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#069 稲田防衛大臣辞任関連各社社説
(2017.7.29)
※ 各社説とも、稲田氏をかばい続けた任命権者たる安倍首相の責任は重大だ」というが、それ以上の主張がない。
安倍首相は常に「責任はある」と言明しても、「責任を取る」と言ったことはない。
何故、「安倍首相は責任を取って退陣せよ」とはっきりと主張しないのだ?
各社とも弱腰に過ぎる。だからメディアは信頼されないのだ。
◉ 朝日新聞 2017.7.29
陸自PKO日報問題 隠蔽は政権全体の責任だ
稲田防衛相と防衛事務次官、そして陸上幕僚長が辞任する。
南スーダン国連平和維持活動(PKO)に派遣された陸上自衛隊の日報の隠蔽(いんぺい)疑惑は、防衛省・自衛隊のトップ3人の辞任という異例の事態に発展した。
これは単に防衛省・自衛隊の問題にとどまらない。
実力組織である自衛隊をいかに統制するかという民主主義の根幹にかかわる問題が、安倍政権でこれほどまでに軽々に扱われている。まさに政権全体の姿勢が問われているのだ。
■あいまいな監察結果
この問題では、防衛相直轄の防衛監察本部が、3月から特別防衛監察を実施していた。
だが、きのう発表された監察結果は極めて不十分だった。
「廃棄した」とされた日報データが陸自にあったことが、稲田氏に報告されたか。
それが最大の焦点だった。なのに、報告書はそこがあいまいにされている。
報告書は、稲田氏も加わった2月13日と15日の会議で「陸自における日報データの存在について何らかの発言があった可能性は否定できない」と認めた。
その一方で「日報データの存在を示す書面を用いた報告がなされた事実や、非公表の了承を求める報告がなされた事実はなかった」と結論づけている。
書面は用いなかったかもしれない。では「口頭での報告」はあったのか。多くの人がそう疑問に思うはずだ。
だがその点について、報告書は何も記していない。
「非公開」とする決定に稲田氏が関与したかどうかについても、「何らかの方針の決定や了承がなされた事実もなかった」という。政権にとって都合のよい結論をただ示されても、納得する人はどれほどいよう。
そもそも防衛相は特別防衛監察の対象外だ。稲田氏は約1時間聴取に協力したというが、防衛相の指示で行われる監察が防衛相自身に機能するだろうか。結果をみれば、制度の限界を露呈したというほかない。
■安保法の実績のため
資質が疑問視されていた稲田氏を防衛相に任命し、批判を浴びる言動を繰り返してもかばい続けた首相の責任は重大だ。
政権が問われるのは、それだけではない。
実際は存在していた文書を、組織ぐるみでなかったことにした背景に何があったのか。
昨年7月の日報には、南スーダンの首都ジュバで起きた激しい「戦闘」が記録されている。しかし、首相や稲田氏はこれを「衝突」と言い換えて国会で説明してきた。
安倍政権は当時、安全保障関連法による「駆けつけ警護」の新任務の付与を検討していた。そんななか日報が開示され、現地で「戦闘」が起きていることが国会や国民に伝われば、PKO参加5原則に照らして派遣継続自体が困難になりかねない。
日報隠蔽疑惑の発端にはそんな事情があった。
結果として、派遣延長や駆けつけ警護の付与という政策決定が、国民にも国会にも重要な判断材料を隠して行われたことになる。政権による安保法の実績作りのために、現地の治安情報をねじ曲げたとも言える。
主権者と立法府への背信行為にほかならない。実力組織の運用について、政府の決定の正当性そのものが揺らぐ事態だ。
■国会の役割が重要だ
防衛省・自衛隊の隠蔽体質をどのように改善し、適正な情報公開や文書管理を実現するか。自衛隊への民主的統制をいかに機能させるのか。
真相究明をうやむやに終わらせれば、再発防止策は立てられない。そればかりか、再び同じ過ちを起こしかねない。
加計、森友問題でも見られるように、情報公開や文書管理を軽視するのは安倍政権の体質である。
これまでの経過をみれば、防衛省の自助努力に任せることはできない。政府による文民統制を再構築すると同時に、国会による統制の機能を強めなければならない。
与野党は再来週、閉会中審査に臨むことで合意した。稲田氏が参考人招致に応じるのは言うまでもないことだが、安倍首相も出席すべきだ。
首相はきのう、こう語った。
「閣僚の任命責任についてはすべて総理大臣たる私にあります。国民の皆様の閣僚に対する厳しいご批判については私自身、真摯(しんし)に受け止めなければならないと思っております」
ならば自ら進んで出席するのが当然だ。首相は自衛隊の最高指揮官でもある。
憲法53条に基づき野党が求める臨時国会をすみやかに開き、徹底した議論の上に再発防止の道筋を描く必要がある。
こうした議論に後ろ向きなら、隠蔽の上に隠蔽を重ねると言われても仕方ない。
稲田氏の辞任は遅きに失したが、文民統制の不全を正す契機としなければならない。
◉ 読売新聞 2017.7.29
稲田防衛相辞任 体制刷新で混乱に終止符打て
閣僚、次官、陸上自衛隊トップの3人の進退に波及した。極めて深刻な事態である。
南スーダンで国連平和維持活動(PKO)に従事した陸上自衛隊部隊の日報問題で、稲田防衛相が辞任した。第2次安倍内閣の発足以降、閣僚の辞任は6人目だ。
稲田氏は、「ガバナンス(統治)の信頼を損ないかねない印象を与えた。監督者として責任は免れない」と辞任理由を語った。
黒江哲郎次官と岡部俊哉陸上幕僚長も辞職に追い込まれた。省内の混乱収拾のため、体制を刷新して出直すのはやむを得まい。
陸自は、廃棄したはずの日報のデータを保管していたのに、公表を見送っていた。防衛監察本部が稲田氏の指示により、特別防衛監察を実施した。
その報告書は、黒江氏が「行政文書ではなく、隊員個人のデータだ」として、非公表を決めたと認定した。陸自幹部がデータ廃棄を図ったことも指摘している。
組織ぐるみで情報公開の趣旨に反した、との批判は免れない。
稲田氏について、報告書は、非公表決定への関与を否定した。
日報の保管に関する報告を受けたかどうかについては、明確な結論を出せなかった。陸自は「稲田氏に報告を上げた」と主張してきた。「認識はない」とする稲田氏の見解とは食い違ったままだ。両者の亀裂の深さが露呈した。
看過できないのは、陸自内からとされる情報流出が相次いだことである。造反まがいだ、と受け取られ、内局と陸自の反目が尾を引くようであれば、文民統制に支障を来しかねない。
日本を取り巻く安全保障環境は険しさを増し、防衛省の責務はさらに重くなっている。防衛の本質から離れた問題を巡って失態を重ね、国民の信頼を損ねたことは、極めて残念である。再発防止の徹底が欠かせない。
来週に予定される内閣改造までは、岸田外相が防衛相を兼務する。北朝鮮が新たに弾道ミサイルを発射した。日本の安全確保のために万全を期さなければならない。
稲田氏が、昨年8月に就任して以降、問題視される言動を繰り返したにもかかわらず、かばい続けたのは安倍首相である。
首相は「任命責任は私にある。厳しい批判は、真摯(しんし)に受け止めねばならない」と述べた。経験を積ませようと、中堅議員を防衛相に登用するのは避け、国際軍事情勢や安保政策に精通した人材を起用すべきだろう。
◉ 毎日新聞 2017.7.29
稲田防衛相と陸自日報問題 関与の有無を明確にせよ
稲田朋美防衛相をめぐって、また新たな疑惑が浮上した。
南スーダン国連平和維持活動(PKO)で陸上自衛隊の部隊が作成した日報を「廃棄した」としながら陸自内に保管されていた問題である。
稲田氏が防衛省・自衛隊幹部と協議し、保管の事実を非公表とする幹部の方針を了承していたという。
稲田氏は否定しているが重大な問題だ。防衛省が近く公表する特別防衛監察の報告で全容を解明し、稲田氏の関与の有無を明確にすべきだ。
防衛省は昨年12月、日報の情報公開請求に対し「陸自は廃棄済み」と不開示を決めた。その後、PKOを統括する統合幕僚監部から電子データが見つかり今年2月に公開したが、3月に陸自での隠蔽(いんぺい)が報道され監察が始まった、というのが経緯だ。
日報には、首都ジュバで昨年7月に起きた大規模戦闘の状況が「戦闘」の表現を使って記されている。
もともと陸自のデータは今年1月に保管が確認されたが、その事実は隠され、データは消去された。
公表すべき情報を統幕の防衛官僚が「今更あったとは言えない」と述べたという。都合の悪いことは隠蔽し証拠を消す。情報公開の精神をないがしろにした対応だ。
問題は、一連の対応に稲田氏がどこまで関わっていたかだろう。
本来なら政治的な指導力で明らかにすべきだったが、もし非公開を黙認したり、了承したりしていたなら、肝心なところで指導力を示せなかっただけにとどまらない。
発覚後の国会答弁で稲田氏は「報告はされなかった」と述べた。この答弁が虚偽だった疑いも出てくる。
稲田氏は森友学園との関わりを否定した「虚偽答弁」で信頼性を低下させた。不信感は増幅しよう。
今回の疑惑を否定するのであれば稲田氏はいつ、どうやって知り、どう対応したかを明らかにし、自身の責任をはっきりさせる必要がある。
幹部たちは「記憶にない」と事実関係を否定するが、当時は日報問題で連日打ち合わせしていたという。
非公表としたのは隊員個人の収集資料で公文書ではないと判断したためというが、線引きは恣意(しい)的だ。
むしろなぜ防衛省・自衛隊は積極的に公表しようとしなかったか。その理由を聞きたい。
◉ 日本経済新聞 2017.7.29
自衛隊の隠蔽体質ただせぬ政治の無力
日本の国防に対する信頼を損ないかねない異常な事態である。南スーダン国連平和維持活動(PKO)の日報問題を巡り、稲田朋美防衛相、黒江哲郎防衛次官、岡部俊哉陸上幕僚長が辞めることになった。統率力を発揮できない稲田氏の交代は遅きに失した。政府は体制を早く立て直す責任がある。
稲田氏は28日に安倍晋三首相に辞表を提出し、受理された。記者会見では辞任理由について「防衛省・自衛隊の情報公開に対する姿勢に疑念を抱かせた。国内外で日々任務に当たる隊員の士気を低下させかねない」と語った。
防衛監察本部は同日、日報問題に関する特別防衛監察の結果を公表した。それによると南スーダンで武力衝突が起きた昨年7月の派遣部隊の日報があるにもかかわらず、陸上自衛隊は情報公開請求に対し意図的に開示を見送った。
防衛省は再調査により統合幕僚監部で見つかった日報を今年2月に公表したが、陸自のもともとの日報の存在は伏せたままにする判断を次官らも追認した。陸自内に残る日報の存在を稲田氏が知っていたかどうかは認定を避けた。
部隊の派遣先の治安情勢は隊員の安全だけでなく、活動継続の判断にもかかわる。組織で共有する行政文書の意図的な非開示や破棄は、情報公開法に違反する。
陸自は当初の誤った判断に縛られ、防衛省幹部の事なかれ主義が是正の機会を失わせた。最終的に政治家である防衛相が事実を把握し、適切に指示をする文民統制の仕組みも機能していないという重大な問題をはらんでいる。
稲田氏は、学校法人「森友学園」の訴訟への弁護士時代の関与を国会で全面否定したあと、すぐに撤回と謝罪に追い込まれた。東京都議選では防衛省・自衛隊が自民党候補を応援しているかのような発言をした。それでも首相は野党の罷免要求を拒み続け、政権への批判を強める結果となった。
北朝鮮の核・ミサイル開発などにより国際情勢は緊張している。防衛相はいざとなれば自衛隊を統率する立場であり、他の閣僚に増して首相の任命責任は重大だ。
野党は日報問題の経緯や隠蔽に至る組織の構造的問題を議論するため、国会の閉会中審査を早期に開くよう求めている。政府・与党は稲田氏出席の上でこれに応じるとともに、新たな体制での防衛省・自衛隊の立て直しに全力をあげてもらいたい。
◉ 産経新聞(「主張」) 2017.7.29
稲田防衛相の辞任 国の守りは大丈夫なのか
南スーダン国連平和維持活動(PKO)派遣部隊の日報の隠蔽(いんぺい)問題は、稲田朋美防衛相と黒江哲郎防衛事務次官、岡部俊哉陸上幕僚長の辞任に発展した。
情報公開の不手際が国民の信頼を損なった。それだけでなく、防衛省・自衛隊の中枢が、事後対応で右往左往する姿を内外にさらし続けた。
自衛隊の精強さを保つには、国民の高い支持が欠かせない。統率のとれた自衛隊でなければ、日本を攻撃しようとする周辺国への抑止力たりえない。
稲田氏は、その国防の基盤を台無しにしたのであり、責任は重大である。
安倍晋三首相は「国民の皆さまに心からおわび申し上げたい」と語った。その任命責任は極めて重い。統率力の欠如など、資質や言動に何度も疑問を呈された稲田氏を、首相はかばい続けた。
内閣改造では、とりわけ文民統制の要となる防衛相の選任について判断を誤らないでほしい。
見過ごすことができないのは、公表された特別防衛監察で、稲田氏自身の関与をめぐる疑惑が解消されたとは言えないことだ。
「廃棄済み」だったはずの日報の電子データは陸自で見つかった。だが、防衛省は「行政文書でない」として、保管の事実を非公表とする方針を決めた。
焦点は、稲田氏が陸自側からデータの発見について報告を受けていたかどうかだった。
フジテレビが報じた手書きの議事録によると、2月13日の会議で陸幕幹部が保管の事実を報告し、稲田氏は国会対応を念頭に「明日、何て答えよう」と語った。
一方、稲田氏は保管の報告がなかったと主張している。
出席者の証言の食い違いを理由に、特別防衛監察は「日報のデータについて何らかの発言があった可能性は否定できない」として事実認定を避けた。
稲田氏は辞任で責任を果たしたわけではない。国会の閉会中審査などで説明を尽くすべきだ。
問題となった日報は、陸自で見つかるよりも先に統合幕僚監部が公表済みだったものだ。なぜ防衛省は陸自の保管を非公表にしたのか。その場しのぎの軽率な判断だったというしかあるまい。
いざ有事になったときに戦えるのか。内閣支持率に響くか否か、などという話ではすまない。
◉ 東京新聞・中日新聞 2017.7.29
日報隠し特別監察 隠蔽の闇は晴れない
防衛省・自衛隊の情報隠しが特別監察で認定された。隠蔽(いんぺい)体質の闇は深い。辞任した前防衛相だけでなく最高指揮官の安倍晋三首相の責任も免れまい。
情報隠しが認定されたのは、南スーダン国連平和維持活動(PKO)に派遣された陸上自衛隊部隊が作成した日報に関してである。
防衛監察本部の特別防衛監察によると、情報隠しは昨年七月、現地部隊が作成した全文書の情報公開請求があった際、陸自中央即応集団の副司令官が日報の存在を確認しながら、開示対象からの除外を指導したことがきっかけだ。
その後、組織ぐるみで情報隠蔽にかかわることになる。
◆「戦闘」「銃撃戦」明記
昨年七月、陸自部隊が派遣されていた南スーダンの首都ジュバでは大規模な衝突が発生し、二百七十人以上の死者が出ていた。
その後、公開された日報にも大統領派と反政府勢力との間で「戦闘が生起した」ことや、自衛隊の宿営地近くで「激しい銃撃戦」が起きたことが記述されている。派遣部隊を取り巻く状況は、極めて緊迫していたに違いない。
日本がPKO部隊を派遣するには、紛争当事者間で停戦合意が成立していることや、派遣先の国や紛争当事者が自衛隊の派遣に同意していることなど、参加五原則を満たすことが必要だ。
当時のジュバは「停戦合意」が成立しているとはとても言えず、直ちに部隊を撤収しなければならない情勢だったにもかかわらず、安倍内閣は撤収させるどころか、派遣期間を延長し、交代部隊を現地に送った。首相は現地情勢の緊迫について正確に報告を受けていたのか。報告を受けた上で、戦闘は深刻でないと判断したのか。
当時、現地での「戦闘」が公表されていれば派遣継続はすんなり認められなかったのではないか。
◆派遣継続を望んだ政権
安倍内閣には派遣継続を望む理由があった。派遣部隊に「駆け付け警護」と「宿営地の共同防衛」の任務を与えることである。
これらの任務は二〇一五年九月に成立が強行された安全保障関連法で可能になったが、自らを守るという武器使用の一線を越え、任務遂行のための武器使用が可能になる。国是である専守防衛を逸脱しかねない危険な任務だ。
自衛隊の国軍化を目指す首相にとって、自衛隊により積極的な武器使用を認める安保関連法の既成事実化は、政治目標とする憲法改正に向けた一歩だったのだろう。
陸自による日報隠しは、政権内に蔓延(まんえん)する派遣継続を望む空気も動機の一つだったのではないか。
問題は、こうした自衛隊の運用が、派遣先の情勢を国民に隠して行われたことである。かつて旧日本軍が、戦況をめぐり国民に真実を伝えず、破局的な戦争を継続して、国内外に多大な犠牲を強いた苦い歴史を彷彿(ほうふつ)とさせる。
特別防衛監察は、情報公開や文書管理の適正化を促してはいる。それは当然だが、国民に真実を隠し、憲法を逸脱しかねない活動を自衛隊に強いたことにもメスを入れなければ隠蔽の闇は晴れない。
自衛隊は憲法上、軍隊とは位置付けられていないが、世界でも有数の火力を備える実力組織でもある。国民が選んだ国会議員を通じて「文民統制」を受けるのは当然だ。国民に情報を隠して活動を拡大することは許されない。
稲田朋美防衛相は、日報隠しへの防衛省・自衛隊の組織的な関与が認められたとして監督責任を取って辞任したが、今月の都議選では防衛省・自衛隊を自民党候補の支援に政治利用する発言をした。
本来、首相は直ちに罷免すべきだった。任命責任は免れない。辞任は遅きに失したが、八月三日にも予定する内閣改造直前での辞任を追及逃れに利用すべきでない。
監察結果は陸自での日報データ保管を、今年二月の会議で稲田氏に報告した「可能性」に触れた。稲田氏は否定しているが、双方の言い分が違うのなら、国会で徹底的に究明する必要がある。
安倍政権は速やかに臨時国会の召集もしくは閉会中審査に応じ、稲田氏と関係者を参考人招致した集中審議を開くべきである。
◆信頼回復への一歩を
創設から六十年を超えた自衛隊は、海外で武力の行使はしない専守防衛に徹し、災害派遣などを通じて国民の高い評価を得ている。情報隠しは積み上げてきた国民の信頼を裏切る行為であり、二度とあってはならない。
どんな防衛相でも、自衛隊がその統制に服するのが文民統制ではあるが、稲田氏が安全保障政策に精通していなかったことも、混乱の一因だろう。後継には経験豊富な人材の登用を望みたい。新しい防衛相と事務次官の下で、再発防止策を徹底し、信頼回復への一歩を大きく歩みだしてほしい。
◉ 北海道新聞 2017.7.29
稲田防衛相辞任 隠蔽問題幕引きするな
稲田朋美防衛相がきのう、南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に派遣した陸上自衛隊の日報隠蔽(いんぺい)問題を巡る特別防衛監察の結果を公表するとともに、混乱の責任を取る形で辞任した。
稲田氏は「一連の問題は隊員の士気を低下させかねない極めて重大かつ深刻なものだ」と述べたが、最大の焦点である自身の隠蔽への関与は最後まで否定した。監察結果も関与を認定しなかった。
閣僚としての資質を問われ続けてきた稲田氏の辞任は当然で、遅すぎた。安倍晋三首相の任命責任が厳しく問われよう。
だが、監察結果は真相究明にはほど遠く、稲田氏の言い分も納得のいくものではない。ここで問題の幕引きをしてはならない。
野党は早期の閉会中審査を求めており、与党は直ちに応じるべきだ。稲田氏も参考人として出席し説明責任を果たす必要がある。
監察結果は、日報問題に関し2月に事務方や制服組が稲田氏に説明を行った際、陸自にデータが残っていた事実について「何らかの発言があった可能性は否定できない」と曖昧な記述にとどまった。
稲田氏に報告したとする陸自側と、報告を受けていないという稲田氏の証言が食い違ったためだ。
しかし説明は、国会で野党から陸自に日報が保管されている可能性を追及された2月14日を挟んで13、15日に行われた。それでも何ら報告がなかったという稲田氏の説明は不自然さが拭えない。
特別防衛監察は本来、防衛相は対象外で、稲田氏への聴取は任意で1時間行われただけだ。真実に迫ろうとしたとは思えない。
仮に稲田氏が関与していなかったとしても、重大な問題で蚊帳の外に置かれていたことになる。著しい統率力の欠如である。
稲田氏はほかにも、学校法人森友学園との関係を巡る国会答弁の混乱や、東京都議選での「防衛省・自衛隊としてもお願いしたい」との発言など、辞任してもおかしくない場面が何度もあった。
それをかばい続けたのは、稲田氏の国家主義的な思想・信条を高く評価し、要職への異例の抜てきを繰り返した安倍首相だった。
学校法人加計(かけ)学園の問題と同様に、身内に甘い政権の体質を象徴した1人が稲田氏である。
野党側は、稲田氏が辞任について首相と相談したと述べたことなどを理由に、閉会中審査に首相も出席すべきだと主張している。事実の解明へ向けた国会の責任は重い。首相に拒否する理由はない。
◉ 河北新報 2017.7.29
稲田防衛相辞任/これで幕引きは許されない
遅きに失した以外の何物でもない。南スーダン国連平和維持活動(PKO)部隊の日報隠蔽(いんぺい)問題を巡り、稲田朋美防衛相がきのう、引責辞任に追い込まれた。
この期に及んで、辞めて済むような問題ではないのは明らかだ。隠蔽了承や虚偽答弁の疑惑を曖昧にしたままで、「幕引き」は断じて許されない。稲田氏はまず、国会の閉会中審査に応じて説明責任を果たすべきだ。
内閣がもたないと、切羽詰まった安倍晋三首相が最後に引導を渡したのだろう。抜てきした「秘蔵っ子」の度重なる失態に目をつぶり、かばい続けてきた任命責任者としてのけじめは避けられない。
この問題は、防衛省が日報の情報公開請求に対して「破棄済み」として不開示にしたが、その後、電子データが陸上自衛隊内に保管されていたことが発覚した。稲田氏はデータが残っていたとの報告を受け、最高幹部の緊急会議で非公表を了承したとされる。
特別防衛監察では、稲田氏がデータ保管の説明を受けた可能性は否定できないとした上で、非公表の方針を了承した事実はないと結論付けた。幹部の関与は認定したものの、「玉虫色」の結果だった。
特別防衛監察は制度上、防衛相ら政務三役は対象外だが、今回は稲田氏が疑惑報道を受けて聴取される異例の展開となった。渦中にあるトップが命じた監察結果にどれだけ信ぴょう性があるだろうか。「茶番劇」と受け取られても仕方があるまい。
しかも担当した防衛監察本部は防衛相直轄の組織で、手足となるのは身内の自衛隊員だ。真相解明には中立的な外部の目が不可欠で、今後、国会や第三者機関による徹底的な調査、検証が求められる。
なぜ、日報の存在を隠そうとしたのかも、不透明なままだ。昨年7月、首都ジュバで起きた政府軍と反政府勢力との大規模な武力衝突について「戦闘」という言葉を使っていたことと無関係であるまい。憲法との整合性が問われることを恐れたのではないか。
稲田氏が追い込まれた背景には「背広組」の事務方幹部と「制服組」の陸自幹部との激しい対立があるとされる。制服組は「陸自ばかりが悪者にされ責任を取らされる」と不満を募らせていたという。
防衛相が背広組も制服組も統率できない現状は、文民統制(シビリアンコントロール)の根幹を脅かす由々しき事態である。組織ぐるみの形で国民の知る権利をないがしろにした責任も極めて重い。
安倍首相は、資質に欠ける稲田氏の更迭に踏み切らなかったことが「傷口」を大きく広げ、深刻な事態を招いたことを真摯(しんし)に反省すべきだ。
本をただせば、「1強」のおごりに他ならない。加計(かけ)学園問題もしかり。「臭い物にふた」の姿勢を変えなければ、国民からの信頼が地に落ちるのは目に見えている。
◉ 西日本新聞 2017.7.29
稲田防衛相辞任 首相の任命責任は重大だ
遅きに失したと言うほかない。防衛省混乱の責任を取るという辞任の理由も釈然としない。
稲田朋美防衛相がきのう、南スーダン国連平和維持活動(PKO)部隊の日報隠蔽(いんぺい)問題の責任を取って辞任した。
安倍晋三首相は「閣僚に対する厳しい批判は私自身、真摯(しんし)に受け止めなければならない」と語った。内閣支持率が急落する首相にとって「秘蔵っ子」である稲田氏の辞任は一層の打撃となろう。首相の任命責任は極めて重い。
稲田氏の物議を醸した言動は枚挙にいとまがない。隠蔽問題の引き金になった日報の「戦闘」表記については国会で「法的な意味の戦闘行為ではない」と強弁した。
東京都議選の応援演説で「防衛省、自衛隊、防衛大臣としても、お願いしたい」などと、自衛隊の政治利用とみられても仕方ない発言をして撤回に追い込まれた。
国有地格安売却問題の森友学園の訴訟に弁護士として関与したかどうかを巡り、関与を否定した国会答弁を一転して認め、謝罪したこともある。
ほかにも憲法や国会の軽視と映るような言動を重ね、重要閣僚としての資質も問われた。まさに「トラブルメーカー」だった。
にもかかわらず首相は、保守派として政治信条が近い稲田氏を「将来の首相候補」として目をかけ、重用してきた。
衆院当選3、4回と政治経験の浅い稲田氏を行政改革担当相、自民党政調会長、防衛相として異例の抜てきを続けた。日報問題でも首相は「再発防止を図ることで責任を果たしてもらいたい」とかばった。来月3日にも断行する内閣改造で交代させ、傷を付けまいとしたが、結局かなわなかった。
稲田氏の遅過ぎた辞任は「1強」と呼ばれる政治状況にあぐらをかき、国民の声や野党の指摘に耳を貸さない安倍政権の傲慢(ごうまん)な体質を象徴していないか。
首相は内閣改造で態勢を立て直す構えだが、こうした体質を根本的に改めない限り国民の支持を取り戻すのは至難と心得るべきだ。
◉ 新潟日報 2017.7.29
稲田防衛相辞任 これで幕引きは許されぬ
疑惑が解明されたとは言い難い。辞任によって幕引きを図ろうとすることなど許されない。
稲田朋美防衛相が辞任した。南スーダン国連平和維持活動(PKO)部隊の日報隠蔽(いんぺい)問題を巡り、防衛省トップとして混乱を招いた責任を取った形だ。
日報隠蔽問題の最大の焦点は、「廃棄済み」だったはずの陸上自衛隊の日報データを、陸自が保管していた事実を非公表とする方針について稲田氏が了承していたかどうか、ということだった。
この日、稲田氏が公表した特別防衛監察の結果では、稲田氏が非公表とする方針を了承した事実はないと結論付けた。
稲田氏が防衛省幹部らから日報に関する説明を受けたとは認定した。だが日報データの存在について出席者から「何らかの発言があった可能性は否定できない」としながら、稲田氏に非公表の了承を求めたことはないとしたのだ。
政府関係者からは、陸自側から稲田氏にデータの存在が報告されたとか、稲田氏が了承したとの複数の証言があった。
それらの証言とは異なり、大きな疑問が残る。稲田氏が潔白とする証明には程遠い内容といえる。
そもそも防衛相は特別防衛監察の調査の対象外で、稲田氏が「協力する」形で聴取が行われた。
聴取はわずか1時間だった。これでは「関与なし」を前提とした監察だったと疑われても仕方ないのではないか。
監察結果を説明した防衛省幹部は、「記憶がない」などという人もいたとし「多くの場合、証言は一致しない。事実関係を確定させるのは大変難しい」と調査の限界をにじませている。
安倍晋三首相は国会での説明に関し、閉会中審査に前向きに応じる考えを示した。であるなら稲田氏を出席させ、国民が納得できるよう徹底解明を行うべきだ。
特別防衛監察では防衛省の事務方トップの事務次官と、陸自トップの陸上幕僚長ら5人が停職や減給の懲戒処分を受け、事務次官は退職し、陸幕長も近く退職する。
自衛隊への文民統制(シビリアンコントロール)が機能しているかという問いも突き付けられている。閣僚として統率力を発揮できなかった稲田氏だけでなく安倍首相の任命責任も厳しく問われる。
首相は政治信条の近い稲田氏に「将来の首相候補」と目をかけ、異例の抜てきを続けてきた。
一方で稲田氏は、都議選応援で自衛隊の「政治利用」演説が批判を浴び、「森友学園」問題では国会答弁の矛盾を問われ撤回と謝罪に追い込まれるなど資質を疑問視され続けてきた。にもかかわらず首相は続投させてきた。
安倍内閣の閣僚辞任は2012年の第2次政権発足以降6人目で、今年4月に復興相だった今村雅弘氏が失言で辞めたばかりだ。
稲田氏の起用をはじめ、首相が常々強調する「適材適所」の人事だったのか。
問われているのは安倍首相の政治姿勢だ。真相解明へ指導力を発揮し丁寧な説明をしなければ、政権不信は強まるばかりだろう。
◉ 信濃毎日新聞 2017.7.29
日報問題監察 これで幕引きにするな
遠慮したのか意図的なのか、肝心なところに切り込むことができていない。身内の監察の限界だ。第三者機関による調査に加えて、国会での真相究明を与野党に求める。
南スーダン国連平和維持活動(PKO)の日報隠蔽(いんぺい)問題について特別防衛監察の結果が公表された。情報公開請求に対し、既に廃棄されたと虚偽の説明が行われ開示されなかった問題だ。
日報には現地情勢に関して「戦闘」「攻撃」など、政府にとって都合の悪い表現が並んでいた。実際は統合幕僚監部と陸上自衛隊にデータが残っていた。
問題のポイントは、(1)稲田朋美防衛相が陸自から、日報データが実は保管されていたとの報告を受けていたか(2)日報を非公表にすることを防衛相が了承したか(3)「(日報が)今更あったとは言えない」とする統幕防衛官僚の発言があったか―の3点だ。
監察結果はいずれに対しても説得力ある解明、説明ができていない。(1)については「報告を受けた可能性は否定できない」との記述にとどまっている。受けていたかどうかはやぶの中だ。
(2)については、防衛相が公表の是非に関して方針決定や了承をした事実はなかったとした。
稲田氏が非公表とする方針を防衛省幹部から伝えられ了承していたことは、複数の政府関係者が証言している。何を根拠に「なかった」と判断したのか、監察結果からは分からない。
そして(3)の「今更」発言だ。監察結果は「確認できなかった」と煮え切らない。
特別監察は2006年の防衛施設庁(当時)官製談合事件を受け規律を正す目的で始まった。防衛相が主導する形を前提とする仕組みであり、大臣、副大臣、政務官の三役は対象外だ。
今回は監察本部トップによるわずか1時間の聴取が行われた。本来なら防衛相自身の関与が浮上した段階で、第三者による調査に切り替えるべきだった。
今度の監察はもともと統率力不足を指摘された稲田氏が批判をかわすために始めた色彩があった。稲田氏は3月、国会で「徹底的に調査し、隠蔽体質があれば私の責任で改善したい」と述べていた。
その時点で既に非公表とする方針が報告され、防衛相も了承していた疑いが持たれている。事実なら国民への背信だ。
このまま終わらせるようでは、特別監察そのものが疑惑隠しの一端を担う結果になる。
◉ 京都新聞 2017.7.29
稲田防衛相辞任 隠蔽了承せずに疑念も
稲田朋美防衛相が、南スーダン国連平和維持活動(PKO)の日報隠蔽(いんぺい)問題で、特別防衛監察の結果を公表するとともに、混乱を招いたとして辞任を表明した。
日報は現地の様子を、PKO5原則の停戦合意に抵触しかねない「戦闘」状態にあるなどと記録していた。陸上自衛隊は「廃棄済み」を理由に公表を拒んだが、後にデータが残っていると分かった。
ほかにも稲田氏は、東京都議選中に自民党候補の集会で、自衛隊の政治利用と受け取れる演説をするなど、防衛相としての資質を疑われる不適切な発言を繰り返していた。
辞任は当然で、「遅すぎた」との声が上がっている。
2012年の第2次安倍晋三政権以降、閣僚の辞任は6人目となる。安倍首相は、8月3日に予定する内閣改造で稲田氏を退任させようとしたものの、隠蔽問題の展開をみて、かばい続けられないと判断したとみられる。
首相の任命責任もまた、厳しく問われることになりそうだ。
特別防衛監察の結果は、稲田氏が防衛省幹部から日報について説明を受けたと認定した。その際、陸自側からデータの保管について報告された可能性を否定できないとしながらも、非公表とする方針を了承した事実はない、と結論づけた。
監察の担当者は、出席者の証言が食い違い、事実認定が困難だったとするが、データの存在を知りながら、公表などの対応を判断しない責任者がいるだろうか。
非公表を了承したとすると、了承していないとした国会答弁が虚偽となる。稲田氏本人からの聴取は約1時間しかなく、監察はつじつまを合わせただけではないか、との疑念がぬぐい切れない。
関係者は、この問題に関する衆参両院の閉会中審査に応じ、説明責任を果たすべきだ。
監察結果の公表に併せて、防衛省の黒江哲郎事務次官、岡部俊哉陸上幕僚長ら5人について、停職、減給の懲戒処分が発表された。黒江次官は退職し、岡部陸幕長も近く退職する。
防衛相に加え、事務方と陸自の両トップが省外に去る異常事態である。北朝鮮のミサイル発射などが懸念される中、国の安全保障に関わる業務に空白の生じるようなことが、あってはならない。
内閣改造までは岸田文雄外相が防衛相を兼務するが、新たな防衛相がまず着手すべき任務は、混乱した組織の立て直しである。
◉ 神戸新聞 2017.7.29
防衛監察結果/政権の隠蔽体質が問題だ
南スーダン国連平和維持活動(PKO)部隊の日報隠蔽(いんぺい)問題で、防衛省の特別防衛監察の結果が発表された。うそをつく、廃棄する、報告しない-。防衛省・自衛隊の驚くべき隠蔽体質が浮かび上がる。
「森友学園」や「加計(かけ)学園」問題など一連の政府の対応でも、存在しない、廃棄した、記憶にない-が繰り返された。その体質は同質のもので、安倍政権全体にまん延した根深いものと言わざるを得ない。
一連の責任を取って、稲田朋美防衛相が辞任した。特別監察では、「廃棄済み」とされた日報データの存在を稲田氏が知り、非公表の方針を了承したのかは、解明されなかった。
問題の発端は、昨年10月の日報の開示請求とされていたが、監察結果によれば、7月にもあった請求が始まりだった。陸上自衛隊幹部は日報の存在を確認しながら、「開示対象外とするのが望ましい」との意図で開示しなかった。10月の請求も同様に不開示とした。
これまでの説明では、10月請求の不開示理由は、日報が「廃棄済み」のためだった。実際は日報が存在していたのに、意図的に隠して不開示としていたことになる。日報には、現地で起きた銃撃戦などが「戦闘」と記録されていた。国民には事実を伝える必要はないと考えているなら、言語道断である。
太平洋戦争で、当時の帝国陸海軍が不利な戦況を隠して国民を欺いたことを想起させる事態だ。今回、制服組が独断で判断していたのであれば、文民統制(シビリアンコントロール)が全く利いてないことになる。
「廃棄済み」とされた日報データの存在が、稲田氏へ報告されていたのかも焦点だった。監察結果は、稲田氏が出席した今年2月の会議で、日報データの存在について「何らかの発言があった可能性は否定できない」と指摘しながら、「(稲田氏が)非公表の方針決定や了承した事実はなかった」とした。会議の議事録は残っていないといい、不透明な結論となった。
安倍晋三首相は「任命責任はすべて私にある」として、謝罪した。ならば、国会の閉会中審査に稲田氏を参考人として呼び、真相解明に尽力すべきだ。
◉ 山陽新聞 2017.7.29
稲田防衛相辞任 遅きに失した退場の判断
南スーダン国連平和維持活動(PKO)の日報隠蔽(いんぺい)問題で、稲田朋美防衛相は混乱を招いた監督責任を取って辞任した。防衛省の黒江哲郎事務次官、岡部俊哉陸上幕僚長の両トップも退職に追い込まれる極めて異例の事態である。
陸上自衛隊部隊が作成した問題の日報は、昨年7月に首都ジュバで起きた政府軍と反政府勢力の大規模な衝突を「戦闘」と記すなど、緊迫した状況を伝えている。情報公開請求を受けた防衛省は12月、「陸自は廃棄済み」として不開示を決定した。
その後、同省統合幕僚監部に電子データが保管され、陸自にも残っていたことが判明した。さらに陸自分について、稲田氏が今年2月の会議で防衛省・自衛隊幹部と対応を協議し、データを保管していた事実を非公表とすることを了承したとの疑惑も浮上した。稲田氏は国会で「陸自からデータ保管の報告は受けていないし、非公表を承認したこともない」と否定してきた。
一連の問題の真相に迫れるかどうか注目されたのが、防衛監察本部による特別防衛監察である。本来は調査対象外の防衛相も含めて聴取したものの、結果はあまりにも踏み込み不足だ。
焦点の稲田氏の関与については、データの存在に関して会議の出席者から「何らかの発言があった可能性は否定できない」としつつ、「非公表とする方針を了承した事実はない」と結論付けた。複数の関係者の証言と異なるもので疑問が残る。
稲田氏が報告を受けた際、「明日、何と答えよう」と発言したと記されたメモが存在するとの一部報道もあっただけに、稲田氏の“潔白”を裏付けるには説得力不足の内容だ。防衛相直轄の組織による調査の限界とも言えよう。
仮に報告を受けていれば、組織的隠蔽を容認しただけでなく、関与を否定した国会での発言は虚偽答弁となる。防衛省・自衛隊の幹部が大臣に報告せず非公表を決めたとすれば、防衛相としての統率力が問われよう。いずれにしても、文民統制(シビリアンコントロール)が正常に機能しているとは言い難い。
稲田氏は先の東京都議選でも、自民党候補の応援演説で「自衛隊、防衛省としてもお願いしたい」と支持を訴え、自衛隊の政治利用と批判された。防衛相の立場をわきまえず、不適格と言わざるを得ない。辞任は遅きに失した。
政治信条が近い稲田氏を重用してきた安倍晋三首相の責任は重い。今回の件でも擁護を続け、混乱の収拾を遅らせた。首相としては、8月3日にも行う予定の内閣改造で交代させるつもりだったようだが、世論の批判の高まりに追い詰められた形だ。
文民統制や組織の信頼性にかかわる重大事である。稲田氏の辞任や、任命責任を認めた首相の陳謝で、一件落着とはいかない。あいまいな幕引きは禍根を残そう。
◉ 福島民報(「論説」) 2017.7.29
監察報告・稲田大臣辞任関連の論説なし(前日(28日)に稲田・蓮舫両氏の辞任関連掲載)
◉ 福島民友 2017.7.29
稲田防衛相辞任/あまりにも判断が遅すぎる
内閣改造の直前まで事態を収拾できなかった末の辞任は遅きに失したと言わざるを得ない。
稲田朋美防衛相が南スーダン国連平和維持活動(PKO)の日報隠蔽(いんぺい)問題を巡り、情報開示に関して自衛隊法違反があったとの特別防衛監察の結果を公表、混乱を招いた責任を取って辞任した。
特別防衛監察の報告は、焦点だった稲田氏の隠蔽への関与に関して、廃棄済みとした日報が陸上自衛隊に保管されていた事実を非公表とする方針を稲田氏が了承した事実はないと結論付けた。しかし事実関係を巡ってはさまざまな情報が防衛省・自衛隊から漏れており、混乱状態に陥っていた。
実力組織である自衛隊の混乱は由々しき事態だ。稲田氏は組織を掌握する文民統制の能力を失っていたと言うしかない。稲田氏の責任は極めて重い。
稲田氏は就任以来、防衛相として不適切な言動が相次ぎ、資質が疑問視されてきた。しかしそれでも安倍晋三首相は擁護し続け、続投を許してきた。首相の任命責任が厳しく問われる。同時に、首相は自らに近い人物に対する甘い姿勢が政権不信につながっていることを認識すべきだ。
特別防衛監察は、昨年7月に南スーダンで発生した大規模戦闘の状況などを記録した現地部隊の日報を陸自が保管していた事実を明らかにしなかったのは自衛隊法違反などに当たると認定した。
一方、稲田氏の了承は否定したが、稲田氏への報告の際に「日報データの存在について何らかの発言があった可能性は否定できない」とも記述、曖昧さを残した。
防衛監察本部は関係者の証言が食い違い「事実認定が困難だった」としている。そもそも防衛相の下に設置される監察本部は職員を監察の対象にしている。対象ではない防衛相の関与の有無の判定は任務を超えるもので、その報告の正当性には疑問符が付く。
特別防衛監察によって停職処分を受けた防衛省の事務方トップが辞め、減給処分の陸自トップも退職する。事実上の更迭だ。内部の信頼関係が崩壊した状態は安全保障政策上、深刻である。防衛省・自衛隊の組織の立て直しを急がなければならない。
首相は稲田氏辞任を受けて「安全保障には一刻の空白も許されない」と強調した。8月3日にも実施される内閣改造までは岸田文雄外相が防衛相を兼務することになる。緊迫する北朝鮮情勢など厳しい安全保障環境の下、日本の抑止力に隙を見せるようなことがあってはならない。
◉ 琉球新報 2017.7.29
稲田防衛相辞任 疑惑「徹底解明」に程遠い
まったく遅きに失し、疑惑解明にも程遠い。第三者の調査を求める。
南スーダン国連平和維持活動(PKO)の日報問題に関し、稲田朋美防衛相が説明責任を果たさないまま辞任した。
28日に公表された防衛省の特別防衛監察結果は、稲田氏が2月13、15日、防衛省幹部らから陸上自衛隊の日報に関する説明を受けたと認定。その際、陸自側から日報のデータ保管の報告もあった可能性は否定できないとした上で、保管の事実を非公表とする方針を了承した事実はないと結論付けた。
この結論は、稲田氏が非公表を了承したとする複数の政府関係者の証言と異なる。稲田氏への聴取はわずか1時間だった。最初から「関与なし」を前提とした監察だったのではないかと疑いたくなる。「徹底した事実解明」を約束した稲田氏の言葉を裏付けたとは言い難い。
防衛相の指揮下にある防衛監察は公平・中立性が確保されないことは明らかだ。稲田氏が隠蔽(いんぺい)への関与を認めず、遅過ぎた辞任で幕引きを図ろうとする姿勢は許されない。
日報問題は、南スーダンの首都ジュバで大規模戦闘が起きた昨年7月、現地部隊が日々の活動や治安情勢を報告するために作成した日報の情報公開請求を、防衛省が同10月に受理したことに端を発する。「陸自は廃棄済み」として不開示決定した。その後、陸自内部にデータが残っていたことが判明したが非公表とし、データを消去していた。
防衛省・自衛隊にとって都合の悪い文書を、なかったことにして廃棄したことが問われているのである。組織ぐるみの隠蔽体質は国民に対する背信であり、違法性が高い。
この隠蔽体質から自衛隊への文民統制(シビリアンコントロール)が機能していないことが分かる。文官トップの事務次官自ら「個人の保存文書」「公文書に当たらない」と判断し、非公表の方針が了承された。制服組と文官が「暴走」したのだ。
「暴走」を統制できなかったのは、組織の問題と稲田氏が大臣としての資質に問題があるからである
PKO日報に政府軍と反政府勢力の抗争を「戦闘」と表現されていたことを問われると「法的な意味での『戦闘行為』はなかった」と強弁。「(戦闘行為が)行われたとすれば9条の問題になるので、武力衝突という言葉を使っている」と憲法軽視の発言をした。
東京都議選の応援で「防衛省・自衛隊、防衛相、自民党としてもお願いしたい」と発言し自衛隊を政治利用した。
度重なる失言で野党が罷免要求しても安倍晋三首相は稲田氏をかばい続けた。「1強」のおごりの表れである。首相の任命責任と混乱を招いた責任は重い。内閣改造で目先を変えようとするのではなく、安倍首相も辞任して国民に信を問うべきである。
◉ 沖縄タイムス 2017.7.29
[稲田防衛相辞任]許されぬあいまい決着
南スーダン国連平和維持活動(PKO)の日報を廃棄したとしながら陸上自衛隊が保管していた問題で、稲田朋美防衛相が辞任した。
日報隠蔽(いんぺい)に稲田氏が関わっていたかが最大の焦点となっていたが、特別防衛監察結果は核心に切り込まないあまりにもおざなりな内容である。
「陸自側から日報のデータ保管の報告があった可能性は否定できない」としながら、監察結果は「保管の事実を非公表とする方針を稲田氏が了承した事実はない」と結論付けた。
一方、稲田氏が否定していた2月13、15日に防衛省幹部らから陸自の日報に関する説明を受けたことは認定している。一部報道によると、陸自側から保管の事実を伝えられた13日のやりとりを記したメモが存在する。報告を受けた稲田氏は、国会審議を念頭に「明日、何て答えよう」と発言したという。特別防衛監察はなぜ、こうした点を突き詰めなかったのか。
特別防衛監察は、防衛相直轄の防衛監察本部が重大な不正行為などを調査するが、防衛相は対象外である。稲田氏は約1時間聴取されているが、見解の食い違いがあっても関係者の追加聞き取りを実施した形跡はない。
安倍晋三首相は任命権者であると同時に自衛隊の最高指揮官でもある。防衛省・自衛隊が混乱状態に陥った後も手を打たなかった責任は極めて重い。首相は「閣僚の任命責任は、全て私にある」と決まり文句のようにいうが、具体的にどのような責任を取るのか明らかにしてもらいたい。
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日報隠蔽が情報開示の在り方の問題にとどまらないのは、戦前に軍部の暴走を許した反省からできたシビリアンコントロール(文民統制)の根幹に関わるからだ。今回の問題は政治家である文民の稲田氏が実力組織の自衛隊を統制できていない証しである。
日報の隠蔽が政治問題化したのは昨年7月、陸自の宿営地があった首都ジュバで政府と反政府勢力で大規模な戦闘が発生したことである。日報には「戦闘」などの生々しい表現が出てくる。
稲田氏は国会で「(戦闘行為が)行われたとすれば9条の問題になるので、武力衝突を使っている」と意図的に矮(わい)小(しょう)化していると受け取られるような答弁をした。自衛隊員の命に関わることである。紛争当事者間の停戦合意など「PKO参加5原則」が崩れていたとみるほかない。
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北朝鮮の核・ミサイル開発で緊張が高まっているこの時期に、防衛大臣・事務方トップ・陸自トップがそろって退く深刻な事態である。
政権の支持率の回復のために真相究明が遅れたり、ゆがめられたりすることがあってはならない。
衆院安全保障委員会の閉会中審査について、与党は安倍首相の出席に難色を示しているが、一日も早く国会を開き、安倍首相出席の下で稲田氏、黒江哲郎前防衛事務次官、岡部俊哉陸上幕僚長らを招致すべきだ。独立した第三者機関による調査も早急に行うべきである。あいまいな処理は許されない。