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#009 兵站と後方支援について

2015.7.4

Ⅰ 後方支援(Combat Service Support)について

 

 後方支援とは、第一線部隊の後方において作戦を支援するあらゆる業務を包括する概念であり、軍事作戦を支援するために作戦部隊に対して行われる計画的かつ組織的な業務を総称する。

 直接戦闘に係わる「戦闘兵科」と区別して「後方兵科」と呼ばれ、作戦部隊を後方から支援するために必要な業務は非常に多岐にわたる。

 主要な後方支援業務は総括的に「兵站業務」と呼ばれ、それ以外の「後方支援業務」とは区別される。

 

Ⅱ 兵站(Military Logistics)について

 

① 兵站

 

   軍事用語としての「兵站」とは、戦闘地帯から後方の、軍の諸活動・機関・諸施設を総称したもの。戦争において作戦を行う部隊の移動と支援を計画し、また、実施する活動を指す用語でもあり、例えば兵站には物資の配給や整備、兵員の展開や衛生、施設の構築や維持などが含まれる。

   類義語としては、戦闘を実施する上で部隊の作戦行動を支援する戦闘支援(Combat Support)、作戦行動を行う部隊の軍事的な機能を保持させる後方支援(Combat Service Support)があり、これらに比べて兵站はより広い範囲を指示する概念である。

 

 ② 兵站の機能(業務)

 

  兵站の機能(業務)としては、

 (1)補給 作戦に必要な物資(軍需品)を適材適所に充足させること

 (2)輸送 作戦上必要な部隊や物資を適時適所に位 置させること、

 (3)整備 戦闘力を維持するために装備の性能が完全に発揮できる状態、もしくは使用可能な状態に回復させる活動

 (4)回収 損傷した兵器を修理拠点に回収して修理 ・再生や廃棄を行うこと

 (5)建設 施設を建設・維持・運用・処分すること

 (6)衛生 負傷した将兵の手当て・看護・治療という医療サービスを提供すること

 (7)労務 外部労働力の直接利用

 (8)役務 契約業者による求職、選択、守衛、配達、建設作業、音札、翻訳、機械操作など

  などがあげられる。

 

Ⅲ 後方支援業務について

 

① 兵站業務以外の後方支援業務

 

  兵站業務以外の後方支援業務としては

  (1)情報 正確な情報をタイミングよく収集・分析し、指揮の決心に影響を与えるこれらの情報を提供する

  (2)通信 情報の伝達・配布する機能

  (3)資財 兵器以外の取得

  (4)装備 兵器の取得

  (5)研究 兵器の研究開発業務

  (6)教育 戦闘に関する技術や技能の教育

  (7)警務 軍隊内だけの警察・警務業務。ほぼ全ての国の軍隊が持つ「野戦憲兵」。戦闘兵科に属する「国家憲兵」とは異なる。

  (8)法務 法律に関する業務(軍法を持つ国と持たない国では差がある)

  (9)会計 金銭管理

    (10)人事 将兵の徴兵、教育計画、人員配置、昇進、賞罰、待遇、除隊を管理

    (11)公報 国内・国外向けの公報宣伝活動

    (12)その他 郵便、被服、装備品類、年金、退職者福利、施設、清掃、求職、洗濯、需品、散髪、娯楽、気象、航空管制、交通整理、捕虜管理、避難民管理、死傷者管理、獣医務、宗教・イデオロギー担当、売春宿の運営(国や時代によって)

 

 

Ⅳ 安保法制案における後方支援活動

 

 ① 2種類の後方支援活動

 

  ここで自衛隊による後方支援活動には、重要影響事態安全確保法案による「後方支援活動」と、国際平和支援法案にいう「協力支援活動」の2種類があることが分かる。

  この「後方支援活動」と「協力支援活動」の同意点若しくは相違点がどこにあるのか、重要影響事態安全確保法案の全文の情報がなく、加えて政府の説明不足でよく分からない。

 

 ②  重要影響事態安全確保法案にいう「後方支援活

  動」

 

  防衛省・自衛隊が実施する物品・役務をいう。具体的には、補給、輸送、修理及び整備、医療、通信、空港及び港湾業務、基地業務、宿泊、保管、施設の利用、訓練業務をいい、武器の提供は含まない。(法案の全文の情報がないため、内閣府提供の「概要」から) 

  なお、弾薬の提供及び戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機に対する外国領域(当該外国等の同意がある場合に限る。)での給油及び整備は実施可能とする。

 

 ③ 国際平和支援法にいう「協力支援活動 」

 

   諸外国の軍隊等に対する物品及び役務の提供である。

   具体的には、同法案別表第一に掲げている補給、輸送、修理及び整備、医療、通信、空港及び港湾業務、基地業務、宿泊、保管、施設の利用、訓練業務、建設をいう。

 

 cf.別表第一(第三条関係)

 

   種類       内容 

   補給       給水、給油、食事の提供並びにこれらに類する物品及び役務の提供

   輸送       人員及び物品の輸送、輸送用資材の提供並びにこれらに類する物品及び役務の提供

   修理及び整備   修理及び整備、修理及び整備用機器並びに部品及び構成品の提供並びにこれらに類する物品及び役務の提供           

   医療       傷病者に対する医療、衛生器具の提供並びにこれらに類する物品及び役務の提供

   通信       通信設備の利用、通信機器の提供並びにこれらに類する物品及び役務の提供

   空港及び港湾業務 航空機の離発着及び船舶の出入港に対する支援、積卸作業並びにこれらに類する物品及び役務の提供

   基地業務     廃棄物の収集及び処理、給電並びにこれらに類する物品及び役務の提供

   宿泊       宿泊設備の利用、寝具の提供並びにこれらに類する物品及び役務の提供

   保管       倉庫における一時保管、保管容器の提供並びにこれらに類する物品及び役務の提供

   施設の利用    土地又は建物の一時的な利用並びにこれらに類する物 品及び役務の提供

   訓練業務     訓練に必要な指導員の派遣、訓練用器材の提供並びにこれらに類する物品及び役務の提供

   建設       建築物の建設、建設機械及び建設資材の提供並びにこれらに類する物品及び役務の提供

   備考       物品の提供には、武器の提供を含まないものとする。

 

 ④    2法案の比較

 

  この2法案の活動内容を比較すると、建設(建築物の建設、建設機械及び建設資材の提供並びにこれらに類する物品及び役務の提供)は国際平和支援法にはあるが、重要影響事態安全確保法案にはないことが分かる。

 

 

Ⅴ いわゆる兵站と日本政府説明の後方支援について

 

  以上見てきたように、軍事用語としての兵站も、安保法制による後方支援も、補給、輸送、修理及び整備、医療など同様の業務を行い、質的な差は少ないと考えられる。

  唯一の違いは後方支援を行う「場所性」だろう。

 

〇 安倍首相は、6月17日の衆院党首討論において

 「兵站は軍事攻撃の格好の標的となる。そして自衛隊が兵站をやっている場所が戦場になる。そこが脆弱(ぜいじゃく)性があるわけでありまして、だな からこそ安全な場所を選んで、そしてその届ける物資が奪われてしまっては、まさにこれは大変なことになってしまうわけでありますから、だからこそ、われわれはそうはならない場所を選んで後方支援をしていくということについて、お話をさせていただいたわけでございます」

 「こうした物資を届ける場所、大切な物資を届ける場所であるから、安全な場所で相手方に渡す。これが今や常識ではないか。」と述べ、後方支援を行う場所は「安全な場所」と断定し、(兵站という言葉を使用しながら、)故に兵站ではないと主張しているように見える。

 

〇 しかし、何百Kmも離れた遠距離地に兵站基地を置くならともかく、戦争行為を維持するにはむしろ非効率的であり意味をなさず、前線基地に付随し、若しくはごく近距離地に設置するのが当たり前であろう。

 

〇 また、首相自らがいみじくも述べたように、戦争の相手国が兵站はまさに軍事攻撃の格好の標的になるものと考えるのは軍事的にも政治的にも戦略的にも当然のことであり、常識であろう。安全な場所などというものはどこにもない、笑止千万、現実離れした認識と言わざるを得ない。

 

〇 また、平成11年2月の衆院外務委員会で、当時の外務省・東郷条約局長が『武力行使との一体化、これはわが国が自ら直接武力行使をしていないとしても、個々の具体的な状況によってはわが国も武力行使をしたとの法的評価を受ける場合がありうるとする考え方でございますが、自衛のための必要最小限の範囲を超える武力の行使を禁じている日本国憲法との関係で用いられている概念でございます』と述べている。

 

〇 これは、武力行使との一体化論は憲法との関係で述べたに過ぎず、国際法との関係について述べたものではないということを意味する。しかし、国際法上はこのような武力行使との一体化という確立した概念が存在するわけではなく、武力行使の英訳についても、確定したものがある訳でもない。

  すなわち、「他国の武力行使と一体ではない後方支援ならば、武力の行使と一体と見なされない」などという国際法上の概念も存在しない。

 

Ⅵ 結論

 

〇 以上の結論として、政府が後方支援と呼んでいる活動は、国際的には兵站、ロジスティクスと呼ばれる活動であり、戦争行為の一環であること、すなわち兵站(政府の言う「後方支援」)と武力行使とは一体不可分であるということができるだろう。

 

〇 それゆえに、軍事攻撃の格好の目標とされることは世界の常識であり、軍事の常識であり、政府の言う「武力攻撃と一体ではない後方支援論」など世界では通用するものではないということは明らかだという結論が導き出されるであろう。