2012.3.30(金)
県南、会津の「首長」らは「県の救済措置は一歩前進」として受け入れるという。 確かにその地域の人にとって「前進」なのだろう。 しかし、救済措置をとる県それ自体が、間違いなく「被害者」だ。 県とは県民であり、我々だ。 被害者が被害者に身銭を切って賠償の肩代わりをするという構図が、私には我慢ならない。 赤字会社が寄付をするというのもおかしい。 これは分断であり、責任の所在を曖昧にするものだ。 今回の県の措置には全く賛成できかねる。 その意味で、旧知の福島民報・早川記者の「論説」を、断固支持する。
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【精神的損害賠償】責任の所在を明確に
2012.3.30 福島民報「論説」
東京電力福島第一原発事故に伴う県民の精神的損害に対する賠償問題が取りあえず決着した。 文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会が賠償の対象外とした会津地方と県南地方の住民に県が現金を給付して不公平感の是正を図る内容だ。 ただ、事の本質は両地方とも賠償の対象地域として国や東電に認めさせることにあったはずだ。 今回の措置が前例になり、本来、東電などが責任を負うべき範囲が将来的に狭められる恐れはないのか。 原発事故によって放出された大量の放射性物質による影響は程度の差はあれ、県内全体に及んでいる。 県内59市町村のうち11市町村が「汚染特別地域」、会津地方や県南地方を含む41市町村が「汚染状況重点調査地域」に指定された。 空間の放射線量が比較的低く、両地域の指定を受けていない南会津町でも平常値の2倍程度の放射線量が測定されている。 原子力損害賠償紛争審査会は精神的な損害の賠償範囲を「一定の放射線量が計測され、被ばくへの不安を感じて当然と考えられる地域」として線引きした。 低線量被ばくの健康影響が科学的に明らかになっていない現状において、県民のほとんどが何らかの不安を感じているはずだ。 線引き自体に無理があり、審査会も放射線量が低くても相当期間にわたり続く場合は追加もあり得るとしている。 県南地方の妊婦と18歳以下の子どもにまで賠償対象を拡大した東電の対応はそれなりに評価できる。 ただ、妊婦らを除いた県南地方の住民や会津地方の住民は依然、対象外だ。 会津地方の支援を目的に県の原子力被害応急対策基金に拠出する30億円は任意の「寄付」であり、責任を伴う「賠償」ではない。 この違いは大きい。 国が同じ基金に交付した403億円も賠償の立て替えとみていいのか、はっきりしない。 県の給付によって、当面は賠償の対象外とされた地域の住民の不公平感は和らぐかもしれない。 心配なのは、今回の給付が「手切れ金」になり、会津地方などの住民が将来にわたって賠償対象から切り離されてしまうのではないかという点だ。 低線量被ばくは、健康影響が明らかになるまでに長期間を要するとされる。 想定したくはないが、万が一に備え、原発事故が会津、県南の住民全体にも被害をもたらした事実を国と東電に認めさせておく必要がある。 今、重要なのは金額ではない。責任の所在を賠償という形で明確にしておくことだ。 (早川 正也)