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#071 福島原発刑事裁判第 1 回公判報告  

(2017.9.2)

福島原発刑事裁判第1回公判報告

報告 刑事訴訟支援団弁護団・刑事訴訟被害者参加代理人 弁護士 海渡雄一

 

はじめに

 6月30日の第1回公判はとても大切な期日でした。検察官による冒頭陳述と証拠の要旨が告知されました。被告人とその弁護人等は事故の予見可能性がないとして無罪を主張しました。しかし、示された証拠を見る限り、被告人等の主張は通らないと考えます。

 東京電力は、2009(平成21年)年6月に予定されていた、耐震バックチェックの最終報告において、2007年(平成19年)11、12月に、推本の長期評価に基づいて、津波評価を行い、この津波に対応する工事を実施する方針を決め、2008年(平成20年)1月、そのための基準地震を定める目的で、東電設計に最大津波高の計算を依頼しました。東電設計が実施した津波高の計算は、試算などではなく、東電が行う津波対策の内容を定めるための基礎資料であり、2008年3月に予定されていた耐震バックチェックの中間報告、2009年6月に予定されていた耐震バックチェックの最終報告のためのものでした。この計算結果は分厚い黒表紙、金文字の付された計算結果として東電に納品されています。

 これを受けて、東電の実務レベルの土木グループの担当者らは東電設計とも協力して、福島第1原発の10メートル盤の上に10メートルの津波防潮堤を、敷地の南北に築く計画を始めとして、具体的な計画を煮詰め、2008年6月10日に武藤被告人に提案しました。しかし、この工事計画は採用されず、津波の想定は旧来の土木学会に検討依頼することとされ、バックチェックの終了時期は何年も遅らせられることとなったのです。

 この報告は、7月17日にいわき市で行われた公判報告集会の内容をまとめたものです。検察官の職務を行う指定弁護士作成の冒頭陳述中の争点に関わる重要部分と、証拠採用された証拠書類、証拠物についての要旨告知されたものについて公判当日に記者会見で、口頭で報告した主要部分などを合体し、わかりやすく時系列でまとめました。証拠として紹介できたものは、採用された約230点中の約30点足らずですが、これをお読みいただければ、この裁判の検察官役側の主張の骨格が揺るがないものであることがはっきりとわかると思います。 なお、この冒頭陳述は、NHKのサイトにアップされているものの、人物名を、法廷での朗読にもとづいて復元したものです。要旨告知された証拠の内容は、イタリック体で囲みにし、区別できるようにしました。また、私の講演部分はゴシック体にしました(編注:囲みは罫線で、また目次の頁数は省略)。

  1 問われているもの

  2 福島第一原子力発電所の概要等
  3 非常用電源設備等の設置状況
  4 福島第一原子力発電所における事故の経過

  5 本件事故の原因
  6 事業者の注意義務
  7 被告人らの立場とその責任

  8 本件の争点

  9 国による津波防災対策

 10 文部科学省地震調査研究推進本部による長期評価の公表

 11 社団法人土木学会による「重み付けアンケート」

 12 内部溢水・外部溢水勉強会の開催と報告

 13 原子力安全・保安院による「耐震バックチェック」の指示と東京電力の津波対策

 14 想定津波水位の計算結果とこれに対する被告人らの対応

 15 土木学会第3期,第4期津波評価部会における検討

 16 福島地点津波対策ワーキング会議の開催

 17 長期評価の改訂

 18 原子力安全、保安院による東京電力に対するヒアリング

 19 まとめ

 

 1 https://www3.nhk.or.jp/news/special/toudensaiban/

 冒頭陳述書のはじめに、「問われているもの」という部分がありますが、これは検察官役の方が裁判のテーマというか、なにが問われているかということを市民に問いかけた非常に短いですが、重要な文書だと思います。今日も読ませていただきます。

1  問われているもの

 人間は、自然を支配できません。私たちは、地震や津波が、いつ、どこで、どれくらいの大きさで起こるのかを、事前に正確に予知することは適いません。
 だから、しかたなかったのか。被告人らは、原子力発電所を設置・運転する事業者を統轄するものとして、その注意義務を尽くしたのか。被告人らが、注意義務を尽くしていれば、今回の原子力事故は回避できたのではないか。それが、この裁判で問われています。

 冒頭陳述は長大なもので、この後、「2.原子力発電所の概要」、「3.非常用電源設備等の設置状況」、「4 事故の経過」では、事故の状況が詳しく説明されていますが、それらは、政府事故調などによって公表されていた中身と重なりますので、今日は省略します。ただ、この中で、双葉病院に入院されていた方々が亡くなっていく経過など、非常に生々しく報告されています。それから、「5 事故の原因」で、実際に全電源を喪失して事故になっていった経過がまとめられています。そして、「6 事業者の注意義務」として、原子力を担当する事業者には非常に高い注意義務が課せられていると言ったことが述べられています。

 そして、「7 被告人らの立場とその責任」から、今日は資料を載せているのですが、勝俣さん、武藤さん、武黒さんのそれぞれの立場というものが、ここで説明されています。もちろん、役員会でも議論されたと思うのですが、この3人が原則として全員出る「中越沖地震対応会議」という会議体があって、ここで非常に重要なことが議論されていて、そしてそこで、重要な意思決定がされていたということが、検察官役の立証の柱になっていると思います。

 従前、この会議は「御前会議」と呼ばれていたと検察審査会の決定に出てきていたのですが、今回の証拠の中には「御前会議の状況・極秘」というメールも出てくるんですよ。社員が自分の会社の会議で、勝俣さんが出てくる 会議の報告を「御前会議の状況」として報告しているということがわかります。そこに勝俣さんが出席していることが、東京電力という会社にとって、いかに重要かわかりますよね。ここはちょっとその程度にして、先に進みます。

7 被告人らの立場とその責任

 (1)被告人らは、東京電力の最高経営層として、本件原子力発電所の安全を確保すべき最終的な義務と責任を負う地位にありました。


 (2)被告人勝俣恒久は、平成14年10月から代表取締役社長、平成20年6月からは代表取締役会長の職にあり、本件原子力発電所の運転・安全保全業務に従事し、その一環として、本件原子力発電所を所管する原子力・立地本部等を通じて、その構造、設備等の技術基準適合性にかかる情報を常に把握し、安全性に関わる重要な事項が判明した場合には、防護措置その他の適切な措置を行うべきか否かの判断を行うなどの会議等を主宰して、その席上で適切な指示を行うなど、同社の最高経営層に属する者として、最終的に原子力発電所の安全を確保すべき義務と責任を負う地位にありました。被告人勝俣は、平成20年6月、代表取締役会長に就任して以降は、職務規定上「最高経営層」には属しておらず、東京電力の業務執行には抑制的であったから、上記責任を負わないと主張されるようです。しかし、同人は、会長職に就いた後も、社内の意思決定にかかわる重要な会議等に出席し、実質的に上記判断や指示を実際に行っていました。したがって、その義務と責任はとうてい免れうるものではありません。

 

 (3)被告人武黒一郎は、平成17年6月から常務取締役原子力・立地本部本部長、平成19年6月から取締 役副社長原子力・立地本部本部長、平成22年6月からはフェローの職にあり、被告人武藤栄は、平成17年6月から執行役員原子力・立地本部副本部長、平成20年6月から常務取締役原子力・立地本部副本部長、 平成22年6月からは取締役副社長原子力・立地本部本部長の職にありました。

 原子力・立地本部は、東京電力の原子力発電所を統轄する部署で、本部長は、最高経営層の専門スタッフとして、高度かつ専門的な情報、知見をもって、原子力発電所における原子力安全を最優先に、その設備の 管理等を行うとともに、最高経営層による東京電力の方針の策定等について補佐するという基本的役割を担っていました。
 被告人武黒は、平成22年6月、取締役副社長原子力・立地本部本部長を退任しフェローに就任して以降は、東京電力の業務執行には関与しておらず、また、会長を補佐する立場にはなかったと主張されるようです。しかし、同人は、フェローになった後も、社内の意思決定にかかわる重要な会議等に出席し、実質的に会長が行う上記判断などを補佐するなどの職務を実際に行っていました。

 こうして、被告人武黒、同武藤はいずれも、被告人勝俣を補佐して、上記被告人勝俣と同様に本件原子力発電所の運転・安全保全業務に従事し、本件原子力発電所の安全を確保すべき義務と責任を負う地位にありました。

 また被告人ら3名は、いずれも取締役に就任中は、「常務会」、「取締役会」の構成員として、東京電力の業務執行に関して、最終意思決定に関与していました。


 (4)さらに被告人勝俣は、平成17年4月から平成20年6月までの問、電気事業連合会(以下「電事連」)の会長に、被告人武黒は、平成16年7月から平成20年6月までの間、電事連原子力開発対策委員会総合部会部会長に、平成21年7月から平成22年5月までの間は電事連原子力開発対策委員会委員長に、被告人武藤は、平成20年8月から平成22年6月までの間、電事連原子力開発対策委員会総合部会部会長に、平成22年7月から平成23年5月までの間は電事連原子力開発対策委員会委員長に就任していました。電事連日本における電気事業の健全な発展や運営の円滑化を図るために設立された全国10電力会社で組織された連合会です。

 電事連に設置された原子力開発対策委員会では、原子力に関する様々な問題につき、検討が行われ、資料等の収集を行っており、原子力に関する情報収集とその情報の各社への共有が重要な業務のひとつとなっています。そして、原子力安全・保安院と各電力会社の窓口としての役割をも担っていました。地震・津波に関する事項については、主に同委員会総合部会が所管していました。このような電事連の役職に就任していた被告人らは、当然のことながら電事連が収集した原子力発電所の安全性に関する諸情報を認識し、また認識しうる立場にありました。

 

8  本件の争点

 10m盤を超える津波の襲来から、本件原子力発電所を守る対策としては、
 ① 10m盤上に想定水位を超える防潮堤を設置するなど、津波が敷地へ遡上するのを未然に防止する対策、

 ② 建屋の開口部に防潮壁、水密扉、防潮板を設置するなど、防潮堤を越えて津波の遡上があったとしても、建屋内への浸入を防止する対策、
 ③ 部屋の開口部に水密扉を設置する、配管等の貫通部に止水処理を行うなど建屋内に津波が浸入しても、重要機器が設置されている部屋への浸入を防ぐ対策、
 ④ 原子炉への注水や冷却のための代替機器を津波による浸水のおそれがない高台に準備する対策、があり、これらの全ての措置をあらかじめ講じておけば、本件事故の結果は未然に回避することができました(津波対策の概要につき、別図4のとおり)。東京電力は、本件事故後、事故調査報告書において、これらのことを明らかにしています。

 そして、津波はいつ来るか分からないのですから、津波の襲来を予見したなら、これらの安全対策が完了するまでは、本件原子力発電所の運転を停止すべきだったのです。

 ここが、今回の検察官役の指定弁護士の主張のかなり肝になるところだと思います。事故の直前に保安院に対して説明を行った 2011年(平成23年)3月7日の会合というものがありますが、この時点でも、すぐに止めるべきだった、対策が遅すぎると、保安院の小林さんからその日にいわれているわけですが、その時点でも止めるべきであったというのが、検察官役の主張の最後の押さえになっています。

 被告人らが、本件原子力発電所に 10m 盤を超える津波が襲来する可能性があることを予見し、あるいは予見しうる状況があったのであれば、被告人らにこのような安全対策をとるべき義務があったことは明らかです。

 ところが、被告人らはいずれも、本件事故が起こるまで本件原子力発電所に10m盤を超える津波が襲来することは予見できなかったと主張しています。

 したがって、この裁判では、被告人らがそれぞれ、本件原子力発電所に10m盤を超える津波が襲来することを予見できたか否かが主要な争点となります。

 そこで、指定弁護士は、次に述べる諸事実を証拠により立証し、それらの事実を積み重ねることにより、遅くとも平成23年3月初旬には、本件原子力発電所に10m盤を超える津波が襲来することを予見できたということを明らかにします。

9  国による津波防災対策

 「9 国による津波防災対策」、「10 文部科学省地震調査研究推進本部による長期評価の公表」のあたりは、ぜひ、しっかりこの書面を見てください。今まで、何度も申し上げてきたことですし、告訴団で作ったブックレット『市民が明らかにした原発事故の真実』(彩流社)に書いたことと、そんなに変わらないことが述べられています。

  平成7年1月17日、阪神・淡路大震災が発生しました。

 この大震災等を契機に、農林水産省構造改善局、同省水産庁、運輸省港湾局、建設省河川局の4省庁(省庁名はいずれも当時、以下同じ)は、平成9年、「太平洋沿岸部地震津波防災計画手法調査報告書」を作成しました。

 さらに、平成10年 3 月には、国土庁、農林水産省構造改善局、同省水産庁、運輸省、気象庁、建設省、 消防庁の7省庁策定にかかる「地域防災計画における津波対策強化の手引き」及び「津波災害予測マニュアル」が公表されました。

 この中で、「津波を伴う既往最大地震を把握し、対象津波を設定するとともに、沿岸地域の危険性を把握する。また、その後の地震研究の成果や最新の地震観測」結果等を踏まえることにより、地震空白域の存在や地震の周期性などの地震の動向について把握しておくことが重要である。」と指摘されていました。

10 文部科学省地震調査研究推進本部による長期評価の公表

 (1)長期評価の公表

 平成14年7月31日、文部科学省地震調査研究推進本部(以下「地震本部」)地震調査委員会は、「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価について」(以下「長期評価」)を公表しました。

 この中で、地震本部は、三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域内のどこでも津波マグニチュード 8.2 前後の津波地震が発生する可能性があると指摘しました。
 三陸沖から房総沖にかけて1611年に慶長三陸地1677年に延宝房総沖地1896年に明治三陸地震が発生しており、これらの地震により、津波被害があったとされています。


 (2)地震本部の性格と構成


 1)地震本部は、平成7年1月に発生した阪神・淡路大震災を契機として、全国にわたる総合的な地震防災対策を推進するために制定された地震防災対策特別措置法に基づき、当時の総理府に設置された機関です。 平成13年1月の中央省庁再編に伴い、総理府から文部科学省に移管され、現在に至っています。

 地震本部は、従前、地震に関する調査研究の成果が、国民や防災を担当する機関に十分に活用される体制が整備されていなかったとの反省の下に、これらの成果が地震防災対策に活用されるため、政府として一元的に、地震の予測を含む調査研究を推進する機関として設置されました。

 こうして、地震本部は、地震予測に関し、評価として公表する国の唯一の機関となりました。

 その一環として、長期評価が公表されたのです。

  2)地震本部には、文部科学大臣を本部長とし、文部科学省等関係省庁の事務次官等から構成される本部のもとに、地震に関する調査結果等を収集分析し、総合評価を行う「地震調査委員会」等ふたつの委員会が設置されています。

 「地震調査委員会」のもとには、長期的な観点から地震の予測を行う「長期評価部会」や、長期評価結果に基づいて各地の震度等の予測を行う「強震動部会」などが設置されています。また、「長期評価部会」のもとには、分科会が設置され、その分科会は地房の様式で分かれており、プレート間地震やプレート内地震などの予測を行う「海溝型分科会」や活断層地震の予測を行う「活断層分科会」などがあります。

 地震調査委員会の委員は、地震や地質の専門家で構成され、地震調査委員会の委員の一人は長期評価部会の「部会長」も兼ねています。

 長期評価部会の委員は、部会長以下約10名の地震や地質を専門とする大学教授などの専門家で構成されており、長期評価部会の委員の一人が分科会の「主査」となり、各分科会も約10名の地震や地質などを専門とする大学教授などにより構成されています。

 

 3)長期評価が公表された頃の「長期評価部会」の委員は、地震の専門家である島崎邦彦東京大学地震研究所教授を部会長とし、地質の専門家である杉山雄一産業技術総合研究所活断層研究センター副センター長、地震の専門家である加藤照之東京大学地震研究所教授や平澤朋郎財団法人地震予知総合研究振興会地震調査研究センター所長など、地震の権威ある研究者や関係機関の代表等から構成されていました。「海溝型分科会」の委員は島崎邦彦教授を主査とし、津波地震の専門家である阿部勝征東京大学地震研究所 教授や都司嘉宣同研究所助教授、佐竹健治産業技術総合研究所活断層研究センター地震被害予測研究チーム長など、いずれも地震や津波の分野における第一人者である研究者や関係省庁所属の専門家等から構成されていました。

11  社団法人土木学会による「重み付けアンケート」

 そして、「11 社団法人土木学会による「重み付けアンケート」では、土木学会の中でどのような津波対策をとるべきかと、専門家に意見を聞いたときに福島沖で、津波地震が起きうるという見解の方が比較すれば、多かったとはっきり書かれています。

 

 「重み」の平均値は、「1.が0.46であったのに対して、2.が0.54」と、2というのは房総沖から三陸沖までのどこでも津波地震が発生するという推本と同じ見解、土木学会自身が、自分たちの専門家の集団にアンケートをして、推本の長期評価のほうがどちらかと言えば、信用できるという判断が下されていたことがはっきりと示されています。

 (1)社団法人土木学会に対する研究委託

 原子力発電所における津波対策を講じる前提となる設計上の想定津波水位は、従前より、一般に文献調査等により確認される既往最大津波による最高潮位を基準に設定するものとされていました。

 しかし、平成9年から平成10年にかけて政府の防災関係省庁間で取りまとめられた「地域防災計画における津波対策強化の手引き」では、防災計画上、考慮すべき対象津波として、既往最大津波だけでなく、「現在の知見に基づいて想定される最大地震により引き起こされる津波」をも取り上げるとする考え方が採用されていました。

 これを受けて、東京電力をはじめとする電力事業者(以下「東京電力等」)は、平成 11 年、想定津波に基づく設計上の想定津波水位の設定等に関する基準を策定するため、社国法人土木学会(以下「土木学会」)に対し、原子力発電所における津波評価を如何に行うかについての研究委託を行いました。

 土木学会は、土木工学の進歩、土木事業の発達、土木技術者の資質向上等を図るために、研究や調査等を実施することを目的とした社団法人(平成23年4月1日、公益社団法人に移行)です。

 東京電力等から研究委託を受けた土木学会では、原子力施設に係る土木技術に関する課題の調査研究を行う原子力土木委員会に、津波評価部会を設置し、委託を受けた事項につき調査研究を行うこととなりました。 これらの調査研究に要する委託料は、東京電力等から支払われ、津波評価部会には、委託元である東京電力等の社員も委員として、審議に関与していました。

 (2)第1期津波評価部会による津波評価技術の策定

 第1期津波評価部会は、平成11年10月から平成13年3までの間委託を受けた事項の調査研究を行い、その結果として、平成14年2月、「原子力発電所の津波評価技術」(以下「津波評価技術」)を策定の上、公表しました。

 この津波評価技術は、原子力発電所の安全性を確保するため、各発電所においてどの程度の津波の高さを想定すべきかという設計上の想定津波水位を導き出すために策定されたものでした。津波評価技術では、原子力発電所の特性を踏まえて津波評価を安全側に設定するため、調査等により確認される既往津波を選定し、地震発生を想定する領域内に当該既往津波の痕跡高を最もよく説明できる波源モデルを設定した上で、パラメータスタディ、すなわちその波源モデルの位置、深さ、向き、傾斜角等のパラメータを変異させて計算を実施し、それによって得られた最大の数値に潮位条件を考慮した上で、設計上の想定津波水位を算出することとされていました。この手法により算定される想定津波水位は、平均して既往最大津波による津波水位の約2倍になることが確認されました。

 (3)第2期津波評価部会における確率論的リスク評価手法の検討 -「重み付けアンケート」の結果-

 

 「津波評価技術」は、一定の想定水位を定め、その想定水位までの安全性を絶対的に確保することによって安全を確保するという考え方に基づくものでした。このような考え方は、一般に「確定論」又は「決定論」と言われるものです。

 一方、工学分野では、様々なリスクを評価する確率論的手法が進展してきていました。 津波についても確率論に立脚した手法の研究を進める必要があるとして、東京電力等は、土木学会に対して確率論的津波ハザード解析を委託し、これを受けた土木学会第2期津波評価部会では、平成15年6月から 平成17年9月にかけこの検討を行いました。

 このような確率論的津波ハザード解析は、地震の位置、規模、発生頻度、発生様式等を確率分布として表現することにより、津波水位の超過頻度を求めるもので、津波の高さごとのリスクを定量的に把握するための確率論的手法に基づく解析でした。確率論的なリスク評価においては、見解の分かれている知見等についてもそれを採るか採らなかの二者択一ではなく、異なる見解を相応に反映することが可能となるとされています。

 このようなことから、第 2 期津波評価部会では、確率論的津波ハザード解析を行うに当たり、各領域における地震発生の様式、規模、発生間隔等の地震学に関わる事項や計算の誤差の考え方等についての様々な事項に関する「重み付けアンケート」を実施しました。当然のことながら、地震本部によって公表された長期評価も、新しい知見として、これに関連したアンケートが実施されました。平成16年に実施されたこの「重 み付けアンケート」では、長期の地震活動について、

 ① 過去に発生例がある三陸沖と房総沖で津波地震が活動的で、他の領域は活動的でないという見解

 ② 三陸沖から房総沖までのどこでも津波地震が発生するという地震本部と同様の見解 の2つの選択肢で、地震学者等から回答を求める形で実施されました。

 その結果、地震学者等専門家の回答は、1.に多くの重みを付けた学者が3名、2.に多くの重みを付けた学者が4名、両者に全く同じ重みを付けた学者が2名で、その重みの平均値は、1.が0.46であったのに対して、2.が0.54と、地震本部の見解が上回っていました。

12 内部溢水・外部溢水勉強会の開催と報告

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 甲A222 平成17年12月15日 東京電力の酒井氏から関係者に送信した想定外津波に対する影響評価に関する保安院要請と題するメール

 保安院幹部、原子力基盤機構幹部の懸念からして、早急に対応してほしい。少なくとも設計を上回る津波が発生した場合、プラントの状態がどうなるかなどのケーススタディは早期に実施できるはず。2 プラント程度選定し、具体的な検討を進めたい。福島サイトを考えている

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 次に「12 内部溢水・外部溢水勉強会の開催と報告」では、今までにわかっていたスマトラ島沖の地震津波やフランスのルブレイエ原発の浸水事象等を踏まえて、原発はかなり津波に脆弱なのではないかということが議論されていたことが、正確に冒頭陳述の中にまとめられています。

 原子力安全・保安院と独立行政法人原子力安全基盤機構は、平成16年12月にスマトラ島沖地震で発生した津波によって、マドラス原子力発電所2号機の非常用海水ポンプが浸水したことなどを契機に、平成18年1月以降、電事連や各電力事業者に参加を求めて、設計上の想定津波水位を超える津波が襲来した場合の原子力発電所の設備・機器等に与える影響等を把握すること等を目的とした「内部溢水・外部溢水勉強会」 (以下「溢水勉強会」)を継続的に開催するようになりました。

 この勉強会では、平成11年にフランス・ルブレイエ原子力発電所で発生した大規模浸水事象なども、参照事例として取り上げられました。

 東京電力からは、当時、原子力設備管理部の機器部門の担当者であった長澤和幸、同土木部門の担当者であった柳澤賢(当時、土本部門の課長は酒井俊朗)らが、これに参加して対応していました。

 勉強会では、想定を超える津波に対する安全裕度等について、代表プラントを選定して、津波ハザードの評価や津波リスクの明確化を行うことなどの研究が継続的に行われました。
 そして、平成18年5月11日に開催された第3回溢水勉強会では、本件原子力発電所5号機に敷地高を1メートル超える高さ(O.P.+14m)の津波が無制限に襲来した場合には、非常用電源設備や各種非常用冷却設備が水没して機能喪失し、全電源喪失に至る危険性があることが報告されました。

 同年6月 9 日には、原子力安全・保安院及び原子力安全基盤機構の担当者により、本件原子力発電所の現地視祭が行われました。

 この視祭に際して、原子力安全・保安院の小野祐二班長から5号機の非常用海水ポンプについて、余裕が無さ過ぎるとの指摘がなされました。

 同年8月31日に開催された第7回溢水勉強会では、小野祐二班長から8月2日の安全情報検討会の結果に報告がありました。

 「安全情報検討会」というのは、原子力安全・保安院と原子力安全基盤機構とが連携して、原子力施設に関する国内外の安全情報を収集するとともに、これらの情報を分析し、必要な安全規制上の対応を行う検討会です。

 その検討会において、原子力安全・保安院の担当者から「耐震バックチェックでは土木学会手法でOKであったとしても、残余リスクが高いと思われるサイトでは個々の対応を考えた方がよい」というコメントがあったことが紹介されました。

 溢水勉強会の内容は出席した担当者によって逐一議事メモが作成され、資料と併せてファイルされました。また、その結果は、上層部にも報告されていました。 溢水勉強会の状況は、電事連の総合部会においても取り上げられていました。同年9月28日に開催された第385回原子力開発対策委員会総合部会では部会長として被告人武黒が出席している中、溢水勉強会への対応状況が報告され、今後の対応などが検討されました。

 

13 原子力安全・保安院による「耐震バックチェック」の指示と東京電力の津波対策

 そして、「13 原子力安全・保安院による「耐震バックチェック」の指示と東京電力の津波対策」、この辺りから重要になってきますが、2006年(平成18年)の9月に原子力安全保安院による耐震バックチェックの指示がだされます。この時点で、耐震バックチェックの最終終了は、バックチェックを始めて3年以内となっていました。そのことは最近、だいぶ明らかになってきています。今回の検察官役の主張の柱も2009年(平成21年)6月に福島第1原発の耐震バックチェックが完了する、その時には津波対策も完了しているものになっていることが据えられています。

 (1)耐震バックチェックの指示

 平成18年9月19日、原子力安全委員会は、原子力発電所の耐震基準に関する「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」を改訂しました(以下「新指針」)。 この新指針では、「地震随伴事象について」、発電用原子炉施設は、「施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があると想定することが適切な津波によっても、施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないこと」を「十分考慮したうえで設計されなければならない」と指摘されました。

 さらに9月20日、原子力安全・保安院は、各電力事業者に対し、既設の原子力発電所について新指針に照らした耐震安全性の評価を実施して報告を求めるいわゆる「耐震バックチェック」を指示しました。

 その指示に際して、「新耐震指針に照らした既設発電用原子炉施設等の耐震安全性の評価及び確認に当たっての基本的な考え方並びに評価手法及び確認基準について」と題する「耐震バックチェックルール」が示されました。

 この「耐震バックチェックルール」には、「津波の評価に当たっては、既往の津波の発生状況、活断層の分布状況、最新の知見等を考慮して、施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性がある津波を想定し、数値シミュレーションにより評価することを基本とする」と明記されていました。

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 甲A70 平成18年10月6日原子力安全・保安院から電事連に対して行った指示の内容を記載したメモ

 津波対応の個所では、自然現象であり、設計想定を超えることもありうると考えるべき。設計想定を超える津波が来る恐れがある。想定を上回る場合、非常用海水ポンプが機能喪失し、そのまま炉心損傷になるため安全余裕がない

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 旧原子力安全・保安院が、設計想定を上回る津波が来る恐れがあり、その場合には炉心損傷が起きるという認識を持っていたことがはっきりわかります。

 (2)新潟県中越沖地震の発生

 「耐震バックチェック」が進行中のさなかの平成19年7月16日、新潟県中越沖地震が発生しました。この地震により、東京電力柏崎刈羽原子力発電所(以下「柏崎刈羽原子力発電所」)の使用済核燃料プールから放射性物質を含む水があふれ出し、地下の排水タンクに流れ込むなどの事故が発生し、同発電所の原子炉がすべて停止するに至りました。

 7月20日、経済産業大臣は、電気事業各社に対して、「平成19年新潟県中越沖地震を踏まえた対応について」指示しました。

 

 (3)東京電力の新潟県中越沖地震対応 -「中越沖地震対応打合せ」の開催-

 1)「新潟県中越沖地震対策センター」の設置

 東京電力では、新潟県中越沖地震による事故を契機に、原子力・立地本部原子力設備管理部内に「新潟県中越沖地震対策センター」(以下「地震対策センター」)を設置し、同センターを中心に、相崎刈羽原子力発電所への対応だけでなく、本件原子力発電所の「耐震バックチェック」に関する業務を担うことになりました。

 「耐震バックチェック」には、地震随伴事象である津波の安全性評価が含まれているため、福島第一、第二原子力発電所の津波の安全性評価を行い、津波対策を具体的に検討するのも「地震対策センター」の重要な業務のひとつでした。

 地震対策センターは、吉田昌郎 原子力設備管理部長の管轄下にあり、山本和彦がセンター長となり、その下に津波評価を担当する土木調査グループ(平成20年7月1日までは「土木グループ」)と、津波対策を担当する土木技術グループ、機器耐震技術グループ、建築グループが設けられていました。

 土木調査グループは、酒井俊朗グループマネージャ、高尾誠課長、金戸俊道主任らで構成されていました。
 これを統轄する当初の原子力・立地本部本部長が被告人武黒、副本部長が被告人武藤で、平成22年6月、被告人武藤が、本部長に就任しました。

 2)「中越沖地震対応打合せ」の開催と被告人らの関与

 このように被告人武黒、同武藤が就任していた原子力・立地本部本部長は、津波の安全性評価を含む「耐震バックチェック」業務を統轄する立場にありました。新潟県中越沖地震による柏崎刈羽原子力発電所の上記事故は、東京電力の経営に重大な影響を及ぼすものでした。これに対処するため、「中越沖地震対応打合せ」と称する会議が開催されるようになりました。この会議は、「地震対応全体会議」、「中越沖地震対応会議」と呼ばれることもありましたが、被告人勝俣が出席していることから、社員の間では「御前会議」と呼ばれていました。 この会議は、原子力・立地本部のスタッフのみならず、被告人ら最高経営層が直接出席して、耐震安全性についての情報を共有し、上記事故後の対応等を具体的に協議する目的で、柏崎刈羽原子力発電所の上記事故を契機に、継続的に、特別に開催されるようになったものです。

 東京電力においては、業務執行に関する意思決定は、最高経営層が出席する「常務会」や「取締役会」で行われていましたが、このような会議では、会議の席上で初めて出席者に議案が知らされて議論が行われるのが通常で、議論の内容につき、事前の打合せが行われることはありませんでした。また、これらの会議には、社内の各部門から様々な条件が諮られますので、ひとつの案件に掛ける時間が限られ、継続的にひとつの案件について時間をかけて議論をすることも困難でした。

 柏崎刈羽原子力発電所や本件原子力発電所の耐震安全性や津波安全性を確保するという条件は、東京電力の経営にとっても、極めて重要な事項でした。

 したがって、この案件を所管する原子力・立地本部の担当者に全てを委ねるのではなく、被告人ら最高経営層が一堂に会して、細部に至るまで継続的に、かつ具体的な協議を行うことが効率的であり、その必要性もあったのです。

 このような理由で、「中越沖地震対応打合せ」が特別に開催されるようになりました。    「中越沖地震対応打合せ」には、
 ① 会長、社長及び副社長などの最高経営層
 ② 原子力・立地本部本部長、副本部長及び部長以下の幹部

 ③ 柏崎刈羽原子力発電所及び福島第一、第二原子力発電所の各所長

らが出席し、柏崎刈羽原子力発電所の復旧・再稼働のための耐震安全性の確保等に関する検討とともに、福 島第一、第二原子力発電所について、耐震安全性評価を行い、必要な対策を講じること等の具体的な検討が行われました。

 「地震対策センター」の担当者は、福島第一、第二原子力発電所についても、津波の安全性評価及びその対策に関する具体的調査・検討を行い、適宜その状況を「中越沖地震対応打合せの席上、被告人ら出席者に報告していました。
 「中越沖地震対応打合せ」は、被告人ら3名を含む最高経営層が参加する会議でしたから、単に情報を共有するだけでなく、席上、具体的な対応策が協議され、その結果の多くが「常務会」、「取締役会」に採用されて、最終的な意思決定がなされていました。この会議は、本件原子力発電所の運転、保安に関して、重要な役割を果たしていました。

 このように、被告人らは、取締役会等の構成員としてのみならず、「中越沖地震対応打合せ」に出席して、 本件原子力発電所の運転・安全保全業務に具体的に関与していたのです。

 この会議の性格付けについては、社長の清水正孝の供述調書が証拠として使われています。

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 清水正孝氏の供述調書である甲B96では、中越沖地震対応打合せが開催されるに至った経緯や同打合せの性格などにつき、「経営層の意思決定の場としては常務会や取締役会がありましたが、『中越沖地震対応打合せ』は常務会等で意思決定する前段階として、経営層の耳に入れておくべき中越沖地震後の対応に関する重要案件につき、情報を共有し合い、方向性の議論を行って、その方向性につき共通の認識を持つ場でした。」「中越沖地震対応打合せ」のように、会長から発電所の所長に至るまで、これほどの幅広に集まって方向性の議論を行い、共通の認識を持つ場というものは、私が知る限り、これまで例がなかったと思います。」

 甲B97では,中越沖地震対応打合せにおいて配付される資料に本件原子力発電所の津波対策に関する事項が記載されていたこと、配付資料にはすべて目を通していたことが述べられています。

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(4)東京電力における「長期評価」の検討

 平成19年11月ころから、地震対策センターは、長期評価の取扱に関して検討をはじめました。

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 甲A74 平成19年11月1日東電設計が福島第一、第二発電所に対する津波検討について作成した書面

 本件原子力発電所に対する津波の検討などについて、活字で記述されているものに赤字の手書きの書き込みがあり、検討業務と問題点と最新の知見等が記載されています

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  高尾誠と金戸俊道は、本件原子力発電所の耐震バックチェックにおける津波評価に際して、長期評価に基づいた想定津波水位を算出し、原子力安全・保安院に報告すべきかどうかについて検討し、東電設計の担当者である久保賀也と、津波評価に関する業務委託を行うにあたっての打合せを行いました。

 11月21日、東電設計の久保賀也は、長期評価の見解に基づいて、房総沖地震の津波の波源モデルを用いて概略的な想定津波水位を算出した結果を東京電力側に報告しました。

 その結果は、O.P.+7.7mであり、平成14年に行った津波評価による想定津波水位 O.P.+5.7mを上回っていました。

 そして長期評価に基づいてさらに詳細な検討をすれば、想定津波水位がさらに上回ることが予想されました。

 高尾誠や金戸俊道は、長期評価が地震本部という政府が地震に関する調査研究を実施するために設置した権威ある機関の見解であること、土木学会津波評価部会が行った重み付けアンケートにおいても、「どこでも発生する」という長期評価の見解を支持する考え方が多かったこと、東京電力の東通原子力発電所の設置許可申請においても、地震本部の見解を取り入れていることなどについて、共通の認識を持っていました。

 そこで、津波評価に当たっては、長期評価の見解を取り上げるべきだという考えを酒井俊朗に伝え、酒井俊朗もこれを承認しました。

 このアンダーラインを引いたところが、推本の長期評価を津波対策に当たって取り入れるしかないと東電の土木調査グループが判断した根拠と言うことになります。被告人等は、この長期評価の価値を低めようと、様々な主張を繰り広げていますが、見るべき反論はできていません。

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 甲A75 平成19年12月10日 日本原子力発電の関係者らが、東京電力の高尾氏から聞き取ったメモ これまで原子力安全・保安院の指導を踏まえても、推本で記述されている内容が明確に否定できないならば、バックチェックに取り入れざるを得ない、などと記載されています

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 こうして、平成20年1月11日、吉田昌郎らの承認を得た上で、東電設計に対し、長期評価の見解に基づく日本海溝寄りプレート間地震津波の解析等を内容とする津波評価業務を委託しました。

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甲A76 高尾氏のパソコン内にあった送受信したメールなどであり、時期は平成20年1月23日から平成21年9月24日のもの

 関係者間で、本件原子力発電所の耐震バックチェックに関するやりとりが行われています。平成20年1月31日のメールに添付された福島第一、第二原子力発電所における津波のバックチェックについてと題する資料には、地震調査研究推進本部が示す海溝沿いの震源モデルについては、津波の検討では当初確定論では扱わず、確率論の中で取り扱うこととしていた。既往の想定津波評価では、基準地震動策定のために設定している震源モデルの位置に、波源モデルを設定しておらず、この波源モデルの位置に、津波の波源モデルを設定すれば、これまでの想定津波高さを上昇側は上回り、下降側は下回る可能性が高い

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 (5)O.P.+7.7m の報告


 平成20年2月1日、山下和彦、酒井俊朗は、福島第一、第二原子力発電所所長らに対する耐震バックチェック説明会を行いました。

 その際、概略検討した結果から本件原子力発電所においてO.P.+7.7mとの結果が報告されていること、詳細検討を実施すればさらに大きくなる可能性があることを伝えました。

 山下和彦は、このころ、被告人武藤にも、長期評価を取り込むことにより、O.P.+7.7m になることを伝えました。

 山下和彦は、被告人武藤から、その対策として、「海水ポンプを建屋で囲うのがいいのではないか」などの指摘を受けました。

 そして、2月16日には、被告人ら3名も出席して「中越沖地震対応打合せ」が開催されました。

 山下和彦も、地震対策センター長としてこの会議に出席し、「Ssに基づく耐震安全性評価の打ち出しについて」(Ssは「基準地震動」)という報告を行いました。

 その中で、「地震随伴事象である津波への確実な対応」、「津波高さ」、「見直し」、「+7.7m 以上」、「詳細評価によってはさらに大きくなる可能性」、「指針改訂に伴う基準地震動Ss策定において海溝沿いモデルを確定論的に取扱うこととしたため」などと指摘しました。

 この報告に対して、被告人ら3名を含む出席者からは、特段の異論はなく、耐震バックチェックにおいて 長期評価の見解を取り上げる地震対策センターの方針が了承されました。
 このような経過で、被告人ら3名は、「地震随伴事象である津波」に関する情報とその問題点を具体的に共有するようになったのです。

 この会議は、耐震バックチェックにおいて長期評価の見解を取り上げる地震対策センターの方針を被告人等上層部を含めて決めた会議であり、津波対策の方針はここで確定したといえます。

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甲A156 平成20年2月16日に被告人武黒、被告人武藤、山下氏らが出席して行われた中越沖地震対応打ち合わせメモ
 その内容は冒頭陳述のとおりですが、添付の資料3「Ss(基準地震動)に基づく耐震安全性評価の打ち出しについて」には、地震随伴事象である「津波」への確実な対応について記され、津波の高さの想定変更が従来5.5mだったのが見直し(案)は7.7m以上、備考欄に「詳細評価によってはさらに大きくなる可能性」等と記載されています。

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甲A184 酒井氏らが平成20年1月23日から平成23年の2月26日かけて送受信した津波対策についてのメール

 平成20年1月23日に、酒井氏が中越沖地震対策センターつるがたかし氏らに送信したメールには、津波評価については、福島沖の基準地震動用地震モデルを津波に転換した場合に、NGであることがほぼ確実な状況。ようするに、中間報告に含む含まないかに関わらず、津波対策は開始する必要があり、そうであるのであれば、少なくとも津波に関して中間報告に含む含まないの議論は不毛な状況。それよりも津波の上昇側の 対策が現実にどのようにできるかが課題。

 平成20年2月4日に酒井氏が東京電力の長澤和幸氏らに送信した1F、2F 津波対策と題するメールには、 1F、2F 津波対策について、金曜日、山下センター長らと1F、2F にバックチェック説明を実施。津波について、今回建築が基準地震動用に改訂指針で記載される不確かさを考慮して、福島沖にマグニチュード8以上の地震を設定。現在土木で計算実施中であるが、従前評価値を上回ることは明らか。1F 佐藤GMからも強い懸念が示され、社内検討について、土木が検討結果を出してからではなく、早期に土木、機電で状況確認をする必要があるのではないかと認識。津波がNGとなると、プラントを停止させないロジックが必要。平成20年2月5日に長澤氏が酒井氏らに送信したメールには、武藤副本部長のお話として、山下所長経由でおうかがいした話ですと、海水ポンプを建屋で囲うなどの対策が良いのではとのこと。

 平成20年2月28日の地震対策センター伊東達也氏が、山下らに送信したメールには、昨日(2月27日)、 武黒本部長に承認書のご説明をした際、耐震バックチェック中間報告や柏崎の基準地震動については、3月の常務会に付議するようご指示を受けました。常務会案件として早急にエントリーしておかないと、他の案件で埋まってしまうことも危惧されておりました。

 平成20年3月7日の酒井氏が高尾氏らに送信したメールには、同日の津波対策のスケジュールに関する打合せについて、本日担当べスの表記会議で、津波高さが10m超になる旨、土木側から説明があったようです。

 平成20年3月20日の酒井氏が土木グループ関係者らに送信した「御前会議の状況」取扱注意

福島バックチェック関係、要対応津波関係。おおいで所長から推本モデルは福島県の防災モデルに取り込 まれており、8m程度の数字はすでに公開されている。最終報告で示しますでは至近の対応が出来ないとのコメントがあり、今回基準地震動で評価するプレート沿いの推本断層モデルを評価することとなったことについて、土木学会では評価不要としていたこと、推本評価を踏まえて今回評価せざるを得なくなったことの事実関係をまず整理。津波に関しては推本モデルの適応ということで当社福島地点のみの問題ではないため、太平洋岸各社で連携して、アクションプラン等を明確にしていつのタイミングでどう打ち出すかを確定する。

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 ここで、「津波がNGとなると、プラントを停止させないロジックが必要。」というメールは、大規模な津波対策工事をやることが前提となっていることを示しており、津波対策工事のために、プラントの停止もやむを得ないと考えていたこともうかがえます。

 (6)今村文彦教授の意見


 平成20年2月2 6日高尾誠は、東北大今村文彦教授を訪問し、「長期評価」について、意見を聴きました。今村文彦教授は、「福島県沖海溝沿いで大地震が発生することは否定できないので、波源として考慮すべきである」、「津波地震の波源モデルは三陸沖と房総沖を使う」と指摘しました。

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甲A184 平成20年2月27日に、高尾氏が酒井氏らに送信した津波評価今村教授相談結果と題するメールには、福島県沖海溝沿いの津波について、その取扱を東北大学今村教授に相談してまいりました。先生からは福島県沖の海溝沿いでも、大地震が発生することは否定できないので、波源として考慮するべきと考える旨ご指導いただきました。

甲A82 平成20年3月7日に東京電力の金戸氏らが出席して行われた津波対策のスケジュールに関する打ち合わせの状況を記載したメモです。「NISA(原子力安全・保安院)指示による耐震安全性評価の中で、津波に対するプラントの安全性を確認する必要があるが、土木G(グループ)の津内水位に関する評価状況から1F、2F(福島第一、第二原子力発電所)については今まで想定していた津波の水位を上回る見込み(O.P+約 5.5m→O.P+約 7.7m)である(社長会議にて説明済み)。この結果から、設備対策 が必要となることから、土木、建築、機器耐震各G(グループ)にて今後のスケジュールを作成するため、 スケジュール案を持ち寄り、打ち合わせを実施した。」と記載されています。また、主な議論として、「打ち合わせの中で、土木G(グループ)から津波高さがO.P.+12~13m程度になる可能性が高いとの説明があったが、機器耐震技術Gは福島サイトにおいてO.P.+10mを超えると主要建屋に水が流入するため、対策は大きく変わることを主張。用意したES(エンジニアリングスケジュール)も津波水位がO. 11P.+10mを超えると成り立たないこと、対策自体も困難であることを説明。土木G(グループ)にて再 度水位設定条件を確認した上で、想定津波高さが10数mとなる可能性があることについて上層部へ周知することとした。」と記載されています。

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 ここでは、想定される津波高さがかなり高くなることから、大規模な工事が必要であることが関係者間で共通の認識となっていたことがわかる。

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甲A158 平成20年3月20日に被告人武黒、被告人武藤、山下氏らが出席して行われた「中越沖地震対応打合わせメモ」です。打合わせでは、福島第一・第二原子力発電所における耐震バックチェクの中間報告 の内容、地質調査及び地震随伴事象に関するスタンスなどが確認され、QA集が添付されています。

甲A78は、東電設計が東京電力からの委託により行った福島第一、第二原子力発電所に対する津波評価業務に関する品質システム文書が編綴されたファイルで、この中には、平成19年11月以降の東京電力の担当者との詳細な打合せメモ、業務実施計画、津波の高さの計算結果、津波に対する対策工事の検討結果などの関係資料が編綴されています。

甲A79は、甲A78に編綴された委託業務に基づく東電設計の報告書で、平成22年3月に東京電力に正式に交付されたものです。

甲A78、79には、長期評価で示された日本海溝寄りプレート間地震津波を検討の対象としたこと、これに基づいて三陸沖を波源とした場合の津波水位の許算結果として、本件原子力発電所敷地南側の最大津波高さはO.P.+15.707m、北側では13.687mとなることが、平成20年3月18日の東京電力との打合せに際して東京電力側に示されたこと、この津波に対する対策工事の具体的内容が検討されたこと、さらに同年8月22日の打合せに際しては,房総沖を波源とした場合の津波の高さは、敷地南側でO.P.+13.552mとの許算結果が報告されたこと、等の記載があります。

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(7)耐震バックチェック中間報告の内容


 平成20年3月31日、東京電力は、原子力安全、保安院に対して、本件原子力発電所5号機に関する耐震バックチェック中間報告を提出しました。 この中間報告では、津波に対する安全性には触れられていませんでした。同日、被告人武藤も出席して、福島県に対して「耐震バックチェック中間報告」の説明を行い、津波の評価については、最終報告にて行う、最新の知見を踏まえて安全性の評価を行うことを確約しました。 上記中間報告において、本件原子力発電所の基準地震動の策定に際しては、地震本部の見解を取り入れていました。

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甲A88 平成20年3月31日に行われた「福島県生活環境部長への耐震バックチェック中間報告他の説明結果について【速報】」と題するメールです。県側の「津波に対する安全性評価は今回のバックチェック中 間報告には入っていないのか?」との質問に対し、東京電力は「津波の評価については最終報告にて報告する。最新の知見を踏まえて安全性の評価を行う。」と答え、被告人武藤は、マスコミからの質問に対し、「地質評価結果は7月までにまとめたい。バックチェックの最終報告は、2F(福島第二原子力発電所)が H21年3月、1F(福島第一原子力発電所)がH21年6月までにしたい。」と記載されています。

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 福島県への説明が東電にとって、いかに重要であったか、それがうまくできたかどうかが、パッと速報メールが流れるということで、この手続きの東京電力にとっての重要性がわかります。

 また、2009 年(平成21年)6月までに津波対策を含む工事をして、バックチェックを終えるということを東電、武藤さんはちゃんとマスコミの前で説明していたということがわかります。これは決定的に重要な事実です。この方針の中には、津波対策工事をこの時点までに完了させるという内容が入っているからです。このまま、進んでいれば、 2009年6月頃ないし数ヶ月遅れたとしても、2011年3月までに津波対策は完了し、事故は未然に防止できたのです。

14  想定津波水位の計算結果とこれに対する被告人らの対応

 (1)O.P.+15.707mの衝撃

 中間報告に先立つ、平成20年3月18日、東電設計から、東京電力に対して、地震本部の長期評価を用いて、明治三陸沖地震の波源モデルを福島県沖海溝沿いに設定した場合の津波水位の最大値が敷地南部でO.P.+15.707mとなる旨の計算結果が、詳細な資料とともに示されました。

 本件原子力発電所の1号機から4号機は、O.P.+10mの高さに設置されているのですから、この計算結果は、敷地の高さを超えて津波が襲来するという衝撃的なものでした。

 「O.P.+15.707mの衝撃」、これは検察官役がつけてくれたタイトルですが、まさしく、この計算結果は衝撃的なものだったのですね。おそらく、東京電力の関係者らは、10mぎりぎりくらいの数字がくると当初思っていた節があります。それが、15.7mという数字が来て、10m盤を大きく超えるという数字で、原子炉やタービン建屋内に海水を浸水させない対策が必要になるということで、早急に高尾さんは酒井さんに報告し て、東電設計に依頼して、敷地への津波の侵入を防ぐためにどの程度の防潮堤が必要なのか報告しろという検討が、当然ながら依頼されることになります。

 この計算結果によれバ、当然、原子炉・タービン建屋内に海水を浸水させない対策が必要になります。

 高尾誠は、この結果を酒井俊朗に報告し、酒井俊朗の指示を受けて、東電設計に対し、敷地への津波の遡上を防グため、敷地にどの程度の防潮堤を設置する必要があるのかの検討を早急に行うよう依頼しました。

 これを受けて、同年4月18日、東電設計は東京電力に対し10m盤の敷地上に1号機から4号機の原子炉・ タービン建屋につき、敷地南側側面だけでなく、南側側面から東側全面を囲うように10m(O.P.+20m)の防潮堤(鉛直壁)を設置すべきこと、5号機及び6号機の原子炉・タービン建屋を東側全面から北側側面を囲うように防潮堤(鉛直壁)を設置すべきことなどの具体的対策を盛り込んだ検討結果を報告しました(別図参照)。

 そして、公判当日、法廷で映し出された図です。東電設計が作成して、東電に収めた防潮堤の計画書です。計算結果のちょうど1ヶ月後の4月18日にこれが納入されている。

 東電設計は、10m盤の敷地上に1号機から4号機の原子炉・タービン建屋につき、敷地南側側面だけでなく、南側側面から、東側全面を囲うように10mの防潮堤(鉛直壁)を設置すべき、5号機から6号機の原子炉・タービン建屋を東側全面から北側側面を囲うように防潮堤(鉛直壁)を設置すべきことなどの具体的対策を盛り込んだ検討結果を報告しました。これが実施されていれば、みなさんの運命は変わったと言うことになります。

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甲A91 平成20年4月23日に東京電力の金戸氏らが出席して行われた本件原子力発電所の津波水位に関する打ち合わせの議事録です。想定津波高さが10数mとなる見込みであり、O.P.+10mに設置されている主要な建物への浸水は致命的であるとの観点から、津波の進入方向に対して鉛直壁の設置を考慮した解析結果が提示された、壁設置の場合19程度の水位を想定していることは対外的にインパクトが大きいと考えられることから上層部の意見を聞く必要があり土木G(グループ)にて対応予定などと記載されています。

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 この結果は、直ちに酒井俊朗に報告され、同年6月2日には、吉田昌郎にも報告されました。

bこのほかにも、東京電力は、東電設計に対し、10mの敷地上に津波が襲来するとの計算結果を踏まえて、様々な津波対策の解析を依頼しました。

 同年5月18 には、数値解析の観点から、津波水位を低減できないかの検討、さらに既存防波堤の付け根に津波減勢効果のありそうな防波堤を新たに設置する場合の解析を依頼しました。

 同年6月5日には、沖合防波堤を新たに設置した場合の検討も依頼しました。

 ここでわかることは、こんなすごい対策をすることになったら、福島の原発反対派が騒ぎ出して、すぐ止めろと言うことになったらたいへんだ。インパクトが強すぎる、どうにかならないか、そういう議論が起こってきていたことがわかります。

 結局、10m盤の上に10mの防潮堤を築くという計画は、そのまま6月10日の武藤さんへの報告の中で報告されている。なんとか10mの高さを下げようという工作は最後はうまくいかなかったのです。6月10日 の説明は、検察審査会の議決でも詳しく報告されてきたことですが、今説明してきたようなこと、「津波ハザード曲線」のグラフも含まれていました。O.P.+10mを超える津波が来る確率が1万年に1回から10万年 に1回と算出されていました。炉心損傷頻度を1万年に1回程度、格納容器機能喪失頻度を10万年に1回 程度に設定していました。O.P.+10mを超える津波が来る確率と、基準地震動を超える地震が発生する確率がほぼ同等であることを示していたのです。

 この方針に対して、武藤さんはこの場では、答えを言わないのですね。よし、わかったでもなく、だめとも言わず、言ったことは、次の通りです。

 (2)被告人武藤への報告

 このように、東電設計の検討結果は、大がかりな対策工事を必要とする内容であり、予算上だけでなく、地元等に対する説明上も非常に影響が大きい問題であることから、被告人武藤に報告して判断を仰ぐことになりました。

 平成20年6月10日、吉田昌郎、山下和彦、酒井俊朗、高尾誠、金戸俊道及び機器耐震技術グループ、建築グループ、土木技術グループの担当者が出席し、被告人武藤に、地震本部の長期評価を取り上げるべきとする理由及び対策工事に関するこれまでの検討内容等を資料を準備して報告しました。

 資料の中には、土木学会の津波評価部会の第2期の津波ハザード解析に関する検討結果を基に東電設計が 計算した結果から作成した「津波ハザード曲線(福島第6号機)」と題するグラフも含まれていました。

 このグラフは、本件原子力発電所において、O.P.+10mを超える津波が来る確率が1万年に1回から10万年に1回と算出されていました。原子力安全委員会安全目標専門部会は、すでに平成18年の時点で、発電用軽水型原子炉の性能目標の定量的な指標値として、炉心損傷頻度を1万年に1回程度、格納容器機能喪失頻度を10万年に1回程度に設定していました。また、平成18年の耐震設計審査指針の改訂では、基準地震動の策定にあたっては、当該指標値を参照することとされていました。言うまでもなく、年超過確率の基本的な考え方は、津波も地震も同じで、この指標値は、確率論的津波評価に際しても参照されるべき数値なのです。この計算結果は、津波と地震という違いはあるもののO.P.+10mを超える津波が来る確率と、基準地 震動を超える地震が発生する確率がほぼ同等であることを示していたのです。

 酒井俊朗、高尾誠が行った、地震本部の長期評価を採用して、津波対策を講じる方向での説明に対し、被告人武藤は結論を示さず、

 ① 津波ハザードの検討内容について詳細に説明すること、
 ② 4m盤への遡上高さを低減するための概略検討を行うこと、
 ③ 沖合に防波堤を設置するために必要となる許認可を調べること、

 ④ 平行して機器の対策についても検討すること、

を指示したため、酒井俊朗らは、上記事項をさらに検討した上、改めて報告を行うことになりました。

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甲A188 平成20年6月10日に吉田部長、山下センター長、上津原部長等が被告人武藤に対して「福島第一・第二原子力発電所津波評価の概要」について説明したメモであり、その内容は冒頭陳述のとおりです。

 福島第一原子力発電所の計算結果として、敷地北側で津波高さO.P.+13.7m、敷地南側で津波高さO. P.+15.7m、遡上域に鉛直壁の設置を仮定した場合の津波高さを割り出し、O.P.+10m盤に約10mの壁を設置して約O.P.+20mとすることが必要と記載され、耐震バックチェックにおいては、上記検討に加えて、津波に関する最新の知見も踏まえて発電所の安全性について検討を行い、必要に応じて対策を講じていくというスタンスが示されています。

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 高尾誠らは、同日、被告人武藤の指示を受けて、東電設計に対して、既設の防波堤をかさ上げした場合に、取水口前面と取水ポンプ位置での低減効果があるか否かの検討を依頼しました。これに対して、東電設計は、 同年8日、それまでに検討した対策工をとりまとめた資料を作成し、東京電力に交付しました。

 その資料中には、沖合防波堤を新たに設置した場合、津波水位を数メートル程度低減できることが示されていますが、このときの検討も1号機から4号及び6号機の南側のみならず全面に防潮堤(鉛直壁)を設置することを前提とするものでした。

 7月8日には、さらに、津波の進入方向に対して垂直に沖合防波堤を設置するケースで高さ10mという前 提で港湾の船舶の出入りを妨げないようにしながらさらに、津波の進入を防ぐような構造の防波堤の検討が依頼されました。これらの検討結果7月22日、報告されました。

 このへんで、かなり武藤さんの対応は、かなり怪しくなってきていますね。その後、武藤さんに言われて、東電設計との間で対策工事を細かく煮詰めていくような作業をやるわけです。そして、7月8日には津波の侵入方向に対して、垂直に沖合防潮堤を設置するケースで高さ10m いう前提で港湾の船舶の出入りを妨げないようにしながらさらに、津波の進入を防ぐような構造の防波堤の検討が依頼され、検討結果は 7月22日に報告されました。細かい対策が指示されています。

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甲A159 平成20年7月21日に被告人武藤、被告人武黒等が出席して行われた「中越沖地震対応打合わせ」 の議事内容を記載したメモです。「新潟県中越沖地震発生に伴う影響額の見通しについて」と題する資料等が配布され、中越沖地震発生に伴う柏崎刈羽原子力発電所の耐震安全性強化工事等のコストだけでなく、福島第一、第二原子力発電所に水平展開した対策費用の計上も記載され、平成20年 8 月末を目処に計画総予算を設定する予定と記載されています。

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 次に、冒頭陳述には出てこないのですが、私が重要だと思うのですが、甲A159 の「中越沖地震対応打ち合わせ」で、なぜか、ここには勝俣さんは出ていないのですが、要するに当時、中越地震によって、耐震工事を求められて、原発は止まっている、だけど、耐震補強でお金はかかる、そして、耐震補強工事を福島でもやらなければならない、そんな状況で、大規模な津波対策工事などやる金があるのかということをバーンと誰か別の人が出してきていて、こういう状況の中で、津波対策はやらないということが決まっていったのではないかと思います。

 (3)被告人武藤による方針変更


 平成20年7月31日、酒井俊朗及び高尾誠らは、改めて被告人武藤に対し6月10日に指示された項目についての検討結果を報告しました。 酒井俊朗らは、それまでに作成した資料に基づいて

 ① 4m盤への遡上を低減させるための方策、
 ② 沖合の防波堤の設置に伴う許認可の内容と必要とされる期間、
 ③ 想定津波水位について房総沖地震の波源モデルを用いる可能性、
 ④ 日本原子力発電や東北電力等の関係各社の検討状況、
 ⑤ 津波ハザード曲線の算出方法、
などについて説明しました。
 被告人武藤は、この報告を聞いて、

 ① 福島県沖海溝沿いでどのような波源を考慮すべきかについては、時間をかけて土木学会に検討してもらうこと、
 ② 当面の耐震バックチェックについては、従来の土木学会の津波評価技術に基づいて行うこと、

 ③ この方針について、専門家の了解をえること、
という方針を指示しました。

 この被告人武藤の指示により、地震本部の長期評価に基づいて、津波対策を講じるべきとする土木調査グループの意見は採用されないこととなりました。

 このことは、それまで土木調査グループが取り組んできた10m盤を超える津波が襲来することにそなえた対策を進めることを停止することを意味していました。

 これは、これまでの検察審査会の議決でも明らかになっていた事実です。はっきりいって、これはちゃぶ台返しですよね。それまで部下がやってきたものを全部ひっくり返して、すべて、推本の長期評価を取り入れるという前提で作業してきたものをやめだ、やめだと、土木学会でいくのだとひっくり返したのです。福島県沖では大きな津波など、起きるわけはないのだと言う立場に逆戻りです。この武藤さんの判断が決定的な間違いだったということは明らかだと思います。

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甲A95 平成20年7月31日に被告人武藤に対し説明された、「福島地点の津波評価について(状況報告)」 と題する資料です。津波対策工事の追加検討・津波水位の検討がなされていまたことが示されており、O. P.約15mの長大な防潮堤の設置や既設防潮堤(O.P.6.5m)の約O.P.20mへの拡張等コストの記載が あります。

甲A94 東京電力が作成した「福島地点のバックチェックにおける津波評価」と題する書面です。その冒頭 に「武藤常務説明において、地震調査研究推進本部の見解については、電力共通研究で今後数年間研究を行い、今回のBC(バックチェック)で取り扱わないこととし、学織経験者等と折衝を行うこととした」旨が記されています。(日付と作成名義の説明なし)

甲A91 平成20年7月31日午前11時01分の酒井氏の日本原電の安保氏、東北電力の松本氏宛て電子メールです。

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 「甲A94」は日付が書かれていませんが、「武藤常務説明」というものが、この書面に書かれています。「甲A91」は要旨告知で中身が説明されていませんが、酒井氏の日本原電の安保氏、東北電力の松本氏宛て電子メールです。これは、お詫びのメールなのだと考えられます。うちは対策できなくなりました。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんみたいなことが書かれているのだと思います。東北電力と日本原電は推本の長期評価をもとに対策をやろうとしていたわけで、太平洋岸の原発会社の足並みがばらけてきていることがわかります。

 原子力発電所の津波安全性評価は、従来より「襲来する可能性のある津波」が襲来しても安全性を損なうおそれがないかどうかでなされていました。

 本件原子力発電所についての津波高さの評価は、
設置許可時O.P.+3.122m、平成6年O.P.+3.5m、平成14年O.P.+5.7mと変遷してきましたが、東京電力では、その都度、「いつ」そのような津波が襲来するかを考えるまでもなく、津波対策の必要性を判断し、これに対処してきていました。

 現に、平成 14 年には、非常用海水ポンプ電動機を20cmかさ上げする等の工事を行っています。

 ところが、長期評価に基づいて 10m盤を超える津波が襲来するという計算結果が出ると、従来の姿勢とはうって変わって、土木学会に検討を委ねて、津波対策を先送りにしたまま、漫然と本件原子力発電所の運転を継続したのです。

 この点は、検察官役が言いたかった点ではないかと思いますが、本件原子力発電所についての津波高さの評価は、
設置許可時O.P.+3.122m、平成6年O.P.+3.5m、平成14年O.P.+5.7mと、徐々にかさ上げになってきたのですが、「東京電力では、その都度、「いつ」そのような津波が襲来するかを考えるまでもなく、津波対策の必要性を判断し、これに対処してきていました。現に、平成14年には、 非常用海水ポンプ電動機を20cmかさ上げする等の工事を行っています。簡単にできることだから、やったのだとは思います。高さが変わる度に、すぐ対策をやっていたじゃないかと指定弁護士は主張しています。ところが、長期評価に基づいて10m盤を超える津波が襲来するという計算結果が出ると、従来の姿勢とはうって変わって、土木学会に検討を委ねて、津波対策を先送りにしたまま、漫然と本件原子力発電所の運転を継続したのです。ですから、この点が、一番大きな過失として検察官役は主張していると思います。

 (4)被告人武黒への報告


 被告人武藤は、平成20年 8 月上旬ころ、津波水位の最大値が敷地南部で O.P.+15.707m なる旨の計算結果を、被告人武黒に報告しました。

 (5)房総沖地震の波源モデルに基づく O.P.+13.552mの計算結果

 平成20年7月31日に被告人武藤から方針が示された後も、 高尾誠は酒井俊朗の指示に基づいて、東電設計に対し、房総沖地震の波源モデルに基づく想定津波水位の算出を依頼しました。
 同年8月22日、東電設計から、地震本部の長期評価を用い、房総沖地震の波源モデルを福島県沖海溝沿いに設定した場合の津波水位は、本件原子力発電所敷地南部 O.P.+13.552m となる計算結果が示されました。この時点で、地震本部の長期評価を取り入れる限り、明治三陸沖地震の波源モデルを用いようと、房総沖地震の波源モデルを用いようと、想定津波水位は、原子炉建屋等の敷地高(O.P.+10m)を上回ることが明確に示されたのでした。 そしてこの波源モデルを房総沖地震とするという考え方は、後に述べるように、被告人らが依拠していた土木学会津波評価部会も、平成22年12月上旬には、これを採用するに至るのです。

 

 それから、「房総沖地震の波源モデルに基づくO.P.+13.552m」、これもとても重要で、7月31日に武藤さんから方針が示された後も、高尾誠さんは酒井俊朗さんの指示に基づいて、東電設計に対し、房総沖地震の波源モデルに基づく想定津波水位の算出を依頼しました。その結果O.P.+13.552mという結果が、8月22日 に上がってくるのですね。この数値は土木学会の評価値になるのです。もう少し、後ですけど。そして、その方針に従って、対策工事をやることになるのです。15.7mではないですが、13.5mでも同じくらいの対策をやらなければならなかったのです。

 (6)耐震バックチェック説明会での説明
 

 平成20年9月10日、本件原子力発電所の所長らに対して「耐震バックチェック説明会」が行われました。

 金戸俊道は、資料に基づいての長期評価の取扱いに関する説明をしました。資料の「今後の予定」には、「地震及び津波に関する学識経験者のこれまでの見解及び推本の知見を完全に否定することが難しいことを考慮すると、現状より大きな津波高を評価せざるを得ないと想定され、津波対策は不可避」と記載されていました。

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甲A100、甲101 平成20年9月10日に行われた東京電力・地震対策センターの耐震バックチェック説明会の議事メモであり、甲A100が本件原子力発電所の、甲A101が福島第二原子力発電所のものです。議事 概要は冒頭陳述のとおりです。

議事メモには、
「津波に対する検討状況(機微情報のため資料は回収、議事メモには記載しない)」
資料には、「東通(ひがしどおり)申請書では推本の知見(三陸沖から房総沖の領域内でどこでも発生)を参照し、三陸沖に地震を想定。」 「東北大今村教授(H20/2/26)福島県沖海溝沿いで大地震が発生することは否定できず、波源として考慮すべきであるとの見解。」 「地震及び津波に関する学識経験者のこれまでの見解及び推本の知見を完全に否定することが難しいことを考慮すると、原状より大きな津波高を評価せざるを得ないと想定され、津波対策は不可避」(冒陳p29) などの記載があります。

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 平成20年 9 月 10 日の「耐震バックチェック説明会」は、株主代表訴訟で東電から出た証拠です。

 上層部に津波対策を否定されても、また議事メモの中で、「地震及び津波に関する学識経験者のこれまで の見解及び推本の知見を完全に否定することが難しいことを考慮すると、現状より大きな津波高を評価せざるを得ないと想定され、津波対策は不可避」と記載されていました。どういう思いで、このメモを作っていたのかは本人に聞く必要がありますね。悔し紛れだったのかなんでしょうかね。このままではいけないと書いたのでしょうか。そういう興味深い文書が残っております。

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甲A104 平成20年10月30日から11月28日の聞に東京電力酒井氏,高尾氏,金戸氏らと東北電力松本康男氏らとの問でやりとりされた貞観津波の取扱に関するメールです。 11月28日18:07酒井氏が東北電カ関係者らに送信したメールには,「さて、早速ですが、戦術大変更となります。」「これを受けた当社の対応としては、・太平洋側津波のモデルについては、推本、福島県、茨城県,、佐竹等種々の考え方で独立に検討がなされている。 これらの津波については、研究を行って標準モデル構築に努め、その後、バックチェックを行う。」「非常に苦しいところですが、現時点ではそんな作戦しか思いつかず、ということで。そのスタンスで、NISA(原子力安全・保安院)、専門家の了解を得る。」との記載があります。

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 要するに土木グループの専門家たちは、自分たちが言っていることは、全然説得力が無く、苦しい説明であって、推本の長期評価でやると言うことで、一旦あげたのに、上層部に否定されちゃって、こんなことしか思いつきません、と言っているのだと思います。

 (7)「中越沖地震対応打合せ」における吉田昌郎発言


 平成21年2月11日、被告人ら3名も出席して、「中越沖地震対応打合せ」が開催されました。山下和彦が、中越沖地震対策センター作成の「福島サイト耐震安全性評価に関する状況」という資料に基づいて説明を行いました。配布された資料の中には、本件原子力発電所の耐震バックチェックの最終報告見込み時期として、1号機を平成22年4月、2号機を平成24年11月、3号機を平成23年8月、4号機を平成23年3月、5号機を平成23年1月、6 号機を平成24年5月、最終報告を平成24年11月とする旨の記載があり、「地震随伴事象(津波)」については最終報告で触れることとされていました。

 またこの資料には、地震随伴事象(津波)のところに書記役原田友和の手書きで「問題ありだせない(注目されている)」などの記載があります。

 席上、「1F、2Fのバックチェックの状況」(1Fは「福島第一原子力発電所」2Fは、「福島第二原子力発電所」)についての議論では、被告人勝俣の「最終報告とは工事まで終了しているということか」との質問から議事が進み、その議事過程で吉田昌 郎は、「土木学会評価でかさ上げが必要となるのは、1F5、6の R H R S ( 残留熱除去海水系)ポンプのみであるが、土木学会評価手法の使い方を良く考えて説明しなければならない。もっと大きな14m程度の津波がくる可能性があるという人もいて、前提条件となる津波をどう考えるかそこから整理する必要がある」と注目すべき発言を行いました。

 被告人勝俣は、吉田昌郎のこの発言を明確に聴きました。

 この14mというのは、三陸沖で想定したときは15.7m、房総沖で想定したときは 13.5mですから、そのちょうど中間辺りの数値として14mと言っていることがわかります。

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甲A165 平成21年2月11日に被告人ら3名が出席して行われた中越沖地震対応打ち合わせの内容を記載したメモ及び資料の一部です。

 バックチェックの状況について報告等がありました。

 その概要は冒頭陳述のとおりですが、吉田原子力設備管理部長の発言として、「もっと大きな14m程度の 津波がくる可能性があるという人もいて、前提条件となる津波をどう考えるかそこから整理する必要がある。」などの記載があります。

 また、資料「福島サイト耐震安全性評価に関する状況」において「耐震安全性評価報告書の構成」の「地震随伴事象(津波)」項目につき、中間報告で提出しないと記載されています。

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 「中越沖地震対応打合せ」では、それより以前から継続的に福島第一、第二原子力発電所の地震や津波の安全性評価等について報告や議論がなされ、情報が共有されてきていたのですから、このような津波水位に関する発言は極めて重大な情報でした。

 被告人勝俣は、このような発言を聴いた限り、少なくともこれ以降、本件原子力発電所の津波安全性評価に関する詳細な情報を収集するなどして、これに対応すべきでした。そうすることによって、原子力・立地本部本部長であった被告人武黒や副本部長であった被告人武藤に対しても、上発言の趣旨を確認し、被告人武黒、被告人武藤と同様の認識をするに至ることができたのです。

 この会合は、勝俣氏が津波のことを聞いたことが裏付けられる重要なポイントです。指定弁護士はこれで 勝俣氏の刑事責任も問えると考えているのです。

 

 (8)平成20年8月以降の検討


 高尾誠ら土木調査グループは、被告人武藤の指示に従って、平成20年8月以降、土木学会に地震本部の長期評価の取扱いを検討してもらうために、平成21年度からの電力共通研究として研究委託を行う手続を行いました。

 また、同年10月以降、首藤伸夫日本大学教授、佐竹健治教授、高橋智幸秋田大学准教授、 今村文彦教授、阿部勝征教授ら専門家に対して意見を聞くことなどを行いました。

 その間、被告人ら3名が出席する「中越沖地震対応打合せ」において、津波評価を伴う耐震バックチェックヘの対応について協議が続けられていました。

 被告人らは、「中越沖地震対応打合せ」の席上だけでなく、株主総会に向けての準備グループ経営会議、常務会等の会議において、担当者から、本件原子力発電所の津波安全性評価を含む運転・安全保全業務に関する報告を受け、資料の配布を受けるなど、被告人らには、頻繁に本件原子力発電所の津波安全性評価に関する情報が提供されていました。

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A136 平成19年度から平成22年度までの株主総会本部長手持資料のうち、津波対策の記載を抜粋したものです。

 平成21年度資料には次の記載があります。
 「地震本部の知見 地震調査研究推進本部は太平洋岸の海溝沿いのどこでも大地震が発生するとしており、これに伴う津波を考慮すると福島第一、第二とも敷地レべル(1F(福島第一原子力発電所):O.P. +10~12m、2F(福島第二原子力発電所):O.P.+12m)まで達し、非常用海水ポンプは水没する。」

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 株主総会に出ていた幹部は全員このような説明資料を持っていたということがわかります。

 こうしたなかで、「耐震バックチェック」の最終報告を延期することや、津波対策費用については、数値を確定してからでないと定まらないとの理由で、検討を要する事項とすることなどが確認されました。

 このような諸事情は、上記会議等に出席していた被告人らが、本件原子力発電所の津波安全性評価に関する情報を収集することができ、またすべきであったことを示しています。

15 土木学会第3期、第4期津波評価部会における検討

 (1)第 3 期津波評価部会による確率論的リスク評価手法の検討

 原子力安全委員会においては、地震動に対する耐震安全性評価における確率論的評価(「確率論的安全評価」Probabilistic Safety Assessment 高尾誠 : PSA)の導入が議論されており、津波に対する安全性評価についても確率論的評価が必要になると考えられていました。

 東京電力等においても、確率論的津波評価の実用化に向けてモデルの高度化と標準化の必要性が認識され、土木学会に対して、その研究を委託しました。

 こうして、平成19年1月から平成21年3月までの間に開催された第3期津波評価部会では、引き続き、確率論的津波ハザード解析の検討が行われました。

 この調査研究の過程で、津波の発生領域については、津波評価技術のほか、地震本部の長期評価や当時進展が見られた貞観地震の知見も考慮され、第2期同様に、波源の選定に関する「重み付けアンケート」が行われました。このアンケートでは、
 ① 三陸沖と房総沖のみで発生するという見解

 ② 津波地震がどこでも発生するが、北部に比べ南部ではすべり量が小さいとする見解

 ③ 津波地震がどこでも発生し、北部と南部では同程度のすべり量の津波地震が発生する

という見解の3つの選択肢で実施されました。

 平成21年2月23日、「重み付けアンケート」の結果が報告され、地震学者等専門家の回答は、1.に最も重みを付けた学者が5名、2.に最も重みを付けた学者が4名で、3.に最も重みを付けた学者が2名で、その平均値は、1.が0.35、2.が0.32、3.が0.33 で、2と3を合計すると0.65で、津波地震がどこでも発生するという考え方が、三陸沖と房総沖のみで発生するという見解を大きく上回っていました。

 こうして第3期津波評価部会は、その成果として、津波ハザード解析の手法について、第2期の成果も含めた中間的な取りまとめとして、同年3月、「確率論的津波ハザード解析の方法(案)」をまとめました。

 この解析方法は、各原子力発電所における確率論的津波評価を実施できるだけの精度に達していました。

 こうしたことから、東京電力は、同年12月、東電設計に対して本件原子力発電所、福島第二原子力発電所、柏崎刈羽原子力発電所について、上記津波ハザード解析に関する検討結果に基づいた津波ハザード評価を委託しました。

 その結果、本件原子力発電所4号機の評価地点において、10メートルを超える津波の年発生頻度は1万年に1回から10万年に1回の15メートルを超える津波の年発生頻度は10万年に1回から100万年に1回 との結果が、遅くとも平成22年12月頃までには算出され、東京電力に報告されました。

 この結果も、平成20年の1度目の津波ハザード評価と同様、平成18年に原子力安全委員会安全目標専門部会が示した指標値に照らすと、本件原子力発電所の保全のために取り込むべき数値でした。

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甲A167 平成21年6月28日に行われた地震対応全体会議の議事メモ及び資料の一部です。被告人ら3名がいずれも出席しており、同会議では「1F、2F (福島第一、第二原子力発電所)の耐震バックチェックの状況」について報告等がありました。
 メモには被告人勝俣の発言として、「福島の耐震補強工事が完了するのはいつになるのか。」、「解析はH23年に完了しているのに、補強工事が遅れると説明が難しいのではないか。」,「KK(柏崎刈羽原子力発電所)は世間から注目されていることもあり,丁寧に対応していかなければならない。」

 被告人武黒の発言として 「他電力もバックチェックの完了と補強工事の完了との聞にギャップがあるのか。」などの記載があります。

甲A168 平成21年9月6日,被告人ら3名がいずれも出席して行われた「地震対応全体会議」の議事内容を記載したメモ及び資料の一部です。本件原子力発電所の耐震安全性評価の状況について報告があり、メモには、被告人武黒の発言として 「現場の工事は実際いつから始まるのか。」、「バックチェックの報告書はいつ頃提出するのか。」、「他電力はH23年度までに提出するのではないか。」、「先日の8.29のイベントで速やかに報告するという話をしていたが。」、「もともと保安院ともそういう話はあったが、報告書を提出した時点でNGとはいえないので工夫が必要」

 被告人勝俣の発言として 「まずは、補強工事が出来るところから進めていくしかない。」などの記載があります。

甲A184 平成21年9月24日に酒井氏が吉田氏らに送信した福島津波対策と題するメールには、吉田部長、 山下センター長ほか関係各位 福島巨大津波(貞観津波、推本津波)対応について、適宜武藤常務以下に報告をしつつ進めております。先日、武藤常務から福島の津波の状況を聞かせて欲しい旨のオーダーがありました。個別に吉田部長、武藤常務に説明すること考えていたようです。

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 (2)第 4 期津波評価部会における津波評価技術の改訂


 土木学会第 4 期津波評価部会は、東京電力等から、「津波評価技術の体系化に関する研究(その 4)」の委託を受け、平成21年11月から、その調査・研究を開始しました。主査には、首藤伸夫教授が就任し、委員の中には委託元である東京電力をはじめ、中部電力、関西電力等の電力会社の社員も含まれていました。

 部会では、最新の知見を踏まえて確定論に基づく津波評価技術を改訂するとともに、確率論的津波評価について標準的手法を示すことを目的として、津波評価技術の改訂についての検討等が行われました。

 福島県沖日本海溝沿いにおける基準断層モデルの設定方法も検討課題とされ、地震本部の長期評価を確定論としてどのように取り込むかが、主題として審議されました。
 平成22年 12 月 7 日、土木学会津波評価部会幹事団は、同日開催された部会会議に、「波源モデルに関する検討」と題する報告書を提出しました。

 この幹事団の中には、東京電力の高尾誠、金戸俊道、東電設計の安中正らも含まれていました。

 この中で、三陸沖~房総沖海溝寄りのプレート間大地震の波源については、南部は、1677年房総沖地震を参考に設定する旨の報告がされ、この内容につき、出席した地震学者らからは、異論はありませんでした。 地震本部の長期評価を用い、房総沖地震の波源モデルを福島県沖海溝沿いに設定すると、本件原子力発電所敷地南部での津波水位がO.P.+13.552mとなるとの計算結果は、すでに2年以上前の平成20年8月22日、

 東電設計から示されていたことは、前述しました。

 ここで、重要なことは、2010年(平成22年)12月7日、土木学会津波評価部会幹事団は、「波源モデルに関する検討」報告書を提出しているのですが、1677年房総沖地震を参考に設定すると報告がされ、O.P.+13.552mという計算結果が出され、これが土木学会の評価になり、これに基づき、耐震バックチェックを行うことになりました。  

 この時点で、少なくともアウトと言うことがわかっていたということです。先ほど言った15.7mより少し津波高さが減っていますが、土木学会でもこの方向でまとまっていたということが、示されています。これも、被告人等の過失を裏書きする決定的な事実のひとつです。

16 福島地点津波対策ワーキング会議の開催

 平成22年8月、高尾誠は、山下和彦の後任である土方勝一郎新潟県中越沖地震対策センター長らに対し、地震対策プロジェクトグループ全体を取りまとめて、その下で各グループが検討を進めることが必要である旨の進言をしました。

 こうして、同年8月27日、第1回福島地点津波対策ワーキング会議が開催され、土木調査グループからは高尾誠、金戸俊道が出席しました。

 2010 年(平成22年)8月27日、第1回福島地点津波対策ワーキング会議が開催されました。これも、よくよく見直すと政府事故調の中にちらっと書いてあるのですよ。「頭の体操」をやっていたなどと書いてはあるのだけど、 それはとんでもないことで、「頭の体操」などではなくて、同年12月6日には第2回、2011年(平成23年)1月 13日には第3回、同年2月14日には第4回が開催され、具体的な津波対策が議論されています。

 簡単に言うと、上層部では防潮堤の建設は理解が得られなかったけれど、やれる電源対策やポンプ対策など、できないかなど一生懸命に検討していたことがわかります。しかし、工事はいっこうに進みませんでした。

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甲A120 平成22年8月27日に東京電力社内で行われた第1回福島地点津波対策ワーキングの議事録と資料です。

 議事録には、土木調査Gr(グループ)からの報告として、「土木側の対策として防潮堤の設置を検討していたが、『発電所設備は、守れても発電所周辺の一般家屋等に影響あるのは、好ましくない。』との社内上層部の意向があり、本検討中は中断中。」

 機器耐震技術Gr(グループ)(電圧班)からの報告として、「推本のO.P.10m以上の津波に対しては、既存の非常用海水系電動機では、機能を維持出来ないため、水密化電動機の開発について実現性の可否を含めて検討中。」「推本のO.P.約10m津波の衝撃力に対する電動機及びポンプの耐力評価を行った結果、衝撃力に耐えられないという結果が出ており、津波対策として水密化電動機を採用する場合には、 防潮堤、防護壁、建屋等の津波衝撃力緩和策及び漂流物防止策も同時に実施することが必須。」

などの記載があります。

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 平成22年12月6日には第2回、平成23年1月13日には第3回、同年2月14日には第4回が開催されました。

 第3回の会議において、金戸俊道は、土木学会津波評価部会で、地震本部の見解に対応した波源として、日本海溝南部では、当初海溝沿いで最も大きな津波を発生させる三陸沖北部の波源を想定していたが、日本海溝南部は北部と特徴が異なることから、房総沖の波源を用いることが提案されたこと、上記提案には異議がなかったこと、この場合でも、本件原子力発電所の敷地南部からの遡上については、11m程度であることから、敷地高さの10mを超えてタービン建屋が浸水する可能性があることなどを報告しました。

 第4回の会議において、土木調査グループは、「1677年房総沖」津波による浸水イメージをもとに、津波解析を実施すること、土木耐震グループは、津波対策工の成立性を検討していくことなどを報告しました。

 しかし、平成23年3月11日までに、具体的な津波対策が現実に開始されることはありませんでした。

17 長期評価の改訂

 平成23年2月下旬、高尾誠は、文部科学省から地震本部の長期評価を改訂する予定であることの事前説明をするとの連絡を受けました。文部科学省からの連絡を受けた後の2月22日、原子力安全・保安院原子力発電安全審査課耐震安全審査室の名倉繁樹審査官から連絡を受け、高尾誠は名倉繁樹審査官と打合せを行いました。

 名倉繁樹審査官から、文部科学省は同年4月に長期評価を改訂して公表することを予定していること、改訂される内容によっては電力事業者に対して何らかの指示を出す可能性もあること、まずは東京電力の検討状況を聞きたいと言われました。

 高尾誠は、東京電力にとって影響の大きい話であると考え、すぐに被告人武藤も含めた幹部に名倉繁樹審査官の話を伝えました。

18 原子力安全、保安院による東京電力に対するヒアリング

 平成23年3月7日、高尾誠らは、原子力安全・保安院の小林勝耐震安全審査室長、名倉繁樹審査官らと面会しました。

 席上、小林勝らは、地震本部が同年4月中旬に予定している「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価」改訂版の公表に対する東京電力の対応についてヒアリングを行いました。

 高尾誠は、土木学会津波評価部会においても、「北部では『1896 年明治三陸沖』、南部では『1677年房総沖』を参考に設定する方針に異論なし」とされていることを説明するとともに、「明治三陸沖」で評価したときは、本件原子力発電所南側で O.P.+15.7m、「房総沖」で評価したときは、O.P.+13.6mの津波が予想され、 タービン建屋等が浸水するとの分析結果がすでに出ていることを資料を示して説明しました。小林勝らは、 この説明に驚き、早急に対策が必要である旨の指導をしました。しかし、東京電力では何らの対応策も講じることはありませんでした。

 

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甲A130 平成23年3月7日に東京電力が原子力安全・保安院から受けたヒアリングの状況を記載したメモ及びその説明資料で、東京電力作成の「地震本部の見解に対応した断層モデル」に対する津波評価についての資料等が添付されています。

 この資料には、地震本部の見解に基づき、「明治三陸沖」で評価したときの津波水位は、本件原子力発電 所北側でO.P+13.7m、南側でO.P+15.7mとなること、土木学会津波評価部会の2010年12月7日時点での審議状況として、「北部では『1896年明治三陸沖』、何部では『1677年房総沖』を参考に設定」 との方針に異論なしとされており、これに基づいて「房総沖」で評価したときは、O.P+13.6mとなる ことなどが記載されています。

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 そして、その4日後に本件地震が発生し、O.P.+10m を超える津波が襲来したのです。

 2011 年(平成23年)3月7日、地震、事故の4日前になりますが、東京電力の高尾誠さん達は、原子力安全・保安院の小林勝さん、名倉茂さんらと面会ということで、ここで、高尾さんが、土木学会津波評価部会で、「北部では『1896年明治三陸沖』、南部では『1677年房総沖』を参考に設定」する方針で異論無しとされていることを説明した。この方向できまったという説明ですよね。本件原子力発電所で、南側でO.P. +15.7mとなること、「房総沖」では、O.P.+13.6mでタービン建屋が浸水するなどがわかっていることを資料を示して説明。小林勝らはこの説明に驚き、早急に対策が必要だと指導したと記載されています。

 この段階でも止めることができたということです。

19 まとめ

 (1)東電設計による津波評価の計算結果は、本件原子力発電所に10m盤を超える高さの津波が襲来することを示すものでした。被告人武藤は平成20年6月10日、被告人武黒も遅くとも同年8月上旬には、上記計 算結果を実際に認識していました。 しかも、被告人らが出席する「中越沖地震対応打合せ」等が継続的に行われ、席上、本件原子力発電所に関する様々な情報が報告され、とりわけ平成21年2月11日には、当時原子力設備管理部長であった吉田昌郎が「もっと大きな14m程度の津波がくる可能性があるという人もいて」などと発言しているのですから、被告人勝俣も上記事実を知ることができました。このような状況である限り、被告人勝俣は、継続して本件原子力発電所の安全性に係る会社内外の情報を常に収集することによって、東電設計の計算結果の重大性は、十分に認識できました。被告人武黒も同様です。

 このように被告人らは、いずれも本件原子力発電所に10m盤を超える津波が襲来し、これにより同発電所の電源が喪失するなどして、炉心損傷等の深刻な事故が発生することを予見できたのです。

 そして万一、被告人らが、東電設計の計算結果や吉田昌郎発言を軽視し、安全性評価や津波対策についての情報を収集することや共有することを怠り、適切な措置を講じることの必要性を認識していなかったというのであれば、そのこと自体、明らかに注意義務違反です。

 (2)さらにまた、被告人らは、長期評価の取扱いについては、土木学会に検討を依頼し、その検討結果に基づいて、その時点で必要と考えられる津波対策工事を行う方針であったと主張するもののようです。しかし、土木学会においても、三陸沖~房総沖海溝寄りのプレート間大地震の福島県沖の波源については、房総沖地震を参考に設定することとされ、しかも、この方法による本件原子力発電所敷地の津波水位は、すでに平成20年8月の時点で O.P.+13.552mであるとの計算結果が明らかとなっていたのです。

 仮に被告人らの主張を前提としても、上記方針は被告人らが自ら設定したのですから、被告人らはこのような諸情報については、当然に報告を受けていたと推認することができます。もし、被告人らがこのような土木学会の状況などの報告を求めず、その状況を把握していなかったとすれば、このこともまた、なお一層、被告人らの注意義務違反となるのです。

 (3)被告人らは、発電用原子力設備を設置する事業者である東京電力の最高経営層として、本件原子力発電所の原子炉の安全性を損なうおそれがあると判断した上、防護措置その他の適切な措置を講じるなど、本件原子力発電所の安全を確保すべき義務と責任を負っていました。運転停止以外の「適切な措置」を講じることができなければ、速やかに本件原子力発電所の運転を停止すべきでした。

 それにもかかわらず、被告人らは、何らの具体的措置を講じることなく、漫然と本件原子力発電所の運転を継続したのです。被告人らが、費用と労力を惜しまず、同人らに課せられた義務と責任を適切に果たしていれば、本件のような深刻な事故は起きなかったのです。指定弁護士は、本法廷において、このような観点から、被告人らの過失の存在を立証します。

 最後にまとめですが、武藤さんは 2008 年(平成20年)6月10日に10m盤を大きく超える津波が来ることを知っていた。武黒さんは武藤さんから聞いて、遅くとも同年 8月上旬には、知っていたと言うことが、証拠上、明らかになっています。勝俣さんも「中越沖地震対応打合せ」等が継続的に行われ、2009年(平成21年)2月には 「もっと大きな14m程度の津波がくる」と発言がされたことが、議事録で残っているわけですから、勝俣さんも聞いているはずだと言うことがはっきり指摘されています。 土木学会においても、三陸沖~房総沖海溝寄りのプレート間大地震の福島県沖の波源については、房総沖地震を参考に設定することとされ、しかも、この方法による本件原子力発電所敷地の津波水位は、すでに2008年(平成20年)8月の時点でO.P.+13.552mであるとの計算結果が明らかとなっていました。

 

 仮に被告人らの主張を前提としても、上記方針は被告人らが自ら設定したのですから、被告人らはこのような諸情報については、当然に報告を受けていたと推認することができます。もし、被告人らがこのような土木学会の状況などの報告を求めず、その状況を把握していなかったとすれば、このこともまた、なお一層、被告人らの 注意義務違反となるのです。指定弁護士はこういう主張もしているのです。

 そういう意味では、この事故を防ぐための手段機会は複数あったことがわかるわけですが、2008年(平成20年)6月10日に示された案をよし、わかった。仕方が無い、やるんだ。とやっていれば、この事故は防げたわけです。それ以降にも何度も、せめて電源対策などの工事をやらなければいけないという、小田原評定のような会議は何度もやっていたことも明らかになってきました。後に2011年(平成23年)3月7日に保安院に持って行ったときにも、早く対策をやらなければだめだといわれているわけです。

 土木学会に持って行っても 13.5メートルだと言われてしまっているわけです。そういう意味で、どんな方向から考えても、この原発を津波対策を取ることなく、2011年3月11日に運転を続けていたことは、正当化できる根拠がないと非常にはっきりしたと思います。

 もうひと言だけ、感想を言わせてもらうと、みなさん、非常に驚かれたと思いますが、これだけの事実が隠されていたということになります。これだけの事実が2011年の8月ころには、検察庁、政府事故調はすべて握っていたはずです。その当時作られていた捜査資料の中には全て集められていたのです。今回新しく、検察官役が発掘してくれた資料というのは、東京電力のメールサーバーから、メールの束のデータをとってきて、解析して、非常におもしろいメールが出てきて、それを分析した結果のようです。それ以外のちゃんと編綴されていた文書なんかは、一目見て、これは最も重要な文書だとわかるわけです。この基本的なストーリーは2011年の夏には、検察当局はすべて握っていたはずです。そのあとの捜査は一体、何だったのか。告訴団の人たちをあきらめさせ るために、捜査をやっている振りだけをしていたのか。もう、捜査は完了していた。起訴できるだけの資料はあったのです。しかし、私たちは訳のわからない不起訴説明を聞きましたよね。

 15.7mのシミュレーションに基づいて、防潮堤を作っても、南側だけしか作らなかったから、その時、波は東側から来たんだから、事故は防ぐことができなかったと、検察官から2度ほど聞きましたよね。でも、これは全く嘘でた。東京電力は、敷地の南北の全面に防潮堤を作るという計画書を作っていて、これが武藤さんに決裁のためにあげられていた。

 こういう図面を持ちながら、以上のような説明を僕らにして、黙らせよう、あきらめさせようとしたのです。本当に悪辣だったと思うんですね。この悪辣さは極まれりという感じがします。しかし、検察審査会の2度の強制起訴決定で、あきらかにすることができたことがいかに貴重なことか。そして、僕たちは被害者参加の代理人という形で、法廷の中で、詳しく公判の経過を聞いて、みなさんに報告できる。報道機関の方々も非常にがんばってくれて、メモを一生懸命とられたと思いますが、ここまで詳しい説明は、翌日の新聞には載らなかったですよね。載せられなかったというのは、メモ能力の問題だと思います。

 

 これから、秋に向けて、証人調べなどがはじまる予定で、機会はいろいろあると思います。これから、いろいろと明らかになると思いますが、事実は細部に宿ると言いますが、この事故経緯のディテールをみなさん、しっかり勉強してほしいし、この裁判は絶対に負けない裁判だと確信を持って、この裁判を支えていただければと思います。弁護団としてもがんばっていきます。いろいろと情報開示については、制限を課されている中で、猿グツワをされながら、一生懸命叫んでいるような状況ですが、みなさんに正確な事実を伝えられるようにがんばっていきたいと思います。どうぞ、支えてください。ご清聴ありがとうございました。

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