKが判決を求めて、その確定判決によって受信契約が成立する。そのような判示をした。

 だが、ちょっと待ってほしい。民放がなかった時代はテレビを設置した時点で契約義務があるという規定は意味を持っていただろう。NHKの契約とテレビの設置は同義だったからだ。その時代の遺物のような規定をまだ存続させる意義は薄れていまいか。

 現代はもはやパソコンで、スマートフォンでも番組が見られる。カーナビでもテレビは映る。技術は進んだ。契約者だけに番組受信ができるよう特殊な信号を乗せるスクランブル放送も可能だ。このような放送技術を使えば、受信料を払った視聴者だけに番組を提供することもできる。

 新しい時代にふさわしい受信料、視聴料とは何かをNHK自身が本気になって考えていかねばならないのではないか。

 公共放送とは何か、その存在意義についても、これまで以上に意識を深めてもらいたい。

 受信料拒否は、報道姿勢に疑問を持つ人もいるからでもあろう。権力とどう向き合うか。不偏不党とは政治から独立している意味である。権力をチェックする公共放送であってほしい。

 

◉ 新潟日報(2017.12.7)

 

 受信料「合憲」 公共放送の使命再認識を

 NHKの受信料制度が、憲法が保障する「契約の自由」に違反するかどうかが争われた訴訟の上告審で、最高裁大法廷は初めて「合憲」と判断した。
 被告の男性に受信料の支払いを命じた一、二審判決を支持し、双方の上告を棄却する判決を言い渡した。
 NHKの「公共放送の役割を果たすため、費用を公平に分担してもらう制度は合憲」との主張を認めた形だ。
 公共放送の公益性を重視したといえよう。NHKは公共放送として、良質な番組を提供し、自らの責任をきちんと果たさなければならない。
 訴訟は放送法64条の「受信設備を設置した者は受信契約を結ばなければならない」という規定の解釈が争点となった。
 判決はNHKと受信契約を結び、受信料を支払うのは法的義務だと判断した。
 契約成立については、NHKが未契約者を相手に裁判を起こし、勝訴が確定した時点と結論付けた。
 戦後のNHKは、表現の自由を確保し、民主主義を支える重要なメディアとして出発した。
 広告を収入の柱とし、広告主を意識せざるを得ない民放とは異なる性格を持つのは明白だ。
 だからこそ視聴率競争や利益追求と離れた、視聴者の信頼に足る良質な番組作りが期待されている。
 一方で、NHKの経営計画は国会の承認が必要なことから、政治との距離感に対する疑問の声がある。「政治に予算を人質に取られている」との指摘も上がっている。
 10月の衆院選報道を巡り、与党寄りではとの見方もあった。事実だとすれば問題である。
 政治家の意見に番組や放送の内容が左右されることはあってはならない。
 報道機関としてのNHKの大きな役割が権力のチェックにあることは論をまたない。
 とりわけ政治権力とは緊張関係を持って相対することを改めて求めたい。
 社会的弱者や社会問題に光を当てるドキュメンタリーや、文化、教養、教育、マイナースポーツなど民放では数少ない番組を評価する意見は少なくない。
 地震や台風などの災害では、NHKを視聴し、情報を得るという国民は多い。
 放送技術の研究開発は世界トップレベルだ。今後も強みを生かし、放送文化全体の向上に貢献してほしい。
 インターネットの発達に伴い、NHKはネットとの同時配信を検討している。受信料の徴収や民放との調整など慎重に対応していく必要があろう。
 役に立つ、知る権利に応える公共放送とするためにも視聴者はもっと叱咤(しった)激励の意見をぶつけていく必要があるだろう。
 NHKは番組審議会など市民参加の仕組みを充実させ、積極的に視聴者の意見を取り入れることが大切だ。
 視聴者の信用・信頼を高めることこそが公共放送の生命線であることを忘れてはならない。

 

 

◉ 信濃毎日新聞(2017.12.7)

 

 NHK受信料 合憲判決に慢心するな

 

 番組を見る、見ないにかかわらずテレビを設置した人に受信契約を結ぶよう求めるNHKの受信料制度について、最高裁大法廷が合憲の初判断を示した。徴収を強化して不払いを減らしたいNHKには追い風になる。
 最高裁も判決で言うように、受信料制度は国民の知る権利に奉仕する公共放送を契約者の負担によって維持するためにある。NHKは判決に慢心することなく、公正な報道と優れた番組づくりを通じて国民、視聴者に支持されるよう努力を尽くすべきだ。
 NHKが契約締結と受信料支払いを求めて東京都内の男性を相手に起こした裁判だ。訴訟では「受信設備を設置した者はNHKと受信契約を結ばなければならない」と定めた放送法64条1項の解釈が争点になった。
 規定は憲法が保障する「契約の自由」に反して違憲、と男性側は主張した。一審、二審はいずれもNHKの勝訴だった。
 最高裁は合憲と判断した理由について述べている。
 NHKの財政を受信料で支える仕組みは、憲法が保障する表現の自由の下、国民の知る権利を満たすために採用された。合理的で立法の裁量の範囲内にある、と。
 各国の公共放送を見ると、受信料の徴収に公的な強制措置を認めている国が多い。NHK受信料には罰則はない。公権力が関与する制度になっていない。
 NHK放送文化研究所の資料によると、受信料制度には連合国軍総司令部(GHQ)の意向が働いていたという。戦争に利用された放送を政府から切り離すために公権力を排除した。
 徴収に公権力が関与するようになると国営放送に一歩近づく。NHKはそうでなくても政治の介入圧力にさらされている。今の仕組みを簡単には手放せない。
 今回、仮に違憲判決が出ていたら、罰則付きの支払い義務化の議論が政府与党内で持ち上がるのは避けられなかっただろう。実際、自民党の検討チームは2年前、義務化と罰則導入を柱とする提言をまとめている。NHKの在り方は大きく変わる。
 問題はこれからだ。判決が受信料支払いを「法的義務」と明言したことが気にかかる。
 合憲のお墨付きを得て徴収が力ずくの色彩を強めるようでは、国民の理解は得られない。受信料制度が容認されるのは、経営姿勢と番組が視聴者、国民に支持される限りのことである。一層丁寧で謙虚な姿勢をNHKに求める。 

 

◉ 中日新聞(2017.12.7)

 

 NHK受信料 強制は時代に合うか

 

 NHKの受信料はテレビを設置したら支払い義務が生じる。最高裁大法廷はこれを「合憲」とする初判断をした。だが、今や技術革新が進む。昔ながらの方法・法規が時代に合うのか疑問にも思う。

 NHKは公共放送だから、受信料は払わねばならない。放送法六四条一項にはこうある。

 <受信設備を設置した者はNHKと受信についての契約をしなければならない>

 この規定は努力義務だろうか、それとも強制的な規定だろうか-。受信契約を拒む東京都内の男性は「強制を認めているとすれば、憲法が保障する『契約の自由』を侵害する」と主張していた。放送法の規定は確かに契約の自由の制限にあたるように読め、憲法の「財産権の保障」など、いくつかの条文とかかわってくる。

 最高裁は「国家機関から財政面で支配や影響がNHKに及ぶことのないよう(中略)広く公平に負担を求める」受信料の方式を述べたうえで、「適正・公平な受信料徴収の定め」として現行方式を「合憲」とした。初判断だ。

 契約したくない人は、どうしたらいいのだろうか。やはり契約は必要である。でも双方の「意思表示の合致」がないから、NHKが判決を求めて、その確定判決によって受信契約が成立する。そのような判示をした。

 だが、ちょっと待ってほしい。民放がなかった時代はテレビを設置した時点で契約義務があるという規定は意味を持っていただろう。NHKの契約とテレビの設置は同義だったからだ。その時代の遺物のような規定をまだ存続させる意義は薄れていまいか。

 現代はもはやパソコンで、スマートフォンでも番組が見られる。カーナビでもテレビは映る。技術は進んだ。契約者だけに番組受信ができるよう特殊な信号を乗せるスクランブル放送も可能だ。このような放送技術を使えば、受信料を払った視聴者だけに番組を提供することもできる。

 新しい時代にふさわしい受信料、視聴料とは何かをNHK自身が本気になって考えていかねばならないのではないか。

 公共放送とは何か、その存在意義についても、これまで以上に意識を深めてもらいたい。

 受信料拒否は、報道姿勢に疑問を持つ人もいるからでもあろう。権力とどう向き合うか。不偏不党とは政治から独立している意味である。権力をチェックする公共放送であってほしい。

 

◉ 神戸新聞(2017.12.7)

 

 NHK受信料/市民の「納得」得る努力を

 家にテレビを置けばNHKと受信契約を結び、受信料を支払わなければならないのか。

 最高裁の大法廷はきのう、受信契約を定める放送法を合憲とし、受信料支払いは「法的義務」との判断を初めて示した。

 理由として、「放送は表現の自由の保障の下で、国民の知る権利を充足し、民主主義の発達に寄与する」と述べた。

 NHKは公共放送で、国営放送ではない。視聴者が支えることで成り立つ。最高裁の判断は、公共放送の果たす役割を評価したものといえる。

 裁判は、受信契約を拒み続けた東京都の男性に対し、NHKが受信料約20万円の支払いを求めて起こした。NHKは放送法の規定を盾に支払い義務を主張。一方、男性側は「法的拘束力のない努力規定。憲法にも違反する」と訴えた。一、二審は男性に支払いを命じており、最高裁の判断が注目された。

 収入の9割以上を占める受信料の支払いについて、NHKは従来、視聴者に任意でお願いする形を取っていた。それが放送法を盾にして強硬姿勢に転じたのは、支払い拒否が広がったためだ。

 2004年に制作費の不正支出などが相次ぎ、受信料の支払率は一時、70%を切った。不祥事への抗議が相当数、含まれていたことは間違いない。

 その後も、前会長の政治的中立性を欠く発言などで、視聴者から抗議の声がたびたび寄せられた。4年前に記者が過労死した問題では長い間、事実を公表せず、遺族の要求で今秋、ようやく明らかにした。

 支払率は現在、約80%にまで回復し、3年連続で過去最高を更新した。これは信頼回復に努めた結果なのか、法的措置の効果なのか。NHKは自らの胸に問い直すべきだろう。

 判決は視聴者が受信契約を承諾しない場合は、NHKが裁判を起こすことを認めた。とはいえ、まずは理解を得られるよう努めることが望ましいとする。

 民主主義を守るために、市民が公共放送を支える。NHKには権力の横やりに屈せず、一貫して市民の権利を守る側に立つ姿勢が求められる。「なるほど」と視聴者の納得を得られるよう努めるべきだ。

◉ 中国新聞(2017.12.7)

 NHKの受信料制度は「合憲」—。最高裁大法廷はきのうこの制度に初判断を下した。
 受信契約を結ぶことを拒んだ東京都の男性に対し、NHKが受信料支払いを求めた裁判の上告審判決である。国民が公平に財源を負担して支えるという制度の合理性を司法が認めたことになる。NHKの公共性に重きを置いた判断なのだろう。

 「放送が偏っている」との理由で契約を断り、NHKに提訴された男性側は、「契約の強制は契約の自由を侵害し、違憲である」と主張してきた。一方のNHK側は「公共放送の役割を果たすため、費用を公平に分担してもらう制度は合憲」と反論してきた。
 判決を受け、NHKは「主張が認められたと受け止めている」とコメントした。ならばNHKは自らの「公共放送としての役割」を問い直し、襟を正す契機にせねばなるまい。

 訴訟に発展した受信料不払いの背景には、NHKへの不信感があるからだ。職員の番組制作費詐取事件など不祥事が相次いで発覚した2004年以降、支払い拒否が急増した。信頼を裏切ったのだから当然だろう。

 しかしNHKは、公共放送の役割を見つめ直し、姿勢を改める前に徴収強化を優先したのである。任意で契約を求めてきた方針を転換した。06年からは、受信契約を結んだものの支払いが滞っているケースに、09年からは末契約の場合でも法的措置を取り始めた。これまで約4300件が訴訟になっているという。受信料を徴収するために知恵を絞るのは分かるが、不払いの背景を検証して信頼を取り戻す努力が先ではないか。
 不信は金銭絡みの不祥事によるものだけではない。過去には番組への政治介入も指摘された。前会長が「政府が右と言うものを左と言うわけにはいかない」と述べたのも問題視された。NHKと政治は、常に緊張感を保つべき関係のはずだ。

 受借料に支えられる公共放送なのだから、本来は視聴者の支持を背に権力の介入も拒める。「国営放送」ではなく、市民のために権力を監視する役割を肝に銘じてほしい。
 民間放送の定番であるバラエティー番組などが、少なからず放送されているのも気になる。NHKの昨年度の事業収入は7千億円余りで、およそ96%が受信料だという。民放の倍以上に上る潤沢な財源にものをいわせ、放映権に巨費がかかるであろう各種スポーツ中継なども拡大させている。公共性を見失っていないだろうか。

 最高裁は受信料について、テレビの設置時にさかのぼって支払い義務があるとした。視聴の対価ではなく、公共放送を支えるための負担金と考えられているからだろう。多様な意見が交わされる公共空間を支える社会的コストという見方である。

 それならば受借料を支払う視聴者が経営に関与できるよう組織の在り方も見直すべきだ。

 NHK放送文化研究所の15年の調査では、20代の16%は平日にほとんど、あるいは全くテレビを見ないという。ワンセグ機能付き携帯電話が受信設備かどうかを争う訴訟も続く。

 情報へのアクセスも変わりつつある今、公共放送や受信料制度はこのままでいいのか。再検証する時期に来ている。

 

◉ 西日本新聞(2017.12.8)

 

 NHK受信料 問われる公共放送の使命

 テレビを設置したら支払い義務が生じるNHKの受信料制度は、合憲である。そんな判断を最高裁大法廷が初めて下した。

 広告収入に支えられる民放と異なるNHKに、国家権力や特定の個人・団体から不当な影響が及ばないようにし、国民の知る権利や表現の自由を守るためには、テレビ設置者が公平に負担する受信料は不可欠との判断だ。

 報道機関の権力などからの独立という視点でみれば正論であり、妥当な考え方と言えるだろう。

 ただし、翻ってNHKの現状をみればどうか。多様な国民が広く費用を負担するにふさわしい番組を提供しているか-。公共放送の在り方も問い直す必要がある。

 裁判は「放送内容が偏っている」などとして受信契約を拒否する東京都の男性に対して、NHKが受信料の支払いを求め提訴した。

 男性側は「受信設備(テレビ)を設置した者はNHKと受信契約を結ばなければならない」と定める放送法64条について「法的拘束力のない努力規定」として、支払いの強制は契約の自由を侵害し違憲だと訴えていた。

 判決で最高裁は、受信料制度とともに、裁判に訴えて受信料の支払いを求めるNHKの姿勢にも“お墨付き”を与えた。

 契約拒否は900万件、契約した上での不払いは100万件に上る。職員の不祥事が続いた2004年以降、急増しているという。

 視聴者の不信はそれにとどまらない。戦争や選挙を扱う番組の制作を巡り、政治の介入や局幹部の忖度(そんたく)がしばしば指摘される。籾井勝人前会長の「政府が『右』と言うものを『左』と言うわけにはいかない」との発言は象徴的だ。

 秀逸なドキュメンタリーなど「さすがNHK」と感心させられる一方、民放の娯楽番組と区別のつかないような放送も散見される。

 NHKの16年度事業収入のうち受信料は6769億円で全体の約96%を占める。受信料で支える視聴者に正面から向き合う良質な番組づくりこそ、公共放送としてのNHKに求められる使命だろう。

◉ 南日本新聞(2017.12.8)

 [受信料「合憲」] NHKは責任の自覚を

 NHKの受信料制度が「契約の自由」を保障する憲法に違反するかどうかが争われた裁判で、最高裁大法廷は合憲とする初めての判断を示した。
 主な争点は「受信設備を設置した者はNHKと受信契約を結ばなければならない」とする放送法の規定をどう解釈するかだった。
 大法廷はNHKを「公共の福祉のための放送」と位置づけ、「受信料制度は憲法が保障する表現の自由や知る権利に資する合理的な仕組みだ」と結論づけた。
 受信料の支払いを事実上の法的義務とし、NHKにお墨付きを与えた判決といえる。
 だが、制度はあくまで国民の幅広い支持や理解がなければ成り立たない。NHKは公共放送としての役割や責任の重さを自覚し、これまで以上に良質な番組作りに努めるべきだ。
 今回、NHKが提訴したのは2006年からテレビがあるのに受信料支払いを拒否した男性だ。「放送法の規定は努力義務なので支払う必要がない」と主張した。
 これに対してNHKは広告収入がなく、国家や特定のスポンサーから独立した形で安定的な財源を確保するには、受信料制度が不可欠と訴えてきた。
 大法廷の判断は放送法をめぐる長年の論争に終止符を打ち、受信料支払いは事実上、拒否できないことになった。
 とはいえ、これで一件落着とはいかない。
 不払いが急増したのは、NHK職員の番組制作費の着服など不祥事の発覚が相次いだ04年以降だ。政治介入が疑われた番組制作や、政治との距離感を欠いたNHK前会長の言動も記憶に新しい。
 不払い問題には、視聴者の異議申し立てという側面はないだろうか。NHKは公権力からの独立性を確保するなど公共放送の義務を果たすことを肝に銘じてもらいたい。
 全国で受信料を支払っているのは16年3月時点で3612万世帯で、未契約世帯は900万超とされる。今後もどうしても説得に応じない場合は裁判を起こすことになるが、「弱い個人を狙い撃ちにしている」という声があることも忘れてはなるまい。
 インターネットの普及でメディアを取り巻く環境は激変し若者のテレビ離れが進む。ネットで視聴する人から受信料を徴収するかどうかも議論になっている。
 時代の変化を踏まえ、公共放送の姿はどうあるべきかは大きな論点だ。最高裁やNHKが決めるのではなく、社会全体で議論を深める必要がある。

 

◉ 高知新聞(2017.12.7)

 【NHK受信料】国民の信頼をまず高めよ

 

 テレビを設置しただけでNHKに受信料を支払う必要があるのか―。これまでも訴訟や学界で論争になってきた問題に、最高裁大法廷が初の憲法判断を示した。
 きのう、受信契約を拒否した男性にNHKが受信料の支払いを求めた訴訟の上告審判決があった。大法廷は、NHKと受信契約を結び、受信料を支払うのは法的義務であり、「合憲」とした。
 現行の受信料制度に司法が一定の「お墨付き」を与えたことになる。同様の訴訟や今後の徴収業務にも大きな影響を及ぼしそうだ。
 現状で受信料を支払ってない世帯は2割に上るという。支払った側から「不公平だ」との声が上がるのは当然だ。
 公平な負担を実現したい。気掛かりなのは最高裁判決を根拠に訴訟が増えたり、支払いを法で義務化する動きが強まったりしないか、だ。
 国民の信頼を得て、進んで支払う世帯が増えるのが本来の公共放送の姿であろう。徴収権限を振りかざすことがあってはなるまい。最高裁判決を見誤ってはならない。
 放送法は、受信装置を設置した場合はNHKと受信契約を結ばなければならないと定めている。受信料の支払い義務までは明記していないため、不払いを生んできた。
 訴訟で男性側は、放送法の規定は「法的拘束力のない努力規定。受信料を支払う必要はない」と主張。受信契約を強制することは、「契約の自由」を保障する憲法に反すると訴えていた。
 公共放送は災害時などに重要な役割を担う。安定した経営で質の高い放送を実現するために維持費を公平に分担するのは意義があろう。大法廷は、国民の知る権利を充足する目的にかなう合理的な仕組みで、憲法上許容されるとした。
 テレビの受信環境は、ワンセグ付き携帯電話やカーナビ、テレビ付き賃貸アパートの出現など多様化している。支払い義務の司法判断も分かれているのが実態だ。
 インターネットで視聴する人から受信料を徴収できるかどうかも論議になっている。受信料を巡る論争は今後も続くとみられる。
 人口減少や若者のテレビ離れも、NHKの経営にとっては現実的な課題といえる。こうした時代の変化にNHKにまず求められるのは、国民からの信頼を高めることだ。
 NHKは十数年前から、番組制作費の詐欺事件や職員の逮捕などが続いている。受信料の不払いと無関係ではあるまい。
 トップが「政府が右と言っているものを、われわれが左と言うわけにはいかない」と発言し、「政治との距離」が取り沙汰されたこともある。公共放送の独立性や中立性を揺るがすものだ。
 公平負担を徹底するなら、NHK自身が信頼回復に努め、公共放送の理想を追求していかなければならない。経営の効率化や透明性に力を入れるのも当然である。

 

 

◉ 佐賀新聞「論説」(2017.12.8)

 NHK受信料最高裁判決 あるべき姿探る契機に

 

 NHKの受信料制度は契約の自由を保障した憲法に反するかどうかが争われた訴訟の上告審判決で、最高裁大法廷は「合憲」とする初の判断を示した。テレビがあるのに受信契約を拒む男性にNHKが支払いを求めて提訴。「受信設備を設置した者はNHKと受信契約を結ばなければならない」と定める放送法の解釈が主な争点になった。

 契約の強制は契約の自由への重大な侵害と男性側は主張したが、最高裁は公共放送としてのNHKの役割を重視。その財政的基盤を広く負担してもらう仕組みについて「憲法が保障する表現の自由の下で国民の知る権利を実質的に充足すべく採用され、合理的なものと解される」と述べた。

 支払いを事実上の法的義務と位置付けて、NHKに“お墨付き”を与えた形だ。徴収業務や契約・支払いを求める裁判に及ぼす影響は大きい。ただインターネットの普及により若者のテレビ離れが進むなどメディアを取り巻く環境が激変する中、ネットのみの視聴者からも受信料を徴収しようという動きには厳しい視線が向けられている。

 民放からは「NHKの肥大化」を危ぶむ声も出ている。公共放送の役割を規定した放送法が施行されたのは1950年のことだ。最高裁判決を契機に時代の変化を踏まえ、受信料も含め公共放送のあるべき姿を探る議論を深める必要がある。

 NHKによると、2016年3月末の時点で受信契約の対象は全国で4621万世帯。このうち3709万世帯は契約を結んでおり、3612万世帯が受信料を支払っている。支払率は78・2%で、過去最高だった。16年度決算では事業収入7073億円のうち受信料収入は6769億円と95・7%を占めている。

 未契約世帯は900万を超える。受信料収入に頼るNHKは戸別訪問で説得を重ね、どうしても応じてもらえない場合には裁判を起こすことになるが、今回の判決は追い風となろう。とはいえ、これまでにも「弱い個人を狙い撃ちにしている」といった声があったことを忘れてはなるまい。

 判決も「NHKが理解を得られるよう努め、契約が締結されることが望ましい」としている。

 そんな中、気になるのは有識者から成るNHK会長の諮問機関が今年9月、支払率を上げるためNHKが契約を確認できない家屋の居住情報を電力会社やガス会社に照会できる制度の検討などを答申したことだ。放送法改正が必要だが、本人の同意がなくても個人情報を扱えるようになる。

 NHKが支払率の向上に知恵を絞るのは当然としても、そのような制度に理解を得られるか慎重に見極めた方がいい。

 この諮問機関はNHKが19年度開始を目指す番組のネット常時同時配信を巡り、テレビを持たずネットのみを利用する世帯への受信料課金に「一定の合理性がある」などとする答申もまとめている。民放が反発し、NHKは配信開始時、ネット世帯に新たな費用負担を求めない方針を表明したが、ゆくゆくは実現させたい考えとみられる。

 ネットにも公共放送は必要か、民放の経営を圧迫しないかといった視点からも検討を加えることが求められよう。ワンセグ機能のある携帯電話を持つ人から受信料を徴収できるかでも争いは続いており、公共放送の在り方を巡る論点は尽きない。

 

 

◉ 熊本日日新聞(2017.12.8)

 

 NHK受信料判決 視聴者の理解得る責任も

 

 NHKの受信料制度が「契約の自由」を保障する憲法に違反するかどうかが争われた訴訟の上告審判決で、最高裁大法廷は公共放送としての役割を重視し、制度は合憲だとする初の判断を示した。
 議論のあった制度の法的性格を明確にし、NHKに“お墨付き”を与えた形だ。一方で、判決が重視した「公共性」は国民の支持がないと成り立たない。NHKに対して視聴者の理解を得るという重い責任も課したと言える。視聴者に事実上、受信料の支払いを義務付けるのであれば、質の高い番組作りはもちろん、健全経営への取り組みも一層求められよう
 裁判は、受信契約を拒んだ東京都の男性に受信料の支払いを求めてNHKが提訴。焦点は「受信設備を設置した者はNHKと受信契約を結ばなければならない」とする放送法64条1項の解釈だった。
 男性側は努力義務なので支払う必要がないと主張。NHKは、公共放送の役割を果たすため公平に費用を分担してもらう受信料制度は合理的と反論していた。
 最高裁は、受信料制度について「NHKに国家機関などからの影響が及ばないようにし、広く公平に負担を求める仕組みだ」として、64条1項は契約を強制する規定だと判断。憲法が保障する表現の自由や国民の知る権利に資する合理的仕組みだと指摘した。
 契約の成立時期については、NHKの主張する契約を求める通知書が届いた時点ではなく、「双方の意思表示の合致が必要」とし、NHKが訴訟を起こして勝訴が確定した時と判断。テレビを設置した時にさかのぼって受信料の支払い義務があるとした。
 NHKは広告収入を柱とする民放と違い、収入の大半を受信料に依存する。不払い世帯には戸別訪問などで理解を求めてきたが、制作費の着服や幹部職員のカラ出張などの不祥事が表面化した2004年以降、支払い拒否が増えた。
 都市部を中心に約2割の世帯が未払いとされ、近年は法的措置を取る姿勢を強めている。今回の最高裁判断を受け、NHKにとっては催促しやすい環境になるだろうが、強引な手法で問題解決を図るのは公共放送を担う組織として相いれないのではないか。
 受信料を巡っては、携帯電話のワンセグ機能がテレビと同じ扱いでいいかを争点にした訴訟も続いている。パソコンやスマートフォンなどインターネット経由で放送サービスを利用できる端末機器が普及する中、テレビ設置を前提とする現行制度には限界が見えつつある。
 最高裁判決はこうした問題には触れていないが、今後、ネット社会という時代の変化に対応した統一的な判断も必要となろう。
 訴訟の背景には「放送内容が偏っている」との疑念が男性側にあったことを忘れてはなるまい。放送の不偏不党などをうたった放送法第1条を踏まえた報道姿勢かどうか。今のNHKが全面的に肯定されているわけではない。公共放送のあるべき姿も問われている。

 

 

◉ 沖縄タイムス(2017.12.7)

 

 [NHK受信料「合憲」]知る権利の実現が責務

 

 NHKの受信料制度が「契約の自由」を保障する憲法に違反するかどうかが争われた訴訟の上告審判決で、最高裁大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)は6日、合憲との初判断を示した。「放送内容が偏っている」などとしてNHKとの受信契約を拒否した男性の主張は退けられた。
 放送法64条1項は「受信設備を設置した者はNHKと受信契約を結ばなければならない」と規定。その解釈が最大の争点だった。
 寺田裁判長は受信料制度について「NHKに国家機関などからの影響が及ばないようにし、広く公平に負担を求める仕組みだ」として同項は契約を強制する規定とし、「制度は国民の知る権利を充足するために採用され、表現の自由を確保するという放送法の目的を達成するために必要で合憲」と判断した。
 公共放送としてのNHKの役割を重視したものだ。国民の知る権利に応えているのかどうか、NHKの姿勢が問われているともいえる。
 これまでNHKではたびたび政治との距離を疑わせる報道姿勢が問題となってきた。人事や予算の承認権を国会に握られていることとも無関係ではないだろう。
 従軍慰安婦を巡る番組が放送前に政治的圧力で改変されたと指摘された問題や、安倍晋三首相に近いNHK前会長が領土問題で「政府が『右』と言うものを『左』と言うわけにはいかない」、特定秘密保護法には「(法案が)通ったので、もう言ってもしょうがないんじゃないか」などと発言したことは記憶に新しい。
■ ■
 NHKは政府から独立し、自主性を維持するために受信料によって運営されている。自らの役割を「特定の利益や視聴率に左右されず」とうたうように、政府から独立した公共放送であることを改めて肝に銘じなければならない。
 判決はNHKが主張していた「受信契約を申し込んだ時点で自動的に契約が成立する」ことは退けた。
 契約締結はNHKの勝訴が確定した時点とし、契約拒否者から受信料を徴収するためには、今後も個別に裁判を起こさなければならない。
 安易な徴収強化にはブレーキをかけた判決とみることができる。
 さらに判決には「テレビ設置者の理解を得て契約を結び」とある。公共放送は国民の理解があってこそ成り立つということである。NHKは最高裁から受信料徴収の「お墨付き」を得たが、逆に国民理解という重い責務を負った。
■ ■
 放送法が施行されたのは1950年。NHK放送文化研究所の2015年の世論調査によると、平日に「全く」「ほとんど」テレビを見ない20代は5年前の8%から16%に倍増した。高齢者もネットに費やす時間が増え、テレビを巡る環境は激変している。
 ワンセグ付き電話が「受信設備の設置」に当たるのかどうかなど、NHKの受信料に関してはさまざまな訴訟が各地で起こされ、判断も分かれている。
 今回の判決は受信設備の「設置」の定義に言及しておらず、統一判断が必要となろう。

​③ 判決

 

 

 

主  文

本件各上告を棄却する。 

各上告費用は各上告人の負担とする。

 

理  由 

 第1 事案の概要 

 1 本件は、平成26年(オ)第1130号・同年(受)第1440号被上告人 兼同年(受)第1441号上告人(以下「原告」という。)が、原告の放送を受信することのできる受信設備(以下、単に「受信設備」ということがある。)を設置 していながら原告との間でその放送の受信についての契約(以下「受信契約」という。)を締結していない平成26年(オ)第1130号・同年(受)第1440号上告人兼同年(受)第1441号被上告人(以下「被告」という。)に対し、受信料の支払等を求める事案である。 

 2 原審の適法に確定した事実関係の概要等(公知の事実を含む。)は、次のとおりである。 

 (1) 放送法に基づく原告に係る制度の概要等 

  ア 原告は、放送法により設立された法人であり(同法16条)、「公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるように豊かで、かつ、良い放送番組による国内基幹放送(中略)を行うとともに、放送及びその受信の進歩発達に必要な業務を行い、あわせて国際放送及び協会国際衛星放送を行うこと」(同法15 条)を目的としている。 

  イ 放送法施行前(以下「旧法下」という。)においては、我が国では、大正15年に社団法人日本放送協会が設立された後は、同協会のみが放送を行っていたところ、放送の受信設備(聴取無線電話)は、政府の監理統制する無線電話の一種として、無線電信法2条により、その設置に主務大臣の許可を要することとされていた。そして、放送用私設無線電話規則13条により、放送の受信設備の設置の許可を受けるためには、許可願書と共に放送施設者(社団法人日本放送協会)に対する聴取契約書を差し出さなければならないものとされていた。また、無線電信法には、許可なく無線電話等を設置した者に対する罰則規定も設けられていた。このような制度の下で、放送の受信設備を設置した者は、聴取契約に基づいて社団法人日本放送協会に聴取料を支払い、同協会は、聴取料を基本的な財源として放送事業を 行っていた。 

 上記の無線電話の設置の許可基準は法定されておらず、また、放送事業は、政府の監督下に置かれ、番組内容についても、検閲等の取締りが行われていた。 

  ウ 昭和25年に、電波法、放送法及び電波監理委員会設置法が制定・施行され るとともに、無線電信法が廃止され、放送の受信設備の設置に許可を要しないこととなった。そして、放送法は、我が国における放送事業につき、「公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるように放送を行うことを目的とする」 (制定当時の放送法7条)公共放送事業者によるものと、それ以外の一般放送事業者(同法第3章。以下「民間放送事業者」という。)によるものとの二本立て体制を採ることとし、前者を、社団法人日本放送協会の財産をそのまま引き継いで同法により設立される特殊法人である原告に担わせることとして、原告の業務、運営体制等に関する規定(同法第2章)を設けた。なお、原告の目的、業務、運営体制等に関する規定については、その後数次の改正がされ、現在は、後記カのとおりとな っているが、公共の福祉のために放送を行うことが原告の基本的な目的とされ、その目的を達成するための業務内容が法定されていること、原告の最高意思決定機関として経営委員会が設けられ、その委員の任命方法、資格要件等につき後記カのような定めがあること、原告を代表しその業務を総理する会長は経営委員会により任命され、原告の重要業務の執行について審議する理事会等が設けられていること、原告の収支予算等、業務報告書及び財産目録等は内閣を経て国会に提出等されるものとなっていることなど、基本的なものは、制定当時から定められていた。 

 放送法制定の際の国会審議においては、このような二本立て体制を採ることにつき、政府委員から、「わが国の放送事業の事業形態を、全国津々浦々に至るまであまねく放送を聴取できるように放送設備を施設しまして、全国民の要望を満たすような放送番組を放送する任務を持ちます国民的な公共的な放送企業体と、個人の創意とくふうとにより自由闊達に放送文化を建設高揚する自由な事業としての文化放送企業体、いわゆる一般放送局または民間放送局というものでありますが、それとの二本建としまして、おのおのその長所を発揮するとともに、互いに他を啓蒙し、おのおのその欠点を補い、放送により国民が十分福祉を享受できるようにはかっているのでございます。」(昭和25年1月24日第7回国会衆議院電気通信委員会 議録第1号20頁)などとする説明がされている。 

  エ 原告の事業運営の財源に関し、放送法は、原告の放送を受信することのできる受信設備を設置した者(以下「受信設備設置者」という。)が支払う受信料によって賄うこととして、「協会の標準放送(中略)を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。」 (制定当時の放送法32条1項本文)と規定し、原告が営利を目的として業務を行うこと及び他人の営業に関する広告の放送をすることを禁止した(同法9条3項、 46条1項)。現行の放送法64条1項本文は、上記の制定当時の放送法32条1項本文の規定を引き継いだものである(以下、制定当時の放送法32条1項と現行の放送法64条1項とを区別せず「放送法64条1項」ということがある。)。 

 放送法に、受信設備設置者は原告と受信契約を締結しなければならない旨の規定を設けることについて、同法制定の際の国会審議においては、政府委員から、「受信機の許可ということをはずしたのであります。そうなって参りますと、一方において無料の放送ができて来るということになると、日本放送協会がここに何らか法律的な根拠がなければ、その聴取料の徴収を継続して行くということが、おそらく不可能になるだろうということは予想されるのでありまして、ここに先ほどお話いたしましたように、強制的に国民と日本放送協会の間に、聴取契約を結ばなければならないという条項が必要になって来る。」(昭和25年2月2日第7回国会衆議 院電気通信委員会議録第4号6頁)などとする説明がされている。 

  オ 放送法は、昭和25年5月2日に公布され、一部の附則を除き同年6月1日 から施行された。昭和26年9月には、民間放送事業者による放送(以下「民間放送」という。)が開始され、民間放送は広告収入等を財源として行われ、受信設備設置者は、民間放送事業者に対する金銭的な負担なく、民間放送を受信することができることとなった。 

  カ 原告の目的、業務、運営体制等に関する規定は、放送法制定後数次にわたり改正がされ、現在の原告の目的、業務、運営体制等の概要は、次のとおりである。 

  (ア) 前記アのとおり、原告は、あまねく日本全国において受信できるように国内基幹放送を行うことをその目的の一つとしており(放送法15条)、総務大臣の認可を受けなければ、その基幹放送局若しくはその放送の業務を廃止し、又はその放送を12時間以上休止することができない(同法86条1項)。また、原告は、災害対策基本法における指定公共機関として、国等による防災計画の作成及び実施が円滑に行われるように協力する責務を有する(同法2条5号、6条、昭和37年総理府告示第26号)。原告は、豊かで、かつ、良い放送番組による国内基幹放送を行うこともその目的としており(放送法15条)、公衆の要望を満たすとともに文化水準の向上に寄与するように最大の努力を払うこと(同法81条1項1号)、全国向けの放送番組のほか地方向けの放送番組を有するようにすること(同項2号)、我が国の過去の優 れた文化の保存並びに新たな文化の育成及び普及に役立つようにすること(同項3 号)が求められている。そして、原告は、公衆の要望を知るために世論調査を行うことを義務付けられている(同条2項)。 

 原告の目的には、放送及びその受信の進歩発達に必要な業務を行うことも含まれ(放送法15条)、原告は、放送及びその受信の進歩発達に必要な調査研究を行うことをその業務としている(同法20条1項3号)。 

 さらに、原告の目的には、国際放送等を行うことも含まれており(放送法15 条)、原告は、邦人向け国際放送及び外国人向け国際放送を行うことなどもその業務としている(同法20条1項4号、5号)。 

  (イ) 原告の運営体制については、経営に関する基本方針等の重要な意思決定等を行う機関である経営委員会が設けられ(放送法第3章第3節)、その委員は、公共の福祉に関し公正な判断をすることができ、広い経験と知識を有する者のうちから、両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命することとし、その選任については、教育、文化、科学、産業その他の各分野及び全国各地方が公平に代表されることを考慮しなければならないものとされ、政治的中立性及び特定の利害からの独立 性を確保するための欠格事由が定められている(同法31条)。 

 原告を代表し、経営委員会の定めるところに従いその業務を総理する会長は、経営委員会がこれを任命するものとし、経営委員会の同意を得て会長が任命する副会長及び理事が置かれ(放送法51条、52条)、これらの者によって理事会が構成され、理事会は、定款の定めるところにより、原告の重要業務の執行について審議する(同法50条)。また、役員の職務の執行を監査する監査委員会が設けられ(同法第3章第4節)、監査委員は、経営委員会の委員の中から経営委員会により任命されることとなっている(同法42条)。

 

  (ウ) 原告の財務及び会計については、原告は、毎事業年度の収支予算、事業計画及び資金計画、業務報告書並びに財産目録、貸借対照表及び損益計算書等の財務諸表を作成し、総務大臣に提出しなければならないものとされ、これらは、内閣を経て国会に提出等されることとなっている(放送法70条1項、2項、72条1項、2項、74条1項から3項まで)。 

  (エ) 原告の事業運営の基本的な財源は、前記エのとおり、受信設備設置者が受信契約に基づき支払う受信料(放送法64条)であり、原告は、営利を目的として業務を行うこと及び他人の営業に関する広告の放送をすることを禁止されている(同法20条4項、83条1項)。 

 受信料の月額は、国会が、原告の毎事業年度の収支予算を承認することによって定めるものとされている(放送法70条4項)。 

 原告は、受信契約の条項については、あらかじめ総務大臣の認可を受けなければならないものとされ(放送法64条3項)、総務大臣は、受信契約条項の認可について電波監理審議会に諮問しなければならないものとされている(同法177条1項2号)。そして、放送法施行規則23条は、受信契約の条項には、少なくとも、受信契約の締結方法(1号)、受信契約の単位(2号)、受信料の徴収方法(3号)、受信契約者の表示に関すること(4号)、受信契約の解約及び受信契約者の名義又は住所変更の手続(5号)、受信料の免除に関すること(6号)、受信契約の締結を怠った場合及び受信料の支払を延滞した場合における受信料の追徴方法(7号)、原告の免責事項及び責任事項(8号)、契約条項の周知方法(9号)を定めるものと規定している。 

  キ 原告は、「日本放送協会放送受信規約」(以下「放送受信規約」という。)を策定し(放送法29条1項1号ヌにより、受信契約の条項は、経営委員会の議決事項とされている。)、同法64条3項に従いあらかじめ総務大臣の認可を受けて、これを受信契約の条項として用いている。 

 放送受信規約には、次の内容の条項が含まれている(放送受信規約は、受信契約の種別、受信料額及びその支払方法の変更等による改定が重ねられており、本件に関わる時期において改定されているものについては、時期を区別して記載す る。)。 

  (ア) 受信契約の種別(第1条)


  ① 平成17年4月1日から平成19年9月30日まで 

  受信設備のうち、衛星系によるテレビジョン放送を受信することのできるカラーテレビジョン受信設備を設置した者は、衛星カラー契約(衛星系及び地上系によるテレビジョン放送のカラー受信を含む受信契約)を締結しなければならない。
  ② 平成19年10月1日以降 

  受信設備のうち、衛星系によるテレビジョン放送を受信することのできるテレビジョン受信設備を設置した者は、衛星契約(衛星系及び地上系によるテレビジョン放送の受信についての受信契約)を締結しなければならない。 

  (イ) 受信料支払の義務(第5条) 

  受信契約者は、受信設備の設置の月から、1の受信契約につき、次の額の受信料 (消費税及び地方消費税を含む。)を支払わなければならない。 

  ① 平成17年4月1日から平成19年9月30日まで 

  衛星カラー契約については、訪問集金(口座振替等以外の方法による支払)では月額2340円。 

  ② 平成19年10月1日から平成20年9月30日まで 

  衛星契約については、訪問集金では月額2340円。
  ③ 平成20年10月1日から平成24年9月30日まで 

  衛星契約については、月額2290円。 

  ④ 平成24年10月1日以降 

  衛星契約については、継続振込その他の方法による支払(口座振替又はクレジッ トカード等継続払を除く。)では月額2220円。 

  (ウ) 受信料の支払方法(第6条)

 

 受信料の支払は、次の各期に、当該期分を一括して行わなければならない。 

  第1期 4月及び5月 

  第2期 6月及び7月 

  第3期 8月及び9月 

  第4期 10月及び11月 

  第5期 12月及び1月 

  第6期 2月及び3月 

  ク 放送法施行後60年以上にわたり、原告は、同法に基づき業務を行ってきたが、近時に至るまで、受信契約の締結に応じない者に対して本件訴訟におけるような強制的な手段に及ぶことはなく、受信設備設置者との間で任意に締結された受信契約に基づいて受信料を収受してきた。原告が推計し公表するところによれば、受信契約の契約率は、平成28年度末において約8割である。 

 (2) 被告による受信設備の設置等 

  被告は、平成18年3月22日以降、その住居に、原告の衛星系によるテレビジョン放送を受信することのできるカラーテレビジョン受信設備を設置している。 

  原告は、平成23年9月21日到達の書面により、被告に対し、受信契約の申込みをしたが、被告は、上記申込みに対して承諾をしていない。 

 

 3 原告の請求は、被告に対し、1主位的請求として、放送法64条1項により、原告による受信契約の申込みが被告に到達した時点で受信契約が成立したと主 張して、受信設備設置の月の翌月である平成18年4月分から平成26年1月分ま での受信料合計21万5640円の支払を求め、2予備的請求1として、被告は同項に基づき受信契約の締結義務を負うのにその履行を遅滞していると主張して、債務不履行に基づく損害賠償として上記同額の支払を求め、3予備的請求2として、被告は同項に基づき原告からの受信契約の申込みを承諾する義務があると主張して、当該承諾の意思表示をするよう求めるとともに、これにより成立する受信契約に基づく受信料として上記同額の支払を求め、4予備的請求3として、被告は受信契約を締結しないことにより、法律上の原因なく原告の損失により受信料相当額を利得していると主張して、不当利得返還請求として上記同額の支払を求めるもので ある。 

 これに対し、被告は、放送法64条1項は、訓示規定であって、受信設備設置者に原告との受信契約の締結を強制する規定ではないと主張し、仮に同項が受信設備設置者に原告との受信契約の締結を強制する規定であるとすれば、受信設備設置者の契約の自由、知る権利、財産権等を侵害し、憲法13条、21条、29条等に違反すると主張するほか、受信契約により発生する受信料債権の範囲を争うととも に、その一部につき時効消滅を主張して争っている。 

 

 第2 平成26年(オ)第1130号・同年(受)第1440号上告代理人高池勝ほかの上告理由及び上告受理申立て理由第2の4並びに平成26年(受)第1441号上告代理人永野剛志ほかの上告受理申立て理由について 

 1 放送法64条1項の意義 

 (1)ア 放送は、憲法21条が規定する表現の自由の保障の下で、国民の知る権利を実質的に充足し、健全な民主主義の発達に寄与するものとして、国民に広く普及されるべきものである。放送法が、「放送が国民に最大限に普及されて、その効用をもたらすことを保障すること」、「放送の不偏不党、真実及び自律を保障する ことによって、放送による表現の自由を確保すること」及び「放送に携わる者の職責を明らかにすることによって、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること」という原則に従って、放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることを目的として(1条)制定されたのは、上記のような放送の意義 を反映したものにほかならない。 

 上記の目的を実現するため、放送法は、前記のとおり、旧法下において社団法人日本放送協会のみが行っていた放送事業について、公共放送事業者と民間放送事業者とが、各々その長所を発揮するとともに、互いに他を啓もうし、各々その欠点を補い、放送により国民が十分福祉を享受することができるように図るべく、二本立て体制を採ることとしたものである。そして、同法は、二本立て体制の一方を担う公共放送事業者として原告を設立することとし、その目的、業務、運営体制等を前記のように定め、原告を、民主的かつ多元的な基盤に基づきつつ自律的に運営される事業体として性格付け、これに公共の福祉のための放送を行わせることとしたものである。 

 放送法が、前記のとおり、原告につき、営利を目的として業務を行うこと及び他人の営業に関する広告の放送をすることを禁止し(20条4項、83条1項)、事業運営の財源を受信設備設置者から支払われる受信料によって賄うこととしている のは、原告が公共的性格を有することをその財源の面から特徴付けるものである。すなわち、上記の財源についての仕組みは、特定の個人、団体又は国家機関等から財政面での支配や影響が原告に及ぶことのないようにし、現実に原告の放送を受信するか否かを問わず、受信設備を設置することにより原告の放送を受信することのできる環境にある者に広く公平に負担を求めることによって、原告が上記の者ら全体により支えられる事業体であるべきことを示すものにほかならない。 

 原告の存立の意義及び原告の事業運営の財源を受信料によって賄うこととしている趣旨が、前記のとおり、国民の知る権利を実質的に充足し健全な民主主義の発達に寄与することを究極的な目的とし、そのために必要かつ合理的な仕組みを形作ろうとするものであることに加え、前記のとおり、放送法の制定・施行に際しては、 旧法下において実質的に聴取契約の締結を強制するものであった受信設備設置の許可制度が廃止されるものとされていたことをも踏まえると、放送法64条1項は、 原告の財政的基盤を確保するための法的に実効性のある手段として設けられたものと解されるのであり、法的強制力を持たない規定として定められたとみるのは困難である。 

 イ そして、放送法64条1項が、受信設備設置者は原告と「その放送の受信についての契約をしなければならない」と規定していることからすると、放送法は、 受信料の支払義務を、受信設備を設置することのみによって発生させたり、原告から受信設備設置者への一方的な申込みによって発生させたりするのではなく、受信契約の締結、すなわち原告と受信設備設置者との間の合意によって発生させることとしたものであることは明らかといえる。これは、旧法下において放送の受信設備を設置した者が社団法人日本放送協会との間で聴取契約を締結して聴取料を支払っていたこととの連続性を企図したものとうかがわれるところ、前記のとおり、旧法下において実質的に聴取契約の締結を強制するものであった受信設備設置の許可制度が廃止されることから、受信設備設置者に対し、原告との受信契約の締結を強制するための規定として放送法64条1項が設けられたものと解される。同法自体に受信契約の締結の強制を実現する具体的な手続は規定されていないが、民法上、法律行為を目的とする債務については裁判をもって債務者の意思表示に代えることが できる旨が規定されており(同法414条2項ただし書)、放送法制定当時の民事訴訟法上、債務者に意思表示をすべきことを命ずる判決の確定をもって当該意思表示をしたものとみなす旨が規定されていたのであるから(同法 736条。民事執行法 174条1項本文と同旨)、放送法64条1項の受信契約の締結の強制は、上記の民法及び民事訴訟法の各規定により実現されるものとして規定されたと解するのが相当である。 

 この点に関し、原告は、受信設備を設置しながら受信契約の締結に応じない者に対して原告が承諾の意思表示を命ずる判決を得なければ受信料を徴収することができないとすることは、迂遠な手続を強いるものであるとして、原告から受信設備設置者への受信契約の申込みが到達した時点で、あるいは遅くとも申込みの到達時から相当期間が経過した時点で、受信契約が成立する旨を主張する(主位的請求に係る主張)。 

 しかし、放送法による二本立て体制の下での公共放送を担う原告の財政的基盤を安定的に確保するためには、基本的には、原告が、受信設備設置者に対し、同法に定められた原告の目的、業務内容等を説明するなどして、受信契約の締結に理解が 得られるように努め、これに応じて受信契約を締結する受信設備設置者に支えられて運営されていくことが望ましい。そして、現に、前記のとおり、同法施行後長期間にわたり、原告は、受信設備設置者から受信契約締結の承諾を得て受信料を収受してきたところ、それらの受信契約が双方の意思表示の合致により成立したものであることは明らかである。同法は、任意に受信契約を締結しない者について契約を成立させる方法につき特別な規定を設けていないのであるから、任意に受信契約を締結しない者との間においても、受信契約の成立には双方の意思表示の合致が必要というべきである。 

 ウ ところで、受信契約の締結を強制するに当たり、放送法には、その契約の内容が定められておらず、一方当事者たる原告が策定する放送受信規約によって定められることとなっている点は、問題となり得る。 

 しかし、受信契約の最も重要な要素である受信料額については、国会が原告の毎事業年度の収支予算を承認することによって定めるものとされ(放送法70条4項)、また、受信契約の条項はあらかじめ総務大臣(同法制定当時においては電波監理委員会)の認可を受けなければならないものとされ(同法64条3項。同法制定当時においては32条3項)、総務大臣は、その認可について電波監理審議会に諮問しなければならないものとされているのであって(同法 177条1項2号)、 同法は、このようにして定まる受信契約の内容が、同法に定められた原告の目的にかなうものであることを予定していることは明らかである。同法には、受信契約の 条項についての総務大臣の認可の基準を定めた規定がないとはいえ、前記のとおり、放送法施行規則23条が、受信契約の条項には、少なくとも、受信契約の締結方法、受信契約の単位、受信料の徴収方法等の事項を定めるものと規定しており、 原告の策定した放送受信規約に、これらの事項に関する条項が明確に定められ、その内容が前記の受信契約の締結強制の趣旨に照らして適正なものであり、受信設備設置者間の公平が図られていることが求められる仕組みとなっている。また、上記 以外の事項に関する条項は、適正・公平な受信料徴収のために必要なものに限られると解される。 

 本訴請求に関する放送受信規約の各条項(前記第1の2(1)キ)は、放送法に定 められた原告の目的にかなう適正・公平な受信料徴収のために必要な範囲内のものといえる。 

 (2) 以上によると、放送法64条1項は、受信設備設置者に対し受信契約の締結を強制する旨を定めた規定であり、原告からの受信契約の申込みに対して受信設備設置者が承諾をしない場合には、原告がその者に対して承諾の意思表示を命ずる判決を求め、その判決の確定によって受信契約が成立すると解するのが相当である。


 (3) 原告は、受信設備設置者が放送法64条1項に基づく受信契約の締結義務を受信設備設置後速やかに履行しないことは履行遅滞に当たるから、原告は受信設備設置者に対し受信料相当額の損害賠償を求めることができる旨を主張するが(予備的請求1に係る主張)、後記のとおり、原告が策定し受信契約の内容としている 放送受信規約によって受信契約の成立により受信設備の設置の月からの受信料債権が発生すると認められるのであるから、受信設備設置者が受信契約の締結を遅滞することにより原告に受信料相当額の損害が発生するとはいえない。また、放送法が受信契約の締結によって受信料の支払義務を発生させることとした以上、原告が受信設備設置者との間で受信契約を締結することを要しないで受信料を徴収することができるのに等しい結果となることを認めることは相当でない。 

 2 放送法64条1項の憲法適合性について 

 (1) 被告の論旨は、受信設備設置者に受信契約の締結を強制する放送法64条1項は、契約の自由、知る権利及び財産権等を侵害し、憲法13条、21条、29 条に違反する旨をいう。その趣旨は、1受信設備を設置することが必ずしも原告の放送を受信することにはならないにもかかわらず、受信設備設置者が原告に対し必 ず受信料を支払わなければならないとするのは不当であり、また、金銭的な負担なく受信することのできる民間放送を視聴する自由に対する制約にもなっている旨及び2受信料の支払義務を生じさせる受信契約の締結を強制し、かつ、その契約の内容は法定されておらず、原告が策定する放送受信規約によって定まる点で、契約自由の原則に反する旨をいうものと解される。 

 上記1は、放送法が、原告を存立させてその財政的基盤を受信設備設置者に負担させる受信料により確保するものとしていることが憲法上許容されるかという問題であり、上記2は、上記1が許容されるとした場合に、受信料を負担させるに当たって受信契約の締結強制という方法を採ることが憲法上許容されるかという問題であるといえる。 

 (2) 電波を用いて行われる放送は、電波が有限であって国際的に割り当てられた範囲内で公平かつ能率的にその利用を確保する必要などから、放送局も無線局の一つとしてその開設につき免許制とするなど(電波法4条参照)、元来、国による一定の規律を要するものとされてきたといえる。前記のとおり、旧法下において は、我が国では、放送は、無線電信法中の無線電話の一種として規律されていたにすぎず、また、放送事業及び放送の受信は、行政権の広範な自由裁量によって監理統制されるものであったため、日本国憲法下において、このような状態を改めるべきこととなったが、具体的にいかなる制度を構築するのが適切であるかについては、憲法上一義的に定まるものではなく、憲法21条の趣旨を具体化する前記の放送法の目的を実現するのにふさわしい制度を、国会において検討して定めることとなり、そこには、その意味での立法裁量が認められてしかるべきであるといえる。 

 そして、公共放送事業者と民間放送事業者との二本立て体制の下において、前者を担うものとして原告を存立させ、これを民主的かつ多元的な基盤に基づきつつ自律的に運営される事業体たらしめるためその財政的基盤を受信設備設置者に受信料を負担させることにより確保するものとした仕組みは、前記のとおり、憲法21条の保障する表現の自由の下で国民の知る権利を実質的に充足すべく採用され、その目的にかなう合理的なものであると解されるのであり、かつ、放送をめぐる環境の変化が生じつつあるとしても、なおその合理性が今日までに失われたとする事情も見いだせないのであるから、これが憲法上許容される立法裁量の範囲内にあることは、明らかというべきである。このような制度の枠を離れて被告が受信設備を用いて放送を視聴する自由が憲法上保障されていると解することはできない。 

 (3) 放送法は、受信設備設置者に受信料を負担させる具体的な方法として、前記のとおり、受信料の支払義務は受信契約により発生するものとし、任意に受信契約を締結しない受信設備設置者については、最終的には、承諾の意思表示を命ずる判決の確定によって強制的に受信契約を成立させるものとしている。 

 受信料の支払義務を受信契約により発生させることとするのは、前記のとおり、原告が、基本的には、受信設備設置者の理解を得て、その負担により支えられて存立することが期待される事業体であることに沿うものであり、現に、放送法施行後長期間にわたり、原告が、任意に締結された受信契約に基づいて受信料を収受することによって存立し、同法の目的の達成のための業務を遂行してきたことからも、 相当な方法であるといえる。 

 任意に受信契約を締結しない者に対してその締結を強制するに当たり、放送法には、締結を強制する契約の内容が定められておらず、一方当事者たる原告が策定する放送受信規約によってその内容が定められることとなっている点については、前記のとおり、同法が予定している受信契約の内容は、同法に定められた原告の目的にかなうものとして、受信契約の締結強制の趣旨に照らして適正なもので受信設備設置者間の公平が図られていることを要するものであり、放送法64条1項は、受 信設備設置者に対し、上記のような内容の受信契約の締結を強制するにとどまると解されるから、前記の同法の目的を達成するのに必要かつ合理的な範囲内のものとして、憲法上許容されるというべきである。 

 

 (4) 以上によると、放送法64条1項は、同法に定められた原告の目的にかなう適正・公平な受信料徴収のために必要な内容の受信契約の締結を強制する旨を定めたものとして、憲法13条、21条、29条に違反するものではないというべきである。 

 その余の上告理由は、違憲をいうが、その前提を欠くものであって、民訴法 312条1項及び2項に規定する事由のいずれにも該当しない。 

 

 3 以上によれば、所論の点に関する原審の判断は是認することができる。論旨はいずれも採用することができない。 

 

 第3 平成26年(受)第1440号上告代理人高池勝彦ほかの上告受理申立て理由第2の2について 

 1 論旨は、被告に対して受信契約の承諾の意思表示を命ずる判決が確定することにより受信契約が成立した場合に発生する受信料債権は、当該契約の成立時以降の分であり、受信設備の設置の月以降の分ではない旨をいうものである。


 2 放送受信規約には、前記のとおり、受信契約を締結した者は受信設備の設置の月から定められた受信料を支払わなければならない旨の条項(第1の2(1)キ (イ))がある。前記のとおり、受信料は、受信設備設置者から広く公平に徴収されるべきものであるところ、同じ時期に受信設備を設置しながら、放送法64条1項に従い設置後速やかに受信契約を締結した者と、その締結を遅延した者との間で、支払うべき受信料の範囲に差異が生ずるのは公平とはいえないから、受信契約の成立によって受信設備の設置の月からの受信料債権が生ずるものとする上記条項は、受信設備設置者間の公平を図る上で必要かつ合理的であり、放送法の目的に沿うものといえる。 

 したがって、上記条項を含む受信契約の申込みに対する承諾の意思表示を命ずる判決の確定により同契約が成立した場合、同契約に基づき、受信設備の設置の月以降の分の受信料債権が発生するというべきである。 

 所論の点に関する原審の判断は是認することができる。論旨は採用することができない。 

 第4 平成26年(受)第1440号上告代理人高池勝彦ほかの上告受理申立て 理由第2の1について 

 1 受信料が月額又は6箇月若しくは12箇月前払額で定められ、その支払方法 が2箇月ごとの各期に当該期分を一括して支払う方法又は6箇月分若しくは12箇月分を一括して前払する方法によるものとされている受信契約に基づく受信料債権の消滅時効期間は、民法 169条により5年と解すべきであるところ(最高裁平成25年(受)第2024号同26年9月5日第二小法廷判決・裁判集民事247号159頁参照)、論旨は、受信契約の成立によって、前記第3のとおり、受信設備設置の月以降の分の受信料債権が発生する場合、当該受信料債権の消滅時効は、受信契約上の本来の各履行期から進行し、本訴請求に係る受信料債権のうち一部につ いては時効消滅している旨をいうものである。 

 2 消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する(民法166条1項)ところ、受信料債権は受信契約に基づき発生するものであるから、受信契約が成立する前においては、原告は、受信料債権を行使することができないといえる。この点、原告は、受信契約を締結していない受信設備設置者に対し、受信契約を締結するよう求めるとともに、これにより成立する受信契約に基づく受信料を請求することができることからすると、受信設備を設置しながら受信料を支払っていない者のうち、受信契約を締結している者については受信料債権が時効消滅する余地があり、受信契約を締結していない者についてはその余地がないということになるのは、不均衡であるようにも見える。しかし、通常は、受信設備設置者が原告に対し受信設備を設置した旨を通知しない限り、原告が受信設備設置者の存在を速やかに 把握することは困難であると考えられ、他方、受信設備設置者は放送法64条1項により受信契約を締結する義務を負うのであるから、受信契約を締結していない者について、これを締結した者と異なり、受信料債権が時効消滅する余地がないのもやむを得ないというべきである。 

 したがって、受信契約に基づき発生する受信設備の設置の月以降の分の受信料債権(受信契約成立後に履行期が到来するものを除く。)の消滅時効は、受信契約成立時から進行するものと解するのが相当である。 

 所論の点に関する原審の判断は是認することができる。論旨は採用することがで きない。 

 第5 結論 

 以上によれば、原告の請求のうち予備的請求2を認容すべきものとした原審の判 断は、是認することができるから、本件各上告を棄却することとする。 

 よって、裁判官木内道祥の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。なお、裁判官岡部喜代子、同鬼丸かおるの各補足意見、裁判官 小池裕、同菅野博之の補足意見がある。 

 裁判官岡部喜代子の補足意見は、次のとおりである。 

 被告は、放送法64条1項は訓示規定であると主張し、また、これを訓示規定と解さなければ憲法に違反すると主張するので、その点について補足する。 

 多数意見の見解は、放送法64条1項の規定によって原告に私法上の権利である受信契約承諾請求権が発生すると解するものといえる。放送法は、主に原告その他の放送主体の組織及び業務について規定しており、公法であると性格付けられるものである。しかし、公法であっても私権の発生要件について規定することもあり得るところであり、放送法内において受信契約の締結を強制する具体的な方法についての規定がないことが、強制力のないことを理由付けるものではない。放送法の規定中に受信契約締結義務が定められたのは、同法の立法に至る経過において、原告の財政基盤確保の方法が変遷したことによるものである。その規定を読めば、1受信設備を設置したこと、2原告による受信契約申込みの意思表示がなされたことという二つの要件を充足することによって、原告が当該受信設備を設置した者に対して受信契約承諾請求権を取得することになると理解できる。 

 原告がその取得した受信契約承諾請求権を行使しても相手方が承諾しないときには、民法 414条2項ただし書の規定によって意思表示を求める訴訟を提起することができる。そして、判決の確定によって承諾の意思表示をしたものとみなされたときに受信契約が成立する。放送受信規約第4条第1項は、受信契約は受信設備設置の日に成立するものとする旨を規定しているところ、その趣旨は、受信設備の設置の時からの受信料を支払う義務を負うという内容の契約が、意思表示の合致の日に成立する旨を述べていると解すべきである。また、放送法64条1項が、受信契 約承諾請求権の発生要件として「受信設備を設置した者」と規定していて「受信している者」と規定していないことからすれば、受信設備を設置して受信することができる地位にあることによって受信料を支払う義務を負うことになるものといえる。 

 このように、放送法64条1項は、原告の放送を受信しない者ないし受信したくない者に対しても受信契約の締結及び受信料の支払を強制するものと解されるところ、被告は、そのような放送法64条1項は憲法に違反すると主張する。憲法は表 現の自由の派生原理として情報摂取の自由を認めている(最高裁昭和63年(オ) 第 436号平成元年3月8日大法廷判決・民集43巻2号89頁参照)。情報摂取の自由には、情報を摂取しない自由(情報を摂取することを強制されない自由)を含むものと解することができる。被告は、このような情報摂取の自由について明確に主張するものではなく、多数意見もこれに触れるものではないが、放送法64条1項は、原告の放送の視聴を強制しているわけではないとはいえ、受信することが できる地位にあることをもって経済的負担を及ぼすことになる点で、上記のような情報摂取の自由に対する制約と見る余地もある。しかし、多数意見が判示するよう に、受信料制度は、国民の知る権利を実質的に充足し健全な民主主義の発達に寄与 ることを究極的な目的として形作られ、その目的のために、特定の個人、団体又は国家機関等から財政面での支配や影響が及ばないように必要かつ合理的な制度として認められたものであり、国民の知る権利の保障にとって重要な制度である。一方、受信設備を設置していれば、緊急時などの必要な時には原告の放送を視聴することのできる地位にはあるのであって、受信料の公平負担の趣旨からも、受信設備を設置した者に受信契約の締結を求めることは合理的といい得る。原告の独立した 財政基盤を確保する重要性からすれば、上記のような経済的負担は合理的なものであって、放送法64条1項は、情報摂取の自由との関係で見ても、憲法に違反するとはいえない。 

 裁判官鬼丸かおるの補足意見は、次のとおりである。 

 私は、多数意見と同意見であるが、以下の点を補足したい。 放送法64条1項は、「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。」と規定しているが、その契約の内容は、原告の策定する放送受信規約により定められている。 受信契約の締結が強制されるべきであることは多数意見のとおりであるところ、このことが契約締結の自由という私法の大原則の例外であり、また、締結義務者に受信料の支払という経済的負担をもたらすものであることを勘案すると、本来は、受信契約の内容を含めて法定されるのが望ましいものであろう。 

 現に、放送受信規約の中には、受信契約の締結を強制するについて疑義を生じさせかねないものも含まれている。すなわち、放送受信規約第2条第1項は、「放送 受信契約は、世帯ごとに行うものとする。」と定めて、原則として世帯を単位とし て契約を締結することとしているが、これは、放送法64条1項の規定から直ちに導かれるとはいい難い。さらに、放送受信規約は、受信契約を世帯ごととしつつも、受信契約を締結する義務が世帯のうちいずれの者にあるかについて規定を置いていない。任意に受信契約が締結される場合は別であるが、受信契約の締結が強制される場合には、締結義務を負う者を明文で特定していないことには問題があろう。家族のあり方や居住態様が多様化している今日、世帯が受信契約の単位であるとの規定は、直ちに1戸の家屋に所在する誰かを締結義務者であると確定することにならない場合もあると思われる。受信契約の締結を求められる側からみても、そ の義務を負う者が法令上一義的に特定できなければ、締結義務を負っていることの 自覚も困難であろう。 

 裁判官小池裕、同菅野博之の補足意見は、次のとおりである。 

 私たちは、多数意見に賛同するものであるが、放送法64条1項の意義に関し、 木内裁判官が反対意見で触れられている点について、補足的に意見を述べておきたい。 

 多数意見が、民事執行法 174条1項本文により承諾の意思表示を命ずる判決の確定時に受信契約が成立するとしつつ、受信設備の設置の月からの受信料を支払う義務が生ずるものとしていることについて、問題がある旨の指摘がされているが、 この点については、岡部裁判官の補足意見で述べられているとおり、上記判決の確定により「受信設備を設置した月からの受信料を支払う義務を負うという内容の契約」が、上記判決の確定の時(意思表示の合致の時)に成立するのであって、受信設備の設置という過去の時点における承諾を命じたり、承諾の効力発生時期を遡及させたりするものではない。放送受信規約第4条第1項は、上記のような趣旨と解されるのであり、承諾の意思表示を命ずる判決の確定により受信契約を成立させることの障害になるものではない。 

 また、受信設備を廃止した場合の問題点も指摘されるが、過去に受信設備を設置 したことにより、それ以降の期間について受信契約を締結しなければならない義務は既に発生しているのであるから、受信設備を廃止するまでの期間についての受信契約の締結を強制することができると解することは十分に可能であると考える。 

 さらに、不当利得返還請求や不法行為に基づく損害賠償請求を認めるとの考え方 が示されているところ、このような構成は、受信契約の締結に応じない受信設備設置者からも受信料に相当する額を徴収することができるようにするためのものであると考えられる。しかし、不当利得構成については、受信設備を設置することから直ちにその設置者に受信料相当額の利得が生じるといえるのか疑問である上、受信 契約の成立を前提とせずに原告にこれに対応する損失が生じているとするのは困難であろう。不法行為構成については、受信設備の設置行為をもって原告に対する加害行為と捉えるものといえ、公共放送の目的や性質にそぐわない法律構成ではなかろうか。また、上記のような構成が認められるものとすると、任意の受信契約の締結がなくても受信料相当額を収受することができることになり、放送法64条1項 が受信契約の締結によって受信料が支払われるものとした趣旨に反するように思わ れる。反対意見には傾聴すべき点が存するが、放送法は、原告の財政的基盤は、原告が受信設備設置者の理解を得て受信契約を締結して受信料を支払ってもらうことにより確保されることを基本としているものと考えられるのであり、受信契約の締結なく受信料相当額の徴収を可能とする構成を採っていない多数意見の考え方が放送法の趣旨に沿うものと考える。 

 裁判官木内道祥の反対意見は、次のとおりである。 

 私は、放送法64条1項が定める契約締結義務については、多数意見と異なり、 意思表示を命ずる判決を求めることのできる性質のものではないと解する。以下、その理由を述べる。


 1 意思表示を命ずる判決をなしうる要件


 (1) 意思表示の内容の特定 判決によって意思表示をすべきことを債務者に命ずるには、その意思表示の内容が特定されていることを要する。契約の承諾を命ずる判決が確定すると、承諾の意思表示がなされたものとみなされて契約が成立することになるが、1回の履行で終わらない継続的な契約においては、承諾を命じられた債務者は判決によってその契約関係に入っていくのであるから、承諾によって成立する契約の内容が特定していないまま、判決が債務者の意思表示の代行をなしうるものではない。 

 (2) 意思表示の効力発生時期 

 判決が命じた意思表示の効力発生時期が判決の確定時であることは、民事執行法 174条が定めており、これと異なる効力発生時期を意思表示を命ずる判決に求めることはできない。 

 2 放送受信規約の定める受信契約の内容 

 放送法は受信契約の内容を定めておらず、原告の定める放送受信規約がその内容を定めている。そのことの当否は別として、放送受信規約の定める受信契約の内容は、次のようなものである。 

 (1) 受信契約の種別と受信料(第1条第1項、第5条) 

 受信契約には、3つの種別があり、1の受信契約につき、その種別ごとの受信料が定められている。 

 (2) 受信契約の単位(第2条) 

 受信設備が設置されるのが住居であれば、世帯が契約単位であり、1世帯で複数住居なら、住居ごとが単位となる。世帯とは、住居および生計をともにする者の集まり、または、独立して住居もしくは生計を維持する単身者である。 

 事務所等の住居以外の場所に設置される受信設備については、設置場所が契約単位であり、設置場所の単位は、部屋、自動車などである。 

 同一世帯の1の住居に受信設備が何台あっても、契約は1、受信料も1であり、 住居以外の場所では1の設置場所に受信設備が何台あっても、契約は1、受信料も1である。 

 (3) 受信契約書の提出義務(第3条) 

 受信設備を設置した者は、遅滞なく、1設置者の氏名及び住所、2設置の日、3受信契約の種別、4受信できる放送の種類及び受信設備の数などを記載した受信契約書を原告に提出しなければならない。 

 (4) 受信契約の成立(第4条第1項)

 受信契約は受信設備の設置の日に成立するものとする。
 (5) 受信契約の種別の変更(第4条第2項)

 受信契約の種別の変更については、受信設備の設置による変更は設置の日に、受信設備の廃止による変更は、その旨を記載した受信契約書の提出の日に、原告の確認を条件として、変更される。 

 (6) 受信料支払義務の始期と終期(第5条第1項) 

 受信契約者は、受信設備の設置の月から解約となった月の前月まで、受信料を支 払わなければならない。 

 (7) 受信契約の解約(第9条第1項、第2項) 

 受信設備を廃止すると、受信契約者は、その旨の届出をしなければならない。原告が廃止を確認できると、届出があった日に解約されたものとする。 

 3 放送受信規約の定めと意思表示を命ずる判決をなしうる要件の関係


 (1) 放送受信規約による契約内容の特定

 受信契約の承諾を命ずる判決には、承諾の対象となる契約の内容の特定が必要なところ、判決主文において明示するか否かを問わず、判決の時点における放送受信 規約を内容とする受信契約の承諾を命ずることになる。そこで、放送受信規約の定めが、それ自体として、契約内容を特定するものとなっているのか否かが問題とな る。 

 (2) 放送受信規約による契約内容 

 放送受信規約は、受信設備設置者が設置後遅滞なく前記2(3)の事項が記載された受信契約書を提出して受信契約が成立することを前提としている。そのようにして受信契約が締結される限り、受信契約が受信設備設置時に遡って成立すると合意することは可能であり、1世帯に複数の受信設備があり、受信設備の種類が異なっていても、提出された受信契約書の記載によって、契約主体、契約の種別を特定することは可能である。 

 他方、以下の1~3で示されるとおり、判決によって受信契約を成立させようとしても、契約成立時点を受信設備設置時に遡及させること、また、判決が承諾を命ずるのに必要とされる契約内容(契約主体、契約の種別等)の特定を行うことはできず、受信設備を廃止した受信設備設置者に適切な対応をすることも不可能であ る。 

  ① 契約の成立時点と受信料支払義務の始点 

  意思表示を命ずる判決によって意思表示が効力を生ずるのは、民事執行法 174 条1項により、その判決の確定時と定められている。承諾を命ずる判決は過去の時点における承諾を命ずることはできないのであり、承諾が効力を生じ契約が成立するのは判決の確定時である。したがって、放送受信規約第4条第1項にいう受信設備設置の時点での受信契約の成立はありえない。 

  受信料債権は定期給付債権である(最高裁平成25年(受)第2024号同26年9月5日第二小法廷判決・裁判集民事247号159頁)が、定期給付債権とし ての受信料債権を生ぜしめる定期金債権としての受信料債権は、受信契約によって生じ、その発生時点は判決の確定時である。受信契約が成立していなければ定期金債権としての受信料債権は存在せず、支分権としての受信料債権も生じない。したがって、放送受信規約第5条にいう受信設備の設置の月からの受信料支払義務の負担はありえない。 

  ② 契約の主体と受信契約の種別の変更 

  同一の世帯に夫婦と子がいる場合、放送受信規約第2条は、住居が1である限り、受信設備が複数設置されても受信契約は1とするが、夫婦と子のそれぞれが受信設備を設置しあるいは廃止すると、判決が承諾を命ずるべき者が誰なのかは、不明である。それぞれが設置した受信設備の種類が異なる場合、判決が承諾を命ずる契約の種別が何なのかも、不明である。 

  ③ 受信設備を廃止した受信設備設置者との関係 

  承諾を命ずる判決は、過去の時点における承諾を命ずることはできないのであるから、現時点で契約締結義務を負っていない者に対して承諾を命ずることはできない。受信契約を締結している受信設備設置者でも、受信設備を廃止してその届出をすれば、届出時点で受信契約は解約となり契約が終了する(放送受信規約第9条)ことと対比すると、既に受信設備を廃止した受信設備設置者が廃止の後の受信料支払義務を負うことはありえない。仮に、既に受信設備を廃止した受信設備設置者に対して判決が承諾を命ずるとすれば、受信設備の設置の時点からその廃止の時点までという過去の一定の期間に存在するべきであった受信契約の承諾を命ずることになる。これは、過去の事実を判決が創作するに等しく、到底、判決がなしうることではない。 

  原告が受信設備設置者に対して承諾を求める訴訟を提起しても、口頭弁論終結の前に受信設備の廃止がなされると判決によって承諾を命ずることはできず、訴訟は 受信設備の廃止によって無意味となるおそれがある。 

 4 財源としての受信料の必要性と放送法64条の関係 

 放送法の制定当時においても民事訴訟法736条が現行の民事執行法174条と同様の意思表示を命ずる判決を定めていたのであるから、放送法の制定にあたっ て、同法に定める受信契約の締結義務を、意思表示を命ずる判決によって受信契約が成立するものとし、それによって受信料を確保するものとする動機付けは存したかもしれないが、そのことと、実際に制定された放送法の定めが、受信契約の締結を判決により強制しうるものとされているか否かは、別問題である。 

 受信契約の内容は放送受信規約によって定められ、その規約による受信契約の条項は電波監理審議会の諮問を経た総務大臣の認可を経ているのであるから、放送受信規約は放送法64条1項の趣旨を具体化したものとなっていると解されるが、その規約の内容が、判決によって承諾を命ずることができるものにはなっておらず、 かえって、任意の契約締結を前提とするものとなっていることは、前項で述べたとおりであり、放送法64条1項は判決により受信契約の承諾を命じうる義務の定め方をしていないのである。 

 5 判決によって成立する受信契約が発生させる受信料債権の範囲 

 多数意見は、受信設備の設置の月以降の分の受信料債権が発生する理由を、受信契約の締結を速やかに行った者と遅延した者の間の公平性に求めるが、これは、受信契約が任意に締結される限り受信料支払義務の始点を受信設備設置の月からとすることの合理性の理由にはなるものの、放送法の定めが判決が承諾を命じうる要件を備えたものとなっていることの理由になるものではない。 

 契約の成立時を遡及させることができない以上、判決が契約前の時期の受信料の支払義務を生じさせるとすれば、それは、承諾の意思表示を命ずるのではなく義務負担を命ずることになる。これは、放送法が契約締結の義務を定めたものではあるが受信料支払義務を定めたものではないことに矛盾するものである。 

 6 受信料債権の消滅時効の起算点 

 多数意見は、判決により成立した受信契約による受信料債権の消滅時効の起算点を判決確定による受信契約成立時とし、任意の受信契約の締結に応じず、判決により承諾を命じられた者は受信料債権が時効消滅する余地がないものであってもやむを得ないとする。 

受信設備設置者は、多数意見のいうように、受信契約の締結義務を負いながらそれを履行していない者であるが、不法行為による損害賠償義務であっても行為時から20年の経過により、債権者の知不知にかかわらず消滅し、不当利得による返還義務であっても発生から10年の経過により、債権者の知不知にかかわらず消滅することと比較すると、およそ消滅時効により消滅することのない債務を負担するべ き理由はない。 

 

 7 放送法の契約締結義務の私法的意味 

 放送法64条1項の定める受信契約の締結義務が判決により強制できないものであることは、なんら法的効力を有しないということではない。 

 受信契約により生ずる受信料が原告の運営を支える財源であり、これが、原告に ついて定める放送法の趣旨に由来することから契約締結義務が定められているのであるから、受信設備を設置する者に受信契約の締結義務が課せられていることは、「受信契約を締結せずに受信設備を設置し原告の放送を受信しうる状態が生じない」ことを原告の利益として法が認めているのであり、この原告の利益は「法律上保護される利益」(民法 709条)ということができる。受信契約の締結なく受信設備を設置することは、この利益を侵害することになり、それに故意過失があれば、不法行為が成立し、それによって原告に生ずる損害については、受信設備設置者に損害賠償責任が認められると解される。 

 同様に「受信設備を設置し原告の放送を受信しうる状態となること」は、受信設備設置者にとって、原告の役務による利益であり、受信契約という法律上の原因を欠くものである。それによって原告に及ぼされる損失については、受信設備設置者の不当利得返還義務が認められると解される。 

(裁判長裁判官 寺田逸郎 裁判官 岡部喜代子 裁判官 小貫芳信 裁判官 鬼丸かおる 裁判官 木内道祥 裁判官 山本庸幸 裁判官 山崎敏充 裁判官 池上政幸 裁判官 大谷直人 裁判官 小池 裕 裁判官 木澤克之 裁判官 菅野博之 裁判官 山口 厚 裁判官 戸倉三郎 裁判官 林 景一) 

平成26年(オ)第1130号,平成26年(受)第1440号,第1441号

受信契約締結承諾等請求事件

平成29年12月6日 大法廷判決