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#059-2 辺野古訴訟最高裁判決に対する新聞各紙社説等
2016.12.21
◉ 琉球新報社説 2016年12月21日
辺野古訴訟県敗訴 不当判決に屈しない 国策追従、司法の堕落だ
司法の国策追従は目を覆わんばかりだ。国の主張を丸飲みして正義に背をそむけ、環境保護行政をも揺るがす不当判決である。
最高裁は翁長雄志知事の名護市辺野古埋め立て承認取り消し処分を違法とする判断を下した。行政法、憲法など多くの学者が誤りを指摘する福岡高裁那覇支部判決を無批判に踏襲する内容だ。
政府が強行する辺野古新基地建設の埋め立て工事に司法がお墨付きを与えた。法治主義、地方自治を否定し、司法の公平性に背いて基地建設の国策を優先した。司法が担う国民の生命、人権、環境保護の役割を放棄したに等しい。
環境保全は不可能
問題の核心は仲井真弘多前知事による辺野古埋め立て承認の当否である。
公有水面埋立法は埋め立て承認に「適正合理的な国土利用」とともに「環境保全の十分な配慮」を義務付ける。高度成長期の乱開発、公害に歯止めをかける環境保護の理念が貫かれ、要件を満たさない埋め立て承認は「なす事を得ず」と厳格に禁じてさえいる。
ジュゴンやサンゴなど貴重生物の宝庫の海域は埋め立てで消失する。「環境保全の十分な配慮」をなし得ないのは自明の理だ。
前知事も県内部の検討を踏まえ「生活、自然環境の保全は不可能」と明言していたが豹変(ひょうへん)し、埋め立て承認に転じた。
これに対し翁長知事は、環境や法律の専門家の第三者委員会が「承認は法的瑕疵(かし)がある」とした判断に基づき、前知事の埋め立て承認を取り消した。これが埋め立て承認と取り消しの経緯である。
行政法の学者は埋立法の要件を極めて緩やかに解する高裁判決の同法違反を指摘する。また「普天間飛行場の危険性除去には辺野古新基地建設以外にない」などとする暴論を、行政の政策判断に踏み込む「司法権の逸脱」と批判し、国側主張を丸写しした「コピペ」との批判を浴びせている。
最高裁判決は問題の多い高裁判決を全面踏襲した。「辺野古新基地の面積は米軍普天間飛行場の面積より縮小する」などとして新基地建設を妥当と判断した。県が主張した新たな基地負担増の指摘は一顧だにされていない。
海域の環境保全策も「現段階で採り得る工法、保全措置が講じられている」として高裁判断を踏襲した。乱開発を防ぐ公有水面埋立法の理念からかけ離れた判断だ。
普天間飛行場を辺野古に移設する妥当性、海域埋め立ての公有水面埋立法との整合性など慎重な審理が求められたが、最高裁は口頭弁論も開かずに県の主張を一蹴した。
最高裁が新基地に加担
最高裁判決の根底にあるのは国策への追従姿勢だ。日米安保条約、不平等な地位協定に基づく沖縄への基地集中、負担強化の国策をただす姿勢のない司法の自殺行為、堕落と言うしかない。
4月の米軍属女性暴行殺人事件、ヘリパッド建設工事再開、米軍ハリアー機墜落、オスプレイ墜落、そして辺野古訴訟県敗訴の最高裁判決と米軍基地問題、事件はなだれを打つがごときである。
22日にはオスプレイ運用のヘリパッド完成を受けた米軍北部訓練場の過半返還式典が行われる。
最高裁のお墨付きを得て、政府は早急に辺野古新基地の埋め立て工事を再開する構えだ。
辺野古新基地の新たな基地負担に司法が加担した。最高裁の裁判官は過酷な沖縄の現実に正面から向き合ったと胸を張って言えるだろうか。
基地負担の軽減を求める県民の願いを司法が踏みにじったのである。
加速する基地建設の動きの最中にオスプレイが墜落した。国に司法が追従する基地負担強化に県民の怒りは燃え盛っている。
翁長知事は辺野古訴訟敗訴が確定しても辺野古新基地建設を「あらゆる手段で阻止する」としている。事態は厳しくとも新基地建設に反対する民意は揺るがない。
◉ 沖縄タイムス社説 2016.12.21
辺野古訴訟 最高裁判決を受けて
[県敗訴の構図]地方自治の精神ないがしろ
「辺野古違法確認訴訟」で県側敗訴が確定した。福岡高裁那覇支部の判決を最高裁がほぼ追認した。
戦後70年余りも、米軍基地から派生する事件・事故の被害にさらされ続けている歴史を一顧だにしないばかりか、今後も基地負担を強いることを意味する中身だ。地方自治の否定もあからさまである。最高裁も沖縄の声を封じ込めた。
■ ■
米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設を巡り、国が県を訴えた「辺野古違法確認訴訟」で、最高裁第2小法廷(鬼丸かおる裁判長)は20日、翁長雄志知事の「承認取り消しは違法」と指摘し、県側の上告を棄却した。4裁判官の一致した結論だった。
翁長知事は、埋め立て承認の取り消し処分を取り消す手続きに入る。
だが、来年3月に期限が切れる埋め立てに必要な海底の岩礁破砕許可や、埋め立て区域内から区域外へ移植するサンゴの採捕許可、工事の設計・工法の変更に伴う審査など知事権限を最大限行使して新基地建設を阻止する考えだ。
一方、国は今年3月、県と和解が成立して以来、工事がストップしていることから再開を急ぐ方針だ。菅義偉官房長官は「日本は法治国家である。確定判決に従い、県と協力して移設工事を進めていく」と語る。徹底抗戦の構えの翁長知事をけん制するが、対立が続くことは間違いない。
■ ■
最高裁は判決で、辺野古新基地の面積が普天間飛行場と比較して相当程度縮小されることや、環境保全対策が取られているなどとして、前知事の判断に「不合理な点はない」と認定した。高裁判決を踏襲するものだ。だが面積を減らせば基地の負担軽減につながるわけではない。辺野古新基地には2本の滑走路が設計され、普天間にはない強襲揚陸艦が接岸できる岸壁や弾薬搭載エリアが新設される。耐用年数200年といわれ、沖縄は半永久的に基地の島から逃れられない。
県は辺野古新基地の建設を強行することは憲法92条の地方自治の本旨(沖縄県の自治権)を侵害し憲法違反として上告していた。最高裁は今月12日付で棄却している。国と地方公共団体との関係が「上下・主従」から「対等・協力」に大転換した1999年の地方自治法改正後、初めての訴訟である。最高裁が審理せずに棄却したのは改正の精神をないがしろにしていると言わざるを得ない。
米軍基地は日米地位協定によって米軍の排他的管理権が認められ、国内法が及ばない。
沖縄では米軍絡みの事件・事故では「憲法・国内法」の法体系が「安保・地位協定」によって大きな制約を受けているのが現実なのである。基地内の事故や環境調査もままならず、自治権が侵害されるケースは枚挙にいとまがない。
米軍絡みでは民間地も同じだ。オスプレイが名護市安部に墜落した事故で、住民の生命や生活、人権を守る責務を負わされている名護市のトップである稲嶺進市長が現場に近づくことができず、県が水質検査をすることができたのは6日後である。2004年の普天間所属の大型ヘリコプターが沖縄国際大に墜落、炎上した事故で警察や行政が米軍が張り巡らせた規制線から排除されたことと何も変わっていない。
■ ■
最高裁が審理するのは憲法違反や法令・判例違反に限られることから、事実認定としては高裁判決が確定する。
高裁判決は「普天間の被害を除去するには辺野古に新施設を建設する以外にない」としたり、北朝鮮の弾道ミサイル「ノドン」をことさら取り上げ、射程外となるのはわが国では沖縄などごく一部などと国の主張をなぞるように「地理的優位性」を強調して批判を浴びた。最高裁判決はこれらに触れなかった。
最高裁が弁論を開かず判決を言い渡すことを決めたからである。とても納得できるものではない。
[民意の軌跡]差別的処遇への不満広がる
2012年秋、県企画部が実施した県民意識調査で、在日米軍専用施設の約74%が沖縄に集中する現状に、7割を超える人たちが「差別的だ」と回答した。
普天間飛行場にオスプレイが強行配備された時期と重なるこの調査以降、「差別」という言葉が沖縄の基地問題を語るキーワードとして頻繁に使われるようになった。
同じころ実施されたNHK放送文化研究所の沖縄県民調査からも、基地の過重負担を問う民意を読み取ることができる。
県民の基地に対する考え方を1992年と2012年で比較すると、「全面撤去」と答えた人が34%から22%に減った半面、「本土並みに少なく」は47%から56%に増えている。
普天間飛行場の辺野古移設を巡って顕在化してきたのは、沖縄だけに基地を押しつける差別的処遇への怒りであり、日米安保の負担の適正化を求める声だった。
新基地建設に反対する県民世論の基調は、10年ごろから変わっていない。
本紙が朝日新聞と琉球朝日放送(QAB)と共同で実施した15年の県民意識調査では、辺野古移設は「反対」が66%を占め、「賛成」の18%を大きく上回った。
「辺野古が唯一」だと繰り返す政府の説明の欺瞞(ぎまん)性を見抜き、基地と振興策をリンクさせる手法にも「ノー」を突き付け、不公平な負担の解消を求めてきたのだ。
「新基地建設は許さない」との民意は、選挙でも示され続けた。
端的に表れたのは14年の名護市長選、県知事選、衆院選沖縄選挙区、今年に入ってからの県議選、参院選沖縄選挙区だ。
県知事選で保革双方から支持された翁長雄志氏が現職に10万票近い大差をつけて当選したのは、住民意識の変化を決定づけるものだった。
辺野古違法確認訴訟の高裁判決に「新施設の建設に反対する民意には沿わないとしても、普天間飛行場などの基地負担の軽減を求める民意に反するとはいえない」と都合よく解釈した一文がある。
新基地に反対する民意と基地負担の軽減を求める民意は一つだ。民意を無視した負担軽減もあり得ない。
県民の揺らぐことのない意思は、人権や自己決定権をないがしろにされてきた歴史、しまくとぅばの復興など沖縄らしさを大切にする動きとも共鳴し合っている。
一人一人の心の奥底から発せられる「新基地ノー」の声は簡単には変えらないし、戻ることもない。
[環境と埋め立て]貴重生物の悲鳴が聞こえる
湾内に広がるサンゴの森では、カラフルな魚たちが泳ぎ回り、干潟ではトカゲハゼが跳びはねる。浅瀬にはジュゴンの餌となる海草が生い茂り、湾奥にはマングローブ林が延びる。
辺野古の大浦湾一帯は、琉球列島に広がるサンゴ礁生態系の中でも、特に生物多様性が豊かな地域である。
埋め立てが進み新基地が建設されれば、私たち「島人(しまんちゅ)の宝」である美しい自然の一つを失うことになる。
昨年7月、環境問題などの専門家からなる県の第三者委員会は、埋め立て承認までの手続きに「法的瑕疵(かし)があった」とする報告書をまとめた。翁長雄志知事の埋め立て承認取り消しは、これを受けたものだ。
131ページもの詳細な検証結果の半分以上をさいたのが「環境」の項目である。報告は国の埋め立て申請が辺野古の海の重要性を低く評価し、環境保全策が科学的に実効性あるものになっていないことなどを厳しく指摘する。
国の天然記念物ジュゴンの保護策一つをとっても不備は明らかだ。国はジュゴンが「辺野古地先を利用する可能性は小さい」としたが、実際は環境団体によって多くの食(は)み跡が確認されている。海草藻場についても移植などによる保全措置を講じるとするが、その技術はいまだ確立されていない。
そもそも辺野古アセスはオスプレイ配備を最終段階までふせるなど、専門家から「史上最悪」と言われるほど問題が多かった。
2012年初め、沖縄防衛局が出したアセス評価書に対する仲井真弘多前知事の知事意見は579件にも及んだ。「評価書で示された措置では環境保全は不可能」と断じたのだ。
翌年11月、補正後の評価書に対して県環境生活部が出した意見も48件に上った。現状では基地から派生する環境問題に日本側が対応できないことなども挙げ「懸念が払拭(ふっしょく)できない」と結論づけた。
仲井真氏が埋め立てを承認したのは、それからわずか1カ月後。承認に至る経過は著しく透明性を欠き、正当性にも疑義が生じるものだった。
新基地予定地は、県の自然環境保全指針で厳正な保護を図る「ランク1」に指定され、環境省の「重要海域」に選定された地域である。
基地のない地域では自然を守ることが優先されるのに、沖縄では県や国の環境政策との整合性を保つことさえできない。
私たちが100年後の未来に残したいのは豊かな自然である。米軍基地建設のため「宝の海」を埋め立てるのは最もやってはいけない愚行だ。
[新基地建設の行方]私たちの反対は変わらない
日米両政府が米軍普天間飛行場の移設条件付き返還に合意してから今年で20年。新基地建設問題は大きな曲がり角を迎えている。
最高裁で敗訴したことを受け、翁長雄志知事は週明けにも、名護市辺野古沿岸部の埋め立て承認取り消し処分を取り消す意向を明らかにした。
行政の長として最高裁判決を厳粛に受け止めるのは当然であるが、判決によって新基地建設問題に決着がついたわけではない。「ジ・エンド」(物事の終わり)だと考えるのは早計だ。
この問題は最高裁の判決ですべてが解決するほど単純でも簡単でもない。翁長知事をはじめ多くの県民が新基地建設に反対し、公正・公平な基地負担を実現せよ、と道理にかなった主張を展開しているからだ。
法的には仲井真弘多前知事の埋め立て承認が「適法」とされたが、政治的には依然として埋め立て承認「ノー」の民意が大勢を占める。
■ ■
この問題を強権的暴力的に解決しようとすれば、嘉手納基地を含む基地撤去運動に発展するのは必至だ。政府は復帰前のコザ暴動から学ぶべきである。
政府は22日、北部訓練場の返還式典を開く。翁長知事は政府主催のこの式典には参加せず、米軍オスプレイ墜落事故に抗議する「オール沖縄会議」主催の集会に参加することを明言した。
この決定は、国と県の今後の関係に甚大な影響を与えずにはおかないだろう。
翁長知事の怒りを読み間違えてはならない。保守政治家を自認し、安保体制容認を公言する翁長氏をここまで駆り立てたものは何か。
米軍属による女性殺害事件が発生したのは今年4月のことだ。7月には東村高江の北部訓練場でヘリパッドの建設工事が強行され、9月には垂直離着陸攻撃機AV8Bハリアーが本島東沖に墜落した。
そして、オスプレイの墜落、大破。米軍は詳細な事故原因が究明されていないのにオスプレイの訓練を再開した。ハリアーの時もそうだ。
軍の論理だけを優先し、住民の不安をそっちのけに訓練を再開する米軍。住民を守る立場にありながら、米軍を引き留めるのではなく、訓練再開に理解を示した政府。
両者に共通するのは、県民不在の態度だ。翁長知事がいつにも増して激しい口調で怒りをぶちまけたのは、こうした現実に対してである。その思いを多くの県民が共有しているといっていい。
県民の失望と怒りを軽く見てはいけない。翁長知事を追い込んではならない。
■ ■
米兵による暴行事件に端を発した沖縄からの異議申し立てを受け、日米特別行動委員会(SACO)は1996年4月、在沖米軍基地の整理・統合・縮小計画を盛り込んだ中間報告を発表した。
「新たな基地建設を伴う返還はしない」というのが防衛庁(当時)の基本的考えだった。普天間飛行場については、代替施設として「基地内」に「ヘリポート」を整備することが盛り込まれた。
当初は辺野古などという話はなかったのである。
政府は、負担軽減と危険性除去を強調する。普天間の固定化を防ぐために辺野古の代替施設が必要なのだと、政府は言う。
その主張はあまり説得力がない。危険性除去を優先するのであれば、新基地建設を断念し、別の選択肢を探るのが近道だ。
代替施設が完成するまで数年以上かかるといわれる。オスプレイの墜落事故を経験した住民に、それまで辛抱しなさいというのか。その間に事故が起きないことを政府は保障できるのか。
米政府高官が指摘したように、沖縄への基地集中は異常である。あまりにも小さな島に、多くの卵を詰め込み過ぎる。戦後ずっとこの状況が変わらないというのは政府と国会の怠慢である。
◉ 読売新聞社説 2016.12.21
辺野古判決確定 翁長氏は徹底抗戦続けるのか
米軍普天間飛行場の辺野古移設に関する行政手続きに瑕疵はない、とする司法判断が確定した。その意義は大きい。
最高裁が、移設先の埋め立て承認を取り消した沖縄県の翁長雄志知事の処分を違法だと認定した高裁判決を支持する判決を言い渡した。翁長氏の上告は棄却された。
菅官房長官は記者会見で「今回の判決などに沿って、県と協力して移設を進める」と強調した。
政府は、中断していた埋め立てに関する作業を早期に再開する方針だ。移設の実現へ、作業を着実に進めることが重要である。
判決は、普天間飛行場周辺の騒音被害の軽減や危険性の除去に加え、施設面積の相当程度の縮小、住宅地上空の飛行の回避など移設の効用に言及した。移設先の環境保全措置の合理性にも触れた。
仲井真弘多前知事の埋め立て承認に「違法があるとうかがわせる事情は見当たらない」とも認定した。妥当な判断である。
外交・安全保障政策は本来、国の専管事項である。高裁判決は、自治体には、国全体の安全について判断する権限や組織体制、立場がない、と指摘している。
翁長氏には、最高裁判決を重く受け止めてもらいたい。
疑問なのは、翁長氏が徹底抗戦の構えを崩していないことだ。翁長氏は記者会見で、埋め立て承認取り消しの撤回に応じたが、「あらゆる手法を駆使し、辺野古新基地は造らせない」と強調した。
今後は、知事権限を行使し、来年3月末で期限が切れる岩礁破砕許可の更新や、移設工事の設計変更時の承認を拒否することなどを視野に入れているという。
だが、今年3月に国と県が合意した和解条項には、「判決確定後、互いに協力して誠実に対応することを確約する」とある。翁長氏は、この条項の趣旨を一方的にないがしろにするつもりなのか。
翁長氏の承認取り消しという「不法行為」が1年2か月余にわたり、政府と県の対立を煽
って混乱を深めた事実は重い。
在日米軍は、不時着事故を受けて停止していた普天間飛行場の輸送機オスプレイの飛行を「機体に問題がない」として再開した。
オスプレイは米軍の抑止力維持に欠かせず、機体が事故原因でない以上、再開はやむを得まい。ただし、米軍は再発防止策の徹底や情報公開に努めるべきだ。
辺野古移設による現飛行場の危険性除去こそが最大の安全対策であることも忘れてはならない。
◉ 朝日新聞社説 20.16.12.21
辺野古訴訟 民意を封じ込める判決
役所がいったんこうすると決めたら、それを役所が自ら覆すことは難しい。たとえ多くの人の思いと違っても、当初の決定に違法な点がなければ裁判所は取り消しを認めない――。
沖縄・米軍普天間飛行場の辺野古沖への移設計画をめぐる訴訟で、裁判所が示した判断を一言でいえばそうなる。
最高裁はきのう沖縄県側の上告を退ける判決を言い渡した。前の知事が認めた海の埋め立て処分を、後任の知事が取り消すことができる要件は何か。そんな法律論を淡々と展開したうえで導き出した結論である。
12ページの判決全文から浮かびあがるのは、民主主義の理念と地方自治の精神をないがしろにした司法の姿だ。
たしかに行政の意向が二転三転したら、業者らに混乱が起きる。だが自治体がめざす方向を決めるのは住民だ。辺野古移設に反対する県民の意思は、県トップの交代を招いた2年前の知事選をふくむ数々の選挙によって、くり返し表明されている。
にもかかわらず、政府は以前の路線をそのまま引き継げと次の知事に迫り、裁判所も政府に待ったをかけない。
沖縄の人びとの目には、国家権力が一体となって沖縄の声を封じ込めようとしているとしか映らないのではないか。
判決が及ぼす影響は辺野古問題にとどまらない。動き出したら止まらない公共工事など、この国が抱える病を、行政自身、さらに司法が正すことの難しさをうかがわせる。その観点からも疑問の残る判決といえよう。
沖縄県側の敗訴が確定し、政府は埋め立て工事にお墨付きを得たことになる。だが、事態が収束に向かうわけではない。移設までにはなお多くの手続きがあり、民意を背負う翁長知事は与えられた権限をフルに使って抵抗する構えだ。
それを知りつつ、政府が工事再開に突き進むのは賢明とはいえない。沖縄の声を政策決定過程に反映させることにこそ、力を注ぐべきだ。
訴訟に先立つ6月、国と地方との争いの解決にあたる第三者委員会は、普天間の返還という共通の目標の実現にむけた真摯(しんし)な協議を、政府と県の双方に求めた。政府はこれに前向きとは言いがたいが、「辺野古が唯一の解決策」と唱え続けても、展望が開けないのはこの間の経緯から明らかだ。
安倍首相は「沖縄の気持ちに真に寄り添う」大切さを説く。自らの言葉を実践し、この小さな島が抱える負担を少しでも軽くする道を示さねばならない。
◉ 毎日新聞社説 2016.12.21
辺野古で県敗訴 政治的な解決に努力を
司法の最終判断は下ったが、政治的な解決にはほど遠い。
沖縄県・米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設をめぐる国と県の訴訟で、最高裁は、埋め立て承認を取り消した翁長雄志(おながたけし)知事の対応を違法と判断した。これにより県の敗訴が確定した。
最高裁の論理は、前知事による埋め立て承認に違法な点が認められない以上、それを取り消した翁長氏の処分は違法というものだ。
今回の訴訟では、国防・外交にかかわる問題で国と地方の意見が対立した場合の判断や、沖縄県が辺野古新基地建設は地方自治を保障した憲法92条に反すると訴えたことについての憲法判断が注目された。だが、最高裁はこうした点にはいっさい言及せず、行政手続きとしての適否の判断に終始したと言える。
確定判決には従うと言ってきた翁長氏は、近く埋め立て承認取り消しを撤回する見通しだ。22日には沖縄県・米軍北部訓練場の一部返還にあわせた式典が予定されている。政府は負担軽減をアピールして、辺野古移設に弾みをつけたい考えだ。これらを受けて政府は、移設工事を再開する方針だ。
翁長氏は「あらゆる手段で移設を阻止する」とも語り、他の知事権限を動員して対抗する姿勢を見せる。
ただ、辺野古移設の問題は、法律論をいくら戦わせても解決できないだろう。国と県が泥沼の法廷対立をしても、お互いの利益にならない。
この問題は、前知事が県外移設の公約をひるがえして埋め立てを承認したことに県民が猛反発し、翌年の知事選で、移設反対派の翁長県政を誕生させたことに始まる。
移設反対の民意が何度も示されながら、政府が前知事の承認を錦の御旗(みはた)のようにして移設を強行するのが、民主主義や地方自治の精神に照らして適切かが問われている。
本質は行政手続きではなく、政治のあり方だ。政府は自らの手で解決を主導すべきだ。
辺野古に建設予定の新基地や、北部訓練場の返還に伴い新設されたヘリ離着陸帯には、米軍の新型輸送機オスプレイが飛び交うことになる。
名護市沖で起きたオスプレイの重大事故で、原因究明も終わらないまま飛行を再開させた日米当局の態度に、沖縄では反発が高まっている。政府が最高裁判決でお墨付きを得たとばかりに移設を強行してもうまくいかないだろう。
政府は、話し合いで解決できないから裁判に持ち込んだと考えているようだが、形だけの対話姿勢を示していただけではないか。回り道のようでも国と県が再度、真摯(しんし)に話し合いをすることを求めたい。
◉ 日本経済新聞社説 2016.12.21
円滑な日米同盟には沖縄の理解が必要だ
日本の安全保障において沖縄は地政学的に極めて重要な地域だ。在日米軍や自衛隊が重点配備されるのは当然である。だが、いくら基地をつくっても周辺住民の協力なしに日米同盟の円滑な運用は望めない。沖縄県民の過重な負担感をいかに軽減するか。安倍政権はいまこそ対話姿勢を示すときだ。
沖縄県宜野湾市にある米軍普天間基地を県内の名護市辺野古へ移設する政府の方針について、最高裁が全面支持する判断を下した。翁長雄志知事は判決に沿って移設先の埋め立て承認の取り消しは撤回する意向だ。
とはいえ、ここで政府がただちに工事再開に動くのがよいかどうかはよく考える必要がある。翁長知事はほかの権限を駆使して移設を阻止したいとしている。知事に方向転換を促すには、県民が抱く反基地感情を少しでも和らげる努力が欠かせない。
移設先の辺野古に近い海岸で先週、米軍の新型輸送機オスプレイが大破事故を起こした。日米両政府は「不時着」としているが、沖縄県は「墜落」との判断だ。同機は普天間基地に所属しており、基地が移ってくれば辺野古に来る。
移設作業を進めるには、事故がもたらした周辺住民の恐怖感への配慮があってしかるべきだ。にもかかわらず米軍はわずか6日でオスプレイの飛行を再開させた。
その前日に岸田文雄外相が「再開に向け、(米軍は)意思疎通を図ってもらわなければならない」と語っていたにもかかわらずだ。この程度の交渉力しかなくて「事故の再発防止に万全を尽くしている」と言われても信じがたい。
日米両政府は沖縄にある北部訓練場の北半分の返還で合意した。これにより在日米軍の専用施設に占める沖縄の比率は74%から71%に低下する。22日の記念式典は安倍政権がいかに基地負担の軽減に努めているかを印象付ける場になるはずだった。
だが、辺野古での工事再開方針への反発などから、翁長知事は式典を欠席する。県内に祝賀ムードはほとんどない。せっかく県民と雪解けできる機会を空費したのは安倍政権の対応ミスである。
政府内には翁長知事がさらなる移設阻止に動いた場合に損害賠償訴訟を起こして追い詰めるなどの案もあるようだ。それが本当に移設実現への近道なのか。力ずく一辺倒の政権と思われれば、沖縄以外の案件にもマイナスだ。
◉ 産経新聞主張 2016.12.21
「辺野古判決」 知事は和解条項の尊重を
米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古沖への移設をめぐる国と県の訴訟で、最高裁は国側の勝訴を言い渡した。
移設に反対する翁長雄志(たけし)知事が昨年10月、前知事による辺野古沖の埋め立て承認を取り消した処分は違法であると、最終的な判断が下された。
日米同盟の抑止力を確保する点でも、国と自治体の役割分担の観点からも妥当な判決といえる。
国は移設工事の再開に向けた準備に着手する。翁長氏は早期に、承認取り消しを撤回する手続きをとってほしい。
懸念されるのは、翁長氏が判決を受けて「今後も辺野古に新基地を造らせない公約実現に向けて取り組む」と述べたことである。
前知事が許可した岩礁の破砕許可は来年3月末に期限が切れる。この許可の継続や、一部工事の設計変更を認めない手段をすでに検討しているという。
しかし、国と県は今年3月の和解で「(確定判決の)趣旨に従って誠実に対応する」と約束した。徹底抗戦は司法判断の意義を無視するだけでなく、国との信頼関係を大きく損なう。
実際に対抗手段がとられれば、国は県に対する損害賠償請求を検討する。
地方自治法に基づく代執行の手続きをとる事態も起きる。再び、和解前のように双方が訴訟をぶつけ合うのだろうか。
尖閣諸島など安全保障環境の悪化を考えれば、対立の悪循環に陥っていいはずがない。
県民 を含む日本国民を守る安全保障政策は、自治体ではなく国が担う。海兵隊など沖縄の米軍は、安全保障条約に基づき日本と地域の平和を守るために存在していることも思い起こしたい。
県民を含む日本国民を守る安全保障政策は、自治体ではなく国が担う。海兵隊など沖縄の米軍は、安全保障条約に基づき日本と地域の平和を守るために存在していることも思い起こしたい。
判決に先立ち、米軍は名護市沖への不時着を受けて飛行停止していた垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの運用を再開した。事故原因となった空中給油は、改善措置がとられるまで停止を続ける。
政府は、米側の説明に合理性があるとして受け入れたが、地元の反発や戸惑いは残る。事故の究明や再発防止の徹底を、引き続き米側に強く働きかけるべきだ。
◉ 中日新聞・東京新聞社説 2016.12.21
辺野古判決 沖縄の声を聞かぬとは
沖縄の声を聞かずに結論を出すとは…。米軍普天間飛行場の辺野古移設をめぐる最高裁判決は「沖縄敗訴」だった。国と地方は対等という地方自治の精神を踏みにじる判断と言うべきである。
地方自治とは何だろうか。憲法の条文には、地方公共団体の組織や運営については「地方自治の本旨」に基づき法律で定めるとしている。では「地方自治の本旨」とは何か。その地域の住民自らが自分たちの要望に沿った政治を国から干渉を受けることなく実現することだと解されている。
だから、「地方自治は民主主義の学校」と言われる。中央政府が一手に強大な権力を握らないよう、権力を地方に分散させる意義があるとも説明されている。明治憲法にはなかった規定であり、戦後の民主主義社会では十分に尊重されねばならない条文だ。
だから、沖縄県側は「民意に反する新基地建設の強行は憲法が保障する地方自治権の侵害だ」と憲法違反を訴え上告していた。
この観点からすれば、最高裁は大法廷に回付し、十分に審理したうえで、憲法判断に踏み込むべきだったと考える。だが翁長雄志(おながたけし)知事の言い分を聞く弁論さえ開かず、「国の指示に従わないのは不作為で違法」と退けた。
米軍基地という政治的・外交的な問題には、確かに国の裁量が働くであろう。だが、全面的に国の政策の前に地方が従順であるだけなら、地方自治の精神は機能しない。当然、米軍基地の大半を沖縄に押しつける理由にもならない。
別の問題点もある。基地の辺野古移設に伴う海の埋め立て承認が今回の訴訟のテーマだった。つまり前知事による埋め立て承認の判断に違法性がなければ、現知事はそれを取り消すことができないのかというポイントだ。
選挙という「民意」が現知事の主張を支持すれば、政策を変更できるのは当然ではないか。
この点について、最高裁は「前知事の承認を審理判断すべきだ」「(現知事が)職権により承認を取り消すことは許されず、違法となる」と述べた。大いに疑問を抱く判断である。
それでは選挙で民意に問うた意味がなくなってしまうからだ。県民の合意がないまま埋め立てを強行しては「民意より米軍優先」そのものにもなる。
高裁は「辺野古しかない」と言い切った。その言葉はなくとも、最高裁の思考回路も「辺野古ありき」だったのではなかろうか。
◉ 信濃毎日新聞社説 2016.12.21
辺野古判決 工事強行でなく対話を
米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設を巡る訴訟は沖縄県側の敗訴が確定した。
翁長雄志知事は、今後も別の方法で抵抗を続ける意向を示している。これで決着ではない。政府は工事強行ではなく、対話によって解決する道を探るべきだ。
翁長氏は、前知事による辺野古沿岸部の埋め立て承認を取り消した。この処分の撤回を求めた国側が、是正指示に従わないのは違法として起こした訴訟だ。
9月の福岡高裁那覇支部判決は前知事の承認に合理性があると判断し、取り消し処分を違法と結論付けていた。最高裁は結論の変更に必要な弁論を開かなかったため想定された判決である。
最高裁は高裁支部と同様に前知事の判断が妥当かを検討、「不合理な点はない」とした。その上で承認取り消しは違法と指摘し、翁長氏の上告を棄却した。
一方、移設の是非には踏み込んでいない。高裁支部は「普天間飛行場の被害を除去するには辺野古沿岸を埋め立てるしかない」と言及していた。司法が政府の方針に追随するかの判断であり、見直すのは当然である。
判決を受け、政府は工事を再開する考えだ。菅義偉官房長官は記者会見で「確定判決や3月の和解の趣旨に従って沖縄県と協力して移設を進めていく」とした。稲田朋美防衛相は、処分が撤回され次第、速やかに工事を再開するとのコメントを出している。
翁長氏は、辺野古に新基地を造らせないという公約の実現に全力で取り組むとしている。このままでは国と県の対立が続く。
政府は、勝訴したからといって沖縄の反対の声をないがしろにしてはならない。
沖縄の民意より米軍の意向を優先する政府の姿勢は、名護市沖でオスプレイが大破した事故であらわになった。発生から1週間足らずで詳しい原因もはっきりしないまま飛行再開を容認している。この上、工事を強行すれば政府や米軍への反感はさらに強まる。
本来、裁判で決着をつける問題ではない。国と県の3月の和解は円満解決に向けて協議するとしていた。総務省の第三者機関「国地方係争処理委員会」の決定も、国と県が真摯(しんし)に協議し、納得できる結果を導く努力をすることが最善の道だと指摘した。
普天間の代わりに新基地を建設するのでは、沖縄にとって負担軽減にならない。政府は「辺野古移設が唯一の解決策」との発想を転じ、話し合いを重ねるべきだ。
◉ 河北新報社説 2016.12.21
辺野古訴訟 沖縄県敗訴/「北風」では解決が遠のく
米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設計画を巡り、司法の最終判断が出されたにもかかわらず、事態が進展するどころか、国と沖縄県との対立は激化していくのではないか。
辺野古沿岸部の埋め立て承認を取り消した翁長雄志知事が、是正指示に従わないのは違法だとして、国が知事を相手に起こした訴訟。最高裁第2小法廷はきのう知事側の上告を棄却した。県側敗訴の一審福岡高裁那覇支部判決が確定した。
今回は大法廷ではなく小法廷で審議された。県側が民意に反した辺野古移設強行は「憲法が保障する地方自治の侵害」と主張したのに、なぜ憲法判断を避けたのか。
小法廷でも弁論は開き、「沖縄差別論」に耳を傾けるべきだった。政治判断に全てを委ね、難題から逃げていると言わざるを得ない。最高裁の存在意義が問われよう。
時あたかも、米軍普天間飛行場所属の新型輸送機オスプレイが不時着事故を起こし、過重な基地負担に苦しむ沖縄県民の怒りは頂点に達している。県外移設にこだわる県側からすれば、国の主張を丸のみしたような最高裁判決は納得できないだろう。
沖縄県では、県民の8割以上が辺野古への移設に反対している。翁長知事は民意をバックに、敗訴が確定しても、阻止に向けて徹底抗戦する構えだ。
知事には幅広い権限が付与されている。翁長知事はあくまで埋め立て承認取り消しの処分についての判断だと解釈しており、次の新たな手段に打って出る可能性が高い。
来年3月末に期限が切れる辺野古の「岩礁破砕許可」を更新しないといった複数の方策を温めているという。次々と繰り出されていけば、事態の泥沼化は避けられない。
安倍政権が安全保障や外交上の国益を大上段から振りかざすだけでは、この問題は一歩も動かないだろう。沖縄県にも住民の安全、生活、人権を守る自治体としての責務があるからだ。国が上位に立ち、地方に隷属を強いる思考はもう通じないのではないか。
国際情勢も変わりつつある。海兵隊は沖縄以外に長崎県・佐世保基地やグアム、オーストラリアなど国内外に分散配置が進んでおり、政府が強調する「一体的運用論」や「地理的優位論」は、今や説得力を失ってきている。
加えて次期米大統領のトランプ氏の登場である。選挙期間中に日本への米軍駐留経費の負担増を唱える一方、撤退も示唆している。沖縄県に追い風が吹く可能性すらあり、先行きは不透明だ。
いずれにしても、複雑に絡み合った糸をほぐすには、理詰めで押し切ろうとしても無理がある。強硬姿勢一辺倒の「北風」路線には限界があり、粘り強い対話でしか解決する道がないことを、安倍政権は肝に銘じるべきだ。
◉ 東奥新聞(青森)社説 2016.12.21
政府は事態打開へ動け/辺野古訴訟 県敗訴確定
沖縄県宜野湾市にある米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設を巡り、沿岸部の埋め立て承認を取り消した翁長雄志知事を国が相手取った訴訟の上告審判決で、最高裁は「承認取り消しは違法」と指摘して、知事の上告を退け、県側の敗訴が確定した。
政府は勝訴に基づいて中断している辺野古沖での埋め立て工事を再開する方針だ。しかし翁長知事は「辺野古新基地は造らせない」として、今後も別の手段で対抗を続ける考えを示しており、国と県の対立はさらに深まるだろう。
背景には、沖縄の過重な基地負担に政府が真正面から向き合っているとは言い難い現状がある。重大事故を起こした米軍新型輸送機オスプレイの飛行再開は事故後わずか6日で認めた。基地の安定的な運用には住民の理解が必要だが、一連の動きは沖縄の民意を踏みにじるものと言わざるを得ない。
政府は工事再開という強硬姿勢ではなく事態打開に向け沖縄県と誠実に協議するとともに、解決策を見いだすよう米政府に働き掛けるべきだ。
最高裁判決は仲井真弘多前知事が行った埋め立て承認について、辺野古移設によって米軍施設の面積が縮小されることや環境保全対策などを挙げて「不合理な点はない」と認定。現知事による承認の取り消しを違法だと判断した。
また国が地方自治体に是正を指示できることも認めた。
一方、国の対応が地方自治を侵害し、憲法違反だと福岡高裁那覇支部で主張した県側の訴えは審理の対象となっていない。安全保障上、米軍基地を沖縄に置く「地理的優位性」を認めて、県外移設の実現の見込みがない以上、普天間飛行場の危険性を除去するには辺野古以外にないとした支部判断には触れなかった。
弁論を開かず、承認手続きの法律論に限定した最高裁の判決は、沖縄県民が納得するものではなかろう。
前知事の埋め立て承認後に示された沖縄県民の民意もある。2014年の県知事選で移設反対を公約に掲げた翁長氏が前知事を破り、同年末の衆院選の4小選挙区と今年の参院選でも移設反対派が勝利している。
大統領選中に在日米軍基地の費用負担増を求めたトランプ次期米大統領の今後の対応はまだ分からない。しかし変化の可能性がある時だからこそ、日本政府も固定化した発想を脱するべきだ。
◉ 神戸新聞社説 2016.12.21
辺野古判決/沖縄の声は届かないのか
米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設を巡る沖縄県と国の訴訟で、最高裁が翁長雄志(おながたけし)知事の上告を棄却した。
これを受けて国は中断中の移設工事を再開する方針だが、知事は今後もあらゆる手段で辺野古への移設に対抗する考えを表明している。
最高裁で示されたのは一つの行政手続きについての判断にすぎない。国が高圧的な態度を改めない限り、知事を中心に抵抗は続く。それを多くの県民が支持している。国はこの事実を軽く見ていないか。
裁判は知事が辺野古沿岸部の埋め立て承認を取り消したことに対し、国が撤回を求めて起こした。
福岡高裁那覇支部は国の主張をほぼ認めた上で、「普天間の被害を除去するには辺野古に基地を建設する以外にない」とまで言い切った。すぐさま知事は上告した。最高裁は「高裁支部の論旨は採用できない」としながら、埋め立て承認の取り消しを違法とする結論は認めた。
これまでの経緯を見ると、民意を背に対話を進めようとする知事側に対し、国はまともに応じようとしなかった。歩み寄る姿勢を見せないのは不誠実と言うしかない。
今も国の姿勢が改められる気配はない。米軍によるオスプレイ事故への対応が如実に物語る。
事故発生を受け、安倍晋三首相は「大変遺憾。オスプレイの飛行の安全確保が大前提だ」と述べていた。
ところがどうだろう。機体に問題なしとする米軍の不十分な説明を、「理解できる」(菅義偉官房長官)とすんなり受け入れ、わずか6日で飛行再開を認めた。稲田朋美防衛相にいたっては「米側の対応は合理性が認められる」と発言した。
県民の心情より米軍の意向を優先したと言わざるを得ない。沖縄全島で党派を超えて怒りの声が広がるのも当然である。
沖縄海兵隊トップは沖縄県の副知事に「パイロットは住民らに被害を与えなかった。感謝されるべきだ」と述べ、県民の神経を逆なでした。にもかかわらず、政府は米側に抗議するどころか事実上、「不問」にしてしまった。
沖縄には米軍基地の集中によってもたらされた苦しみの歴史がある。その怒りを受け止めることなく、基地問題の解決を図ることは無理だろう。国の誠実な対応を求めたい。
◉ 佐賀新聞社説 2016.12.21
沖縄の米軍基地訴訟 県民の思い、再び無視された
米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設をめぐり、最高裁は沖縄県知事の訴えを退け、国の工事再開を容認した高裁判決が確定した。司法が沖縄の在日米軍の存在を積極的に認めた判決となったが、戦後、基地の苦しみに耐え続けてきた沖縄県民の思いとは乖離(かいり)したものだ。
最高裁の判断を簡単に言えば、「住宅地の中にある普天間飛行場の危険を除去するには辺野古沿岸部に移設するしかない。そうしなければ、普天間の被害が続くだけだ」と高裁判決を追認した内容になっている。沖縄は北朝鮮の長距離ミサイルの射程圏外にある一方で、米軍グアム基地との距離が近く連携がとりやすいなどの理由を並べ、「県内移設が地理的優位性が認められる」としている。
沖縄県は知事が持つ沿岸部の埋め立て承認権を盾に裁判を闘ってきたが、移設予定地は米軍のキャンプ・シュワブの敷地内にあり、裁判所は「地域振興の妨げにもならない」と県の訴えを退けた。
普天間飛行場の返還について日米が合意し、20年がたつ。沖縄の米軍基地移設は国政の重要問題であり続けているが、司法は積極的に基地の「県内移設」を是認する形となった。
沖縄県民は選挙を通じ、「基地反対」の民意を示し続けていることをあわせて考えれば、やり場のない憤りをどこにぶつけたらいいのかという思いだろう。
先日示された神奈川県の厚木基地訴訟の最高裁判決でも、住民の騒音被害を認め、国に賠償金の支払いを命じているが、高裁が認めた「早朝と深夜の飛行差し止め」は棄却した。司法は高度な政治問題について判断を避ける傾向があるが、日米同盟に関わる問題はさらにその傾向が強い。
それでも、と思う。政治が沖縄県民の思いに配慮する姿勢を見せれば、少しでも思いは満たされるのかもしれない。しかし、米軍は新型輸送機オスプレイの大破事故からわずか6日で飛行再開した。
散乱した機体を分析して、事故原因調査が行われたとはとても考えにくい。海上保安庁が求めた捜査協力についても、米軍は地位協定を理由にまだ回答がない。徹底的な原因究明を求めた沖縄県民の思いはここでも無視された。
来月には、「世界の警察官」を演じてきた米国の国防政策見直しを唱えるトランプ政権が誕生する。新政府とは基地問題で波風を立てたくないという日本政府の意向もあると言われている。稲田朋美防衛相は「米軍の説明で、国民全体が理解できるのではないか」と話しているが、あまりに県民感情と懸け離れていないか。
沖縄の苦しみ。これが佐賀県だったらと想像してみたい。佐賀空港へのオスプレイ配備がいったん決まれば、裁判でも、選挙でも、それを覆すのは難しい。
現行計画では自衛隊機のみの配備だが、米軍が訓練で使用する可能性は否定されたわけではない。今回の大破事故の対応を見てもわかるように、トラブルが起きても、日本政府が責任をもって対処するわけでもない。
沖縄県に集中する基地問題は、日本全体で考える必要がある。一方で、一度引き受ければ、後戻りはできない。基地問題に直面する県はそれだけの覚悟が必要だと自覚すべきだろう。
◉ 愛媛新聞社説 2016.12.21
辺野古最高裁判決 国は沖縄と真摯に対話を重ねよ
米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設を巡る訴訟で、沖縄県側の敗訴が確定した。前知事による埋め立て承認を取り消し、国の是正指示に従わない翁長雄志知事の対応を、最高裁が違法と判断した。弁論を開かない「門前払い」に失望を禁じ得ない。
審理の対象は行政手続きの妥当性に絞られた。一審に当たる福岡高裁那覇支部判決は「普天間の被害を除去するには辺野古沿岸を埋め立てるしかない」と言及したが、最高裁は辺野古である必然性には触れなかった。国の提訴から5カ月の「スピード決着」で双方にボールを投げ返し、対話を促したとも映る。高圧的な対応を強める政府は重く受け止めるべきだ。
一方、辺野古移設を強行する国が地方自治を侵害し、憲法に反すると県が主張してきた点を審理対象から外したのは看過し難い。国と地方という対立の構図を考えれば、今回の訴訟の核心部分と言える。日米の安全保障に関わる政治性の高い問題とはいえ、憲法判断に踏み込むのを避けた姿勢は、司法の役割を自ら放棄したに等しいと言わざるを得まい。
翁長氏が埋め立て承認を取り消したのは昨年10月。激しい訴訟合戦の末、今年3月に和解が成立した。国と県は確定判決に従うと確認しており、翁長氏は取り消し処分の撤回に応じると表明している。しかし、訴訟の対象になっていない知事の許認可権などを使って辺野古移設に抵抗する意向も示唆しており、今後も混迷は必至だ。
判決を受け、菅義偉官房長官は辺野古移設を進めると強調するとともに、「わが国は法治国家だ」と県側をけん制した。翁長氏が繰り出す対抗措置に、代執行などで応じる考えなのは想像に難くない。対立に拍車が掛かることを強く危惧する。
両者の溝を象徴する事案が起きた。先週、名護市沖の浅瀬に米軍の新型輸送機オスプレイが「不時着」して大破した。米軍は飛行を一時中止したものの、「機体の安全性が確認できた」として1週間もたたないうちに再開。徹底的な原因究明を求めていたはずの日本政府は押し切られ、追認した。海上保安庁や防衛省は機体や現場の検証に加われていない。不安を訴える沖縄県民らの声に耳を貸さず、一方的な情報をうのみにした対米追従に憤りが募る。
沖縄には在日米軍専用施設の約74%が集中している。県民の願いが基地負担軽減にあることは言うまでもない。政府は負担軽減を強調しながら辺野古への移設に固執するが、「県内から県内」では軽減にならない。普天間の危険除去と辺野古移設を切り離すよう改めて求める。
沖縄に向き合う政府の姿勢が問われている。真の負担軽減につながるあらゆる可能性を探る努力こそが必要だ。真摯に対話を重ねることでしか解決の道は見いだせないのだと、肝に銘じなければならない。