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#088 伊方原発3号機運転差止
仮処分命令申立事件却下決定に対する即時抗告事件
広島高裁決定要旨・決定全文・弁護団声明・報道記事・社説
2018.9.26
平成29年(ク)第62号保全異議申立事件
(原審・広島地方裁判所平成28年(ヨ)第38号,同年(ヨ)第109号)
(抗告審・広島高等裁判所平成29年(ラ)第63号)
決 定 要 旨
主 文
1 債権者らと債務者間の当裁判所平成29年(ラ)第63号伊方原発3号機運転差止仮処分命令申立事件(第1事件,第
2事件)却下決定に対する即時抗告事件について,当裁判所が平成29年12月13日にした仮処分決定を取り消す。
2 債権者らの各抗告を棄却する。
3 手続費用は,当軟判所平成29年(ラ)第63号事件及び本件保全異議申立事件を通じ,いずれも債権者らの負担とす
る。
理由の要旨
1 事案の概要
(1) 本件は,四国電力伊方原発3号機(伊方原発)のおよそ100km圏内(広島市,松山市)に居住する住民(債権者ら)
が,四国電力(債務者)に対し,伊方原発の安全性に欠けるところがあるとして,人格権に基づき,伊方原発の運転差止
めを命じる仮処分を申し立てた事案である。
(2) 本件の争点は,①司法審査の在り方,②新規制基準の合理性に関する総論,③新規制基準の合理性に関する各論とし
て,㋐基準地震動策定の合理性,㋑耐震設計における重要度分類の合理性,㋒使用済燃料ピット等に係る安全性,㋓地す
べりと液状化現象による危険性.㋔制御棒挿入に係る危険性,㋕基準津波策定の合理性,㋖火山事象の影響による危険
性,㋗シビアアクシデント対策の合理性,㋘テロ対策の合理性,④保全の必要性,⑤担保金の額である。
(3) 原審(広島地方裁判所)は,原子力発電所の安全性審査に関する新規制基準は合哩的であり,伊方原発が新規制基準に
適合するとの原子力規制委員会の判断も合理的であるから,債権者らの申立ては被保全権利の立証(疎明)を欠くなどと
して,申立てを却下したところ,債権者らが即時抗告した。
抗告審(広島高等裁判所)は,火山事象の影響による危険性について,伊方原発が新規制基準に適合するとした原子力
規制委員会の判断は不合理であり,債権者らの生命身体に対する具体的息吹の存在が事実上推定されるから,債権者らの
申立ては被保全権利の疎明がなされたと判断し,保全の必要性も認められるが,係属中の本案訴訟において異なる判断が
される可能性などを考慮し,立担保を命じることなく,債権者らの申立てを一部認容したところ,四国電力が本件保全異
議を申し立てた。
異議審において,司法審査の在り方,基準地震動の策定の合理性,火山事象の影響による危映性について,当事者双方
から主張が補充された。
2 当裁判所の判断
(1) 司法審査の在り方及ぴ火山事象の影響による危険性以外の争点
抗告審決定と同様,債権者らの住所地と伊方原発との距離に照らし,四国電力において,伊方原発の設置運転によって
放射性物質が周辺環境に放出され,その放射腺被曝により債権者らがその生命,身体に直接的かつ重大な被害を受ける具
体的危険が存在しないこと(具体的危険の不存在①)について,相当の根拠資料に基づき主張立証(疎明)しなけれぱ,
具体的危険の存在が事実上推定されるが,原子炉等規制法の趣旨に照らし,これに代え,新規制基準に不合理な点のない
こと及び伊方原発が新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断に不合理な点がないことを相当の根拠資料に基
づき主張立証(疎明)することができ,基準の不合理性又は基準適合判断の不合理性が事実上推定される場合,四国電力
は,それにもかかわらず,伊方原発の運転等によって放射性物質が周辺環境に放出され,その放射線被曝により債権者ら
の生命,身体に直接的かつ重大な被害を受ける具体的危険が存在しないこと(具体的危険の不存在②)を主張立証(疎
明)しなければならないと解される。
そして,火山事象の影響による危険性以外の争点について,抗告審決定と同様,新規制基準は合理的であり,伊方原発
が新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断も合理的であると認められる。
(2) 火山事象の影響による危険性
火山事象の影響による危険については,抗告審決定における判断を次のとおり変更する。
ア 火山ガイド(原子力規制委員会が策定した安全審査の内規)は,火山影響評価を立地評価と影響評価の2段階で行う
こととしている.このうち,立地評価では,原子力発電所に影響を及ぼし得る火山を抽出し,設計対応不可能な火山事
象が原子力発電所の運用期間中に影響を及ぼす可能性などを評価することで原子力発電所の立地の適否を検討し,影響
評価では,個々の火山事象への設計対応及び運転対応の妥当性について評価を行う。
イ 立地評優に関する火山ガイドの定めは,検討対象火山の噴火の時期及び程度が相当前の時点で相当程度の正確さで予
測できることを前提としている点においてその内容が不合理であり,火山ガイドの定めに従えぱ,阿蘇カルデラの過去
最大の噴火である阿蘇4噴火(約9万年前)の噴火規模を想定し,火砕流が伊方原発敷地に到達する可能性が十分小さ
いかどうかを評価することになるが,阿蘇4噴火の火砕流が伊方原発敷地に到達した可能性が十分小さいと評価するこ
とはできないから,伊方原発敷地に原子力発電所を設置することは認められないことになる。
しかし,検討対象火山の噴火の時期及び程度を数十年前の段階で相当程度の正確さで予測することは困難であるとの
現在の火山学の水準のもとにおいて,原子力発電所の安全性確保の観点から巨大噴火の危険をどのように想定すべきか
については,我が国の社会が自然災害に対する危険をどの程度まで容認するかという社命通念を基準として判断せざる
を得ない。阿蘇カルデラにおいて阿蘇4噴火と同程度の破局的噴火が発生した場合,壊滅的被害が発生することになる
が,現在の知見では,その前駆現象を的確にとらえることはできず,具体的予防措置を事前にとることはできない。
その一方で,その発生頻度は著しく小さく,国は破局的噴火のような自然災害を想定した具体的対策は策定しておら
ず,これを策定しようとする動きがあるとも認められないが,国民の大多数はそのことを格別に問題にしていない。そ
うであれば,破局的噴火によって生じるリスクは.その発生の可能性が相応の根拠をもって示されない限り,原子力発
電所の安全確保の上で自然災害として想定しなくても安全性に欠けるところはないとするのが.少なくとも現時点にお
ける我が国の社会通念であると認めるほかない。そうすると,火山ガイドの立地評価においては,原子力発電所の運用
期間中に破局的噴火が発生する可能性が相応の根拠をもって示されない限り,このような噴火を除いたその余の火山事
象と解して判断するのが相当であり,本件では,阿蘇において破局的噴火が本件発電所の運用期間中に発生する可能性
が相応の根拠をもって示されているとは認められず,これを除けぱ,伊方原発に設計対応不可能な火山事象(火砕流)
が到達する可能性が十分小さいと評価できるから,伊方原発の立地は不適とはならず,具体的危険の不存在②の主張疎
明がなされたということができる。
ウ 影響評価に関しては,四国電力の降下火砕物の層厚の想定は合理性があり,新規制基準に適合するとした原子力規制
委員会の判断も合理的である。
また,四国電力は,降下火砕物の大気中濃度の想定について,改正された実用炉規則や火山ガイド等において新たに
想定すべきであるとされた実用降下火砕物濃度に対して,非常用ディーゼル発電機の機能が喪失しないよう対策を講じ
るなどし,保安規定変更認可を申請している状況で,これにより変更後の基準に適合する蓋然性があると認められ,具
体的危険の不存在②の主張疎明がなされたものと認める。
エ 以上のとおり,火山事象の影響による危険性の評価についても,四国電力により,新規制基準に不合理な点がなく,
伊方原発が新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断に不合理な点がないこと又は具体的危険の不存在②の
主張立証(疎明)がなされていると認められる。
(3) 結論
そうすると,債権者らの申立ては,いずれも被保全権利についての疎明を欠くことになるから,その余の点について判
断するまでもなく,いずれも理由がなく,各申立てを却下した原審決定は相当であり,債権者らの各抗告は理由がない。
したがって,抗告審決定を取り消し,債権者らの各抗告を棄却することとし,主文のとおり決定する。
以 上
弁護団声明
弁護団声明 (広島高裁異議審決定を受けて)
2018年(平成30年)9月25日 伊方原発運転差止広島裁判弁護団
1 広島高裁第2部の三木昌之裁判長,冨田美奈裁判官,長丈博裁判官は,本日,伊方原発3号機の運転差止を認めた
即時抗告審決定に対する保全異議申立事件において,同原発の運転を認める不当決定を出した。
2 同決定は,火山ガイドは相当程度の正確さで噴火の時期,規模の予測が可能であることを前提にする点で不合理で
あると認定しているにもかかわらず,破局的噴火に対する法律やインフラの整備等がなされていないことなどから,
破局的噴火の可能性が抽象的可能性にとどまる限りその噴火を容認する「社会通念」が存し,これを覆すには原発の
運用期間中に噴火が発生する可能性を相応の根拠をもって示さない限り立地不適とはならないと判示した。同決定
は,住民に対して,予測不可能な破局的噴火について,その噴火可能性を相応の根拠を持って示さなければならない
という無理難題を強いるものである。また,原発に対する規制は,一般防災に関する規制と比べて格段に高度な安
全性が求められるのであり,原発に対する規制以外に破局的噴火への法やインフラ整備がなされていないことは,破
局的噴火を容認するという「社会通念」の根拠にはならない。同決定は,原発に求められる安全性について全く理解
していない。
3 上記裁判官らは,運転差止期限(本年9月30日)到来のわずか5日前に本件不当決定を出した。わずか5日間で
は,再稼動のための核燃料の搬入などの作業が完了するはずもなく,10月1日に再稼動することはできない。そもそ
も10月1日からの再稼動が難しいことは,本年9月14日には既に報道されていた。つまり,この時期に運転を認める
決定を出しても,再稼動時期に影響はなく,意味がない。それにもかかわらず,あえてこの時期に運転を認める決定
を出すのは,9月30日の経過によって保全異議の利益が無くなり,四電の保全異議の申し立てが却下されるのを避け
て,急いでずさんな決定を出したのではないかと疑われる。これが真実であれば,3.11前の司法が犯した過ちと同じ
轍を踏んで,行政におもねり追従する姿勢を示すものであって許されない。
4 しかし,福島第一原発事故による悲惨な被害を忘れてはならない。福島第一原発事故から7年半以上経過しても,
避難者は少なくとも約5万8000人(本年8月31日時点・復興庁)にのぼり,同原発から30km以上離れた地域(飯舘
村長泥地区)であっても避難指示は継続している。事業も壊滅的な被害を受け,農業をみると,農地に除染廃棄物が
山積みにされ,長期間の不耕作による農地の荒廃などのため,再開が困難な状況にある。甲状腺がんの確定診断を受
けた子どもたちは増え続け,平成30年9月時点で計 164人にのぼる。原発重大事故の被害はこれにとどまらない。福
島原発事故当時に,時の原子力委員会委員長近藤駿介氏は最悪の場合,原発から 250km圏内は退去地域になる恐れ
があるとシミュレーションをした。伊方原発でいうと四国,中国,九州,関西の大半か壊滅する恐れがあるのであ
る。
5 私たちは,住居も,生活も,仕事も,生命・健康も深刻に永続的に侵害する原発事故が二度と起きなくなるまで,
特に広島の地で被ばく者を新たに生じさせることがなくなるまで,闘い続けることを宣言する。
以 上
広島高裁
伊方原発3号機、再稼働可能に 四電異議認める
運転差し止めを命じた12月の仮処分決定取り消し
四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町、停止中)の運転差し止めを命じた昨年12月の広島高裁仮処分決定(野々上友之裁判長=当時)を巡る異議審で、同高裁(三木昌之裁判長)は25日、四電が申し立てた異議を認め、仮処分決定を取り消した。決定が差し止めの理由とした阿蘇カルデラ(阿蘇山、熊本県)の破局的噴火について社会通念上、想定する必要がなく、立地は不適でないと判断した。異議審の決定を受け、四電は10月27日に3号機を再稼働させる方針。
高裁段階で初めて示された原発差し止め判断が約9カ月で覆り、3号機は法的に運転可能な状態となった。住民側は他の訴訟への影響などを考慮し、最高裁への特別抗告はしない方針。
三木裁判長は、差し止めの仮処分決定が重視した原子力規制委員会の手引書「火山影響評価ガイド」について「噴火の時期や程度が相当程度の正確さで予測できるとしていることを前提としており不合理」と批判。火山の噴火リスクについて「わが国の社会が自然災害に対する危険をどの程度まで容認するかという社会通念を基準として判断せざるを得ない」とした。
その上で、日本では1万年に1度程度とされる「破局的噴火」について、発生頻度は著しく小さく、国が具体的対策を策定しようという動きも認められない。国民の大多数はそのことを格別に問題にしていない」と指摘。「破局的噴火が伊方原発の運用期間中に発生する可能性が相応の根拠をもって示されているとは認められない」とした。
昨年12月13日の仮処分決定は、ガイドを厳格に運用し、原発から半径160キロ以内の範囲にある火山で噴火規模が想定できない場合は過去最大の噴火を想定すべきだと強調。約130キロ離れた阿蘇カルデラで約9万年前に起きた破局的噴火を根拠に、火砕流が到達する可能性がある伊方原発を「立地不適」と断じた。ただ広島地裁で別に審理中の差し止め訴訟で異なる判断がされる場合を考慮し、期限を今月末とした。
3号機は2015年7月、規制委が東日本大震災後に作成した新規制基準による安全審査に合格し、16年8月に再稼働。四電は定期検査を経て、今年2月に営業運転を再開する予定だったが、広島高裁が運転差し止めを命じ、停止状態が続いていた。
異議審の決定を受け、四電は3号機の再稼働工程を明らかにした。作業が順調に進めば10月30日に送電を始め、11月28日に定期検査を終えて営業運転に移りたい考え。
今回と同様のケースでは、福井地裁で15年、関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)の運転差し止め仮処分決定が異議審で覆っている。3号機の運転差し止めを求める仮処分は高松高裁、山口地裁岩国支部、大分地裁でも係争中。このうち大分地裁は28日に決定を出す。【小山美砂、植松晃一】
【ことば】伊方原発
九州へ延びる佐田岬半島(愛媛県伊方町)の瀬戸内海側に立地する四国電力唯一の原発。3号機(出力89万キロワット)は1994年に運転を開始し、2010年から国内2例目のウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料によるプルサーマル発電を始めた。1号機(運転開始77年)は16年5月、2号機(同82年)は今年5月に廃炉となった。
原発と火山 巨大噴火から逃げるな
火山の噴火、とりわけ1万年に1回程度という巨大噴火が原発にもたらす危険とどう向き合うのか。安全審査を担う原子力規制委員会を中心に検討を続けねばならない。
四国電力の伊方原発3号機(愛媛県)の運転再開を巡り、阿蘇山(熊本県)噴火のリスクに関して広島高裁の2人の裁判長が正反対の判断を示した。昨年末には運転差し止めを求める住民の申請が認められたが、四電からの異議を受けた今月の決定は運転にお墨付きを与えた。
原子力規制委には「火山影響評価ガイド」という審査の内規がある。原発から160キロ以内の火山を対象に、噴火に伴う危険性を評価する手順を定める。
伊方から130キロの阿蘇山について、広島高裁はガイドに沿って9万年前の破局的噴火を想定し、火砕流が及ぶ可能性を検討。今月の決定も昨年末と同様に「ガイドに従えば原発の立地は認められない」とした。
それにもかかわらず結論が分かれた根底には、「社会通念」への姿勢の違いがある。
原発以外では巨大噴火に備える規制や対策は特になく、国民の不安や疑問も目立たない。巨大噴火のリスクは受け入れるのが社会通念ではないか――。
昨年末の決定は、こうした考えに理解を示しつつ、福島第一原発事故後に発足した規制委の科学的・技術的な知見に基づくガイドを重視した。今月の決定は、噴火の予測が困難なことなどからガイドは不合理とし、社会通念から結論を導いた。
あいまいさを伴う社会通念を前面に出した司法判断には疑問が残る。放射能に汚染された地域への立ち入りが厳しく制限される原発事故の深刻さは、福島の事故が示す通りだ。原発を巡る「社会通念」とは何か、議論を尽くす必要がある。
まずは規制委である。
規制委は3月、事務局を通じて「巨大噴火によるリスクは社会通念上容認される」との考えを示した。今月の広島高裁の決定も触れた見解だが、「委員会の使命である科学的評価を放棄した」との批判が出ている。
その広島高裁決定が「火山ガイドは不合理」としたことについては、更田豊志委員長が会見でガイドにわかりにくさがあることを認め、修正に言及した。
表現の手直しにとどめず、自らの役割を含めて「原発と火山」を問い直さねばならない。
火山噴火が懸念される原発は伊方に限らず、九州電力の川内原発(鹿児島県)など各地にある。国民的な議論の先陣を切ることを規制委に期待する。
伊方原発異議審 常識的判断で稼働を認めた
常識を踏まえた判断である。ゼロリスクに固執した仮処分決定を覆したのは当然だろう。
広島高裁が、愛媛県の四国電力伊方原子力発電所3号機の運転再開を認めた。別の裁判長が昨年12月に命じた運転差し止めを保全異議審では一転、取り消した。
最大の争点は、火山噴火のリスク評価だった。伊方原発から約130キロにある熊本県の阿蘇山で、1万年に1回程度の破局的噴火が起きた場合、火砕流が海を渡って到達するかどうかが争われた。
到達の恐れがゼロではないとした差し止め命令を、異議審は「社会通念」を基に否定した。
九州など広い範囲を壊滅させる破局的噴火の発生頻度は著しく低い。このような事態を想定した規制や防災対策は、そもそも存在しない。異議審決定も、「国民の大多数は格別問題にしていない」と結論付けている。
原則40年とされる運転期間中に破局的噴火が起きる確率を考えれば、至極まっとうな判断だ。
九州電力の川内、玄海両原発を巡る仮処分でも、同様の考え方が示されている。司法判断として定着しつつあるのではないか。
留意すべきは、原子力規制委員会の「火山影響評価ガイド」を、異議審決定が「不合理」と指摘した点だ。噴火の時期や規模が予測できる前提で審査手順を定めていることを問題視している。
同じ見解は他の裁判所でも示されている。規制委は、火山リスクの議論を深めるべきだ。
伊方3号機を巡っては、他の裁判所にも複数の仮処分が申し立てられている。1件でも差し止めが命じられれば、即時に効力が生じて、運転できなくなる。
仮処分の審理では、差し迫った危険性などを迅速に見極めるために、限定的な証拠で判断する。証人尋問などを重ねる通常の訴訟とは、立証のレベルが異なる。
高度な科学的知見を必要とする原発の安全性判断に、本訴は別にして、仮処分の手続きは果たして馴染(なじ)むのだろうか。
福島第一原発事故の後、各地の原発の運転差し止めを求める仮処分が申し立てられ、請求を認める決定が複数、出されている。
原発の再稼働を阻む手段として、仮処分申請が乱用されている感は否めない。原発を基幹電源とする電力会社にとって、司法リスクの拡大は軽視できまい。
四国電力は、原発再開が電力の安定供給に資すると強調する。円滑な再稼働が求められる。
伊方原発の再稼働容認 リスクを直視していない
同じ広島高裁が、1年もたたないうちに正反対の結論を出した。
高裁はきのう、昨年12月に出した四国電力伊方原発3号機(愛媛県)に対する運転差し止めの仮処分決定を取り消した。四電の異議を認めたもので、四電は再稼働に向け準備を始めた。
伊方から約130キロの距離にあり、9万年前に超巨大噴火を起こした阿蘇山(熊本県)のリスク評価が焦点だった。火砕流が山口県にまで達し、世界最大級の陥没地形(カルデラ)を形成したことから、破局的噴火とも呼ばれる。
12月の決定は、原子力規制委員会の審査の手引書「火山影響評価ガイド」を厳格に適用し、「過去の破局的噴火で火砕流が到達した可能性が十分小さいとはいえない」として差し止めを命じていた。
これに対し異議審では、巨大噴火の予知が困難なことを前提に「自然災害の危険をどの程度まで容認するかという社会通念を基準に判断せざるを得ない」と指摘した。
国が破局的噴火のような災害に具体的対策を取っておらず、国民の大多数も格別に問題視していないとも言及して、破局的噴火が起きるリスクを火山ガイドの適用範囲から除外。立地に問題ないと判断した。
だが、司法には国民一般が問題視していないリスクに警鐘を鳴らす役割もあるはずだ。破局的噴火のような巨大なリスクをどう評価するかについては、今回の広島高裁同様、判断が分かれているのが実情だ。さらなる議論が必要だろう。
伊方原発は、大地震の恐れや地形条件などの点で、問題が多い場所に立地していると指摘されてきた。
施設の近くには国内最大級の断層「中央構造線断層帯」が走り、想定を超える揺れが襲う危険性がある。
また、細長い佐田岬半島の付け根付近に原発があり、半島に住む約4700人の避難経路が寸断されることが危ぶまれている。
決定はそうしたリスクを直視していないのではないか。
四電は伊方原発を主力に据え、再稼働できないと赤字が膨らむと主張する。しかし原発頼みの姿勢に固執すれば、万一の際の電力の安定供給にも不安を残しかねない。慎重に検討すべきだ。
原発の火山噴火対策は万全か
四国電力の伊方原子力発電所3号機(愛媛県)の運転差し止め申請をめぐり、広島高裁と大分地裁が相次いで再稼働を容認した。火山噴火への対策が争点となったが、高裁、地裁ともに「安全性に欠ける点はない」と判断した。ただ、他の原発を含め噴火への備えにはなおも懸念が残る。国や電力会社は対策を強めるべきだ。
伊方3号機は原子力規制委員会の審査に合格し、2016年8月に再稼働した。だが、広島高裁は昨年12月、住民らの求めに応じて運転差し止めを命じ、四国電が異議を申し立てていた。これとは別に大分地裁でも地元住民らが停止を求め、仮処分を申請していた。
争点になったのが、約130キロ離れた九州・阿蘇山が噴火したときの安全対策だ。広島高裁の前回決定では、大規模噴火が起きれば原発に火砕流が達する恐れがあるとし、差し止めの根拠とした。
同高裁は今回、原発の運転中に巨大噴火が起きるリスクは「著しく低い」と前回決定を覆し、大分地裁も同様の理由を挙げた。
大規模噴火が起きるのは1万年に1回程度とされ、原発に限らず防災対策全般で想定していない。「発生可能性や切迫性を示す相応の根拠がない限り、想定しなくてよい」とした今回の高裁や地裁の決定は、司法として一定の判断基準を示したもので、評価できる。
一方で、これで噴火対策が万全というわけではない。広島高裁は規制委が審査指針として定めた「火山影響評価ガイド」について「不合理」と指摘した。
同指針は火山噴火の時期や規模をある程度予測できることを前提にしているが、火山学者から異論が出ている。大規模噴火の前に核燃料をどう運び出すかなども対策が要る。規制委は指針を見直し、これらを詰めるべきだ。
遠くの火山で中小規模の噴火が起きても大量の火山灰が降り、非常用発電機などが機能しなくなる恐れがある。電力会社や規制委は最新の科学的知見を集め、安全対策を絶えず見直す必要がある。
伊方稼働の容認 合理的判断を定着させよ
広島高裁が、四国電力伊方原子力発電所3号機(愛媛県)の再稼働を認めた。昨年12月に同高裁の別の裁判長が下した運転差し止めの仮処分決定をめぐり、異議審で取り消したものだ。
阿蘇山が1万年に1度の破局的噴火を起こした場合、火砕流が海を渡って130キロ離れた伊方原発に到達する恐れが否定できない。これが運転差し止めを命じた理由だった。
あまりにも現実離れした判断である。現実なら、九州北部は壊滅している。これを覆したのは、社会通念に照らして極めて合理的な決定だった。
極端なゼロリスクの追求は、便利な生活を成立させない恐れがある。自動車や航空機なども一定のリスクを許容しつつ、安全策を講じて活用している。それが現代社会に生きる知恵である。
異議審の決定は「大規模な噴火の起きる可能性が根拠をもって示されておらず、原発に火砕流が到達する可能性は十分に小さい」と指摘した。破局的リスクに対しては国も具体的な対策を取っておらず、社会通念上許容されるとして運転差し止めを取り消した。
原子力規制委員会は原発の運転期間を原則40年、最長でも60年と定めている。こうした限定した期間に1万年に1回とされる破局的な噴火が発生する確率は極めて低い。九州電力の原発でも同様の司法判断が下っており、これを判例として定着させたい。
今回の決定に対しても、住民側は最高裁への不服申し立てを行わない意向だ。最高裁で判例が示されれば、各地の原発裁判に影響することから、原発を再稼働させないための法廷戦術なのだろう。だが、三審制を恣意(しい)的に活用し、あえて最高裁の判断を問わないのは不健全ではないか。
東京電力の福島第1原発事故以降、原発の災害リスクをめぐる訴訟が相次いでいる。規制委が定めた新規制基準に合格しても各地の裁判所が原発の安全性を個別に判断する動きには首をかしげる。
とくに仮処分は限られた時間と証拠で審理され、どこまで専門的な知見に基づいて判断されたか、疑問が大きい。
泊原発の長期停止中に北海道では全域停電が起きた。原発を使わないリスクについても厳しく認識し、安全性を確認した原発の再稼働は政府が主導すべきである。
伊方再稼働容認 高裁判断は疑問拭えぬ
未曽有の災害が引き起こす原発事故に対する国民の不安に正面から向き合ったとは言えまい。
四国電力伊方原発3号機(愛媛県)の運転を差し止めた広島高裁の仮処分決定を巡る異議審で、広島高裁はきのう、四国電力の異議を認めて仮処分を取り消した。
昨年12月の即時抗告審決定では、別の裁判長が九州の火山噴火による火砕流が原発敷地内に到達する可能性を指摘。四電のリスク想定は過小と判断し、今月末までの運転差し止めを命じていた。
異議審決定は、これを「大規模な噴火が起きる可能性の根拠が示されていない」として退けた。
同じ高裁が9カ月後にほぼ正反対の判断を下す。これでは、住民の不信はかえって膨らむばかりではないか。
最大の争点は、伊方原発から約130キロ離れた阿蘇カルデラ(熊本県)で約9万年前に起きた過去最大級の噴火が再び起きた場合のリスク評価である。
決定は「3号機の運用期間中に破局的な噴火が起きる可能性は低い。約9万年前の噴火でも火砕流は届いていない」との四電側の主張を全面的に認めた。
さらに、160キロ圏内にある火山の活動可能性を判断すると定めた原子力規制委員会の内規について、前提となる噴火時期や規模の正確な予測は困難として「不合理」とまで言い切った。
このため、立地の適合性は、災害の危険性をどの程度容認するかという社会通念を基準とし、多くの国民は大噴火を格別問題視していないと判断している。
噴火を正確に予測できなければ、社会通念を基準にするとの論法は乱暴と言わざるを得ない。
大規模な自然災害が常に想定を超える事態を引き起こしてきたことを忘れてはならない。
万が一の危険性を考慮し、「想定外」をなくしていくことが、東京電力福島第1原発事故の貴重な教訓である。
だからこそ、前回の決定は、過酷事故を二度と起こさぬよう、危険性が存在しないことを四電が立証できない場合、危険が推定されると判断したはずだ。
大噴火の確率は極めて低いとしても、発生すれば計り知れないダメージをもたらす。
こうしたリスクは社会通念として国民に受け入れられている―。今回の決定が、そうみなしているとすれば、違和感を拭えない。
国民の意識とは隔たりがあるのではないか。
伊方原発再稼働を容認/社会通念が根拠では曖昧だ
一方は、何万年かに一度であってもリスクがある以上、被害を前提に対策を考えるべきだとした。もう一方は、1万年に1回程度とされるリスクに対策を求めるのは、相当の根拠が要るとする。
四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)について、広島高裁はきのう、運転差し止めを命じた昨年12月の同高裁の仮処分決定を取り消し、再稼働を容認する決定をした。運転差し止めを不服として四国電が申し立てた異議を認めた。
裁判長が違うとはいえ、同じ高裁が正反対の決定を出したことは、原発の再稼働を巡り、司法判断が揺れる現状を浮き彫りにした。背景には住民が原発に求める安全性と、再稼働を前提にした国や電力会社のリスク基準との乖離(かいり)があるように思える。
一連の裁判では、伊方原発から約130キロ離れた阿蘇カルデラ(熊本県)が巨大噴火を起こす可能性をどう評価するかが焦点だった。
東京電力福島第1原発事故後の新規制基準では、原発から160キロ以内の火山を対象に、火山活動の可能性や噴火の規模、火砕流が到達する可能性など3段構えで影響を評価しなければならない。
運転を差し止めた昨年12月の決定は、新規制基準に沿って阿蘇の活動可能性などを判断。その上で9万年前に起きた過去最大規模の噴火を想定し、火砕流到達の危険性に触れて「原発の立地は認められない」と、今月末までの運転を禁じていた。
さらに、伊方3号機を再稼働審査に合格させた原子力規制委員会の判断は誤りだと切り捨てた。
これに対し今回の異議審決定は、阿蘇の火山リスクについて「大規模な破局的噴火が起きる可能性が根拠を持って示されていない」と指摘。大噴火の危険は「社会通念」を根拠に「想定しなくても安全性に欠けることはない」と結論付け、原発に火砕流が到達する恐れは小さいとして再稼働を認めた。
また、大噴火については「国は対策を策定していないが、国民の大多数はそのことを問題としていない」としている。住民感情とは隔たりが大きいように映る。
現在の火山学の知見には限界がある。今回の決定も火山噴火の時期や程度は予知できず、社会通念を基準に判断せざるを得なかった。科学的な根拠を欠いており、基準が曖昧と言わざるを得ない。
原発はひとたび重大な事故が起きれば、甚大な影響を住民に及ぼす。福島第1原発事故により、福島では今なお約4万4千人が県内外で避難したままだ。廃炉作業や汚染水など事故後の課題は山積している。
福島の事故の教訓は、想定外の災害もあり得るということだった。考え得る限り、最大の災害に備えるという視点を忘れてはなるまい。
伊方運転容認 “常識”は覆されたのに
四国電力伊方原発の運転差し止め決定が、同じ広島高裁に覆された。しかし例えば、どの原発の直下でも巨大地震は起こり得るという北海道地震の新たな教訓は、十分に考慮されたと言えるのか。
「(阿蘇山の)火砕流が原発敷地内に到達する可能性が十分小さいと評価することはできない」-。
原子力規制委員会の「火山ガイド」を引きながら、同じ広島高裁は昨年十二月、伊方原発3号機の運転を差し止めた。
阿蘇山から伊方原発までは約百三十キロ。大噴火による火砕流や火山灰が原発に及ぼす影響を否定できないとの判断だった。
福島第一原発事故後、高裁レベルとしては初の運転差し止め決定は、いともあっさり覆された。
今回、広島高裁は「大規模な破局的噴火が起きる可能性が根拠を持って示されておらず、原発に火砕流が到達する可能性は小さい」と指摘した。昨年末とは真反対。「運転期間中に破局的噴火を起こすという可能性は極めて低い」と強調する四国電力側の主張をそのまま受け入れた形である。
争点は火山だけではない。原発が耐え得る地震の強さについても、住民側は「過小評価」だとして争った。この点に関しても「詳細な調査で揺れの特性などを十分把握した」とする四国電力側の評価が判断の基本にあるようだ。
だがたとえそうだとしても、それらは過去の知見になった。北海道地震が、地震そのものの“常識”をご破算にしたのである。
これまで、地震に対する原発の安全性は、重要施設の直下に活断層があるか否かが、基準にされた。ところが活断層のあるなしにかかわらず、原発の直下でも震度7の大地震が起こり得るということを、北海道地震は知らしめた。
活断層の存在は一般に地表に現れる。だが、北海道地震の震源は、今の科学では見つけようのない地中に埋もれた断層だった。
北海道で起こったことは、日本中どこでも起こりうる。地震に対する原発の規制レベルも大幅に引き上げるべきだということだ。
地震国日本は、世界有数の火山国。巨大噴火は予知できないというのは、それこそ学会の常識だが、大噴火のリスクに対する考え方も、そろそろ改めるべきではないか。
“活断層なき大地震”の教訓が十分に反映されていない以上、古い地震科学や社会通念に基づいて原発の再稼働を認めることは、あまりに危険と言うしかない。
伊方原発再稼働 「社会通念」基に容認とは
「想定外」の事態が起きた場合にどう備えるかという想像力を欠いていないか。リスク認識の甘さを感じざるを得ない司法の判断である。
愛媛県伊方町にある四国電力伊方原発3号機の再稼働の是非に関わる高裁と地裁の判断が相次いで示され、ともに再稼働を認める形となった。
3号機の運転を差し止めた昨年12月の広島高裁の仮処分決定を不服とした四国電力の申し立てによる異議審で、同じ広島高裁が25日、異議を認め、再稼働を容認する決定を下した。
28日には大分地裁が、原発対岸の大分県の住民が3号機の運転差し止めを求めた仮処分申し立てに対し、差し止めを認めない決定を出した。
昨年末の高裁決定は、熊本県の阿蘇カルデラで大規模な破局的噴火が起きた際に火砕流が原発敷地内に到達する可能性を指摘し、高裁段階で初めて原発の運転差し止めを命じた。
今回の高裁判断はそれを覆した。三木昌之裁判長は「大規模な破局的噴火が起きる可能性が根拠をもって示されておらず、原発に火砕流が到達する可能性は小さい」と指摘した。
昨年の高裁決定が差し止めの根拠とした原子力規制委員会策定の「火山影響評価ガイド」の立地評価については、「相当な正確さで噴火の時期と規模を予測できることを前提にしており不合理」とした。
裁判長が異なるとはいえ、同じ高裁でこれほど判断が分かれた。今回の高裁決定を受け四国電力は10月下旬に再稼働させる方針を表明したが、納得できない人は少なくあるまい。
引っかかるのは、三木裁判長が原発立地の適合性に関し「自然災害の危険をどの程度容認するかという社会通念を基準とせざるを得ない」との考え方を示したことだ。
三木裁判長はさらに、国が破局的噴火の具体策を定めておらず、国民の多くも問題にしていないことを踏まえ、「伊方原発の安全性は欠けていないというのが社会通念」とした。
「社会通念」とは、極めて曖昧だ。原発の再稼働に結び付く安全性の判断根拠をそこに求めることが、果たして妥当なのかどうか。
東京電力福島第1原発事故まで国内の原発は安全という見方が「社会通念」であり、それが原発の「安全神話」の根っこにあったのではないか。
裁判所が「社会通念」を持ち出して原発の安全性について判断を下すことには、独善的な印象も受ける。
大分地裁が下した決定も破局的噴火が生じる相応の根拠はないとし、原発立地の適否を考慮する上で「社会通念上、無視できる危険」と結論づけた。
福島第1原発事故が残した教訓は、多くの住民の日常を奪う過酷事故を二度と起こさないためには、どんな「想定外」も許されないということだ。
原発再稼働の流れが加速する中で、それが忘れ去られていないか。強い危機感を覚える。
伊方原発 安全と言い切れるのか
四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)について、広島高裁が再稼働を認める決定を出した。
昨年12月に同高裁が出した運転を差し止める仮処分決定の異議審である。法的な拘束力はなくなり、3号機は運転可能な状態となった。
決定は前回と正反対の判断をしている。
前回は約130キロ離れた熊本県・阿蘇カルデラで大規模な「破局的噴火」が起きた場合、火砕流が原発敷地内に到達する可能性を指摘して、四国電のリスク想定は過少と判断した。
今回は「破局的噴火」が起きる可能性が根拠を持って示されていないと判断し、火砕流到達の可能性は小さいとしている。
想定されるリスクをどう判断するのか。その基準は各司法で揺れている。万が一を想定して危険性を考えるのか。可能な範囲でリスクを排除できれば再稼働を容認するのか。その違いである。
火山の危険性を予測することは難しい。自然災害は火山に限らない。今回の決定で安全性が担保されたとはいえないだろう。
問題点はまだ多い。その一つが避難計画である。
伊方原発は日本一細長いとされる佐田岬半島の付け根にある。長さ約37キロで最も狭い場所で幅は約800メートルしかない。重大な事故が起きれば、原発より先端側に住む約5千人が孤立しかねない。
避難計画では原発の横を通り陸路で内陸部に移動するか、半島先端の港からフェリーなどで対岸の大分県に避難する。
住民は山あいを抜ける片側1車線の国道を利用することになっている。地震などの複合災害の場合、土砂崩れなどで通行できない可能性もある。津波被害があれば港が使用できるかも分からない。
愛媛県は今年5月、住民避難のための道路整備を内閣府に要望している。避難計画が十分ではないことは明らかだ。
屋内の避難先として原発から主に10キロ圏内に整備されている放射線防護施設も、複合災害が発生すれば安全とはいえない。10施設のうち9施設が、土砂災害警戒区域や浸水想定区域などの危険な場所にあるからだ。
四国電力は今回の決定を受け、10月27日に再稼働させるという。避難計画が不十分なまま原発を再稼働させるのは問題が多い。
伊方原発を巡っては、同様の仮処分が高松高裁、山口地裁岩国支部、大分地裁で係争中だ。今後の司法判断を注視したい。
伊方運転容認 “常識”は覆されたのに
四国電力伊方原発の運転差し止め決定が、同じ広島高裁に覆された。しかし例えば、どの原発の直下でも巨大地震は起こり得るという北海道地震の新たな教訓は、十分に考慮されたと言えるのか。
「(阿蘇山の)火砕流が原発敷地内に到達する可能性が十分小さいと評価することはできない」-。
原子力規制委員会の「火山ガイド」を引きながら、同じ広島高裁は昨年十二月、伊方原発3号機の運転を差し止めた。
阿蘇山から伊方原発までは約百三十キロ。大噴火による火砕流や火山灰が原発に及ぼす影響を否定できないとの判断だった。
福島第一原発事故後、高裁レベルとしては初の運転差し止め決定は、いともあっさり覆された。
今回、広島高裁は「大規模な破局的噴火が起きる可能性が根拠を持って示されておらず、原発に火砕流が到達する可能性は小さい」と指摘した。昨年末とは真反対。「運転期間中に破局的噴火を起こすという可能性は極めて低い」と強調する四国電力側の主張をそのまま受け入れた形である。
争点は火山だけではない。原発が耐え得る地震の強さについても、住民側は「過小評価」だとして争った。この点に関しても「詳細な調査で揺れの特性などを十分把握した」とする四国電力側の評価が判断の基本にあるようだ。
だがたとえそうだとしても、それらは過去の知見になった。北海道地震が、地震そのものの“常識”をご破算にしたのである。
これまで、地震に対する原発の安全性は、重要施設の直下に活断層があるか否かが、基準にされた。ところが活断層のあるなしにかかわらず、原発の直下でも震度7の大地震が起こり得るということを、北海道地震は知らしめた。
活断層の存在は一般に地表に現れる。だが、北海道地震の震源は、今の科学では見つけようのない地中に埋もれた断層だった。
北海道で起こったことは、日本中どこでも起こりうる。地震に対する原発の規制レベルも大幅に引き上げるべきだということだ。
地震国日本は、世界有数の火山国。巨大噴火は予知できないというのは、それこそ学会の常識だが、大噴火のリスクに対する考え方も、そろそろ改めるべきではないか。
“活断層なき大地震”の教訓が十分に反映されていない以上、古い地震科学や社会通念に基づいて原発の再稼働を認めることは、あまりに危険と言うしかない。
伊方原発決定 不安に向き合ったのか
火山噴火が原発事故を引き起こすことはめったにないから、再稼働は容認できる-。広島高裁が四国電力伊方原発3号機(愛媛県)について出した決定である。
住民の不安に向き合ったものとは言い難い。拙速な再稼働は禍根を残さないか。
昨年12月に同じ広島高裁が同原発の運転を差し止める仮処分決定を出したが、四国電力が異議申し立てを行い、同高裁は異議を認めた。四国電はただちに再稼働手続きに入る見通しだ。
広島や長崎の被爆者らが2016年3月に運転差し止めを求めて広島地裁に提訴と仮処分の申し立てを行った。同地裁は17年3月に差し止めを認めない決定を出したため、住民側は広島高裁に即時抗告を行い、同年12月に運転差し止め決定が出ていた。
昨年12月の即時抗告審決定は、同原発から約130キロ離れた熊本県の阿蘇カルデラで大規模噴火が起きれば、火砕流が原発敷地内に到達する可能性があるとして、四国電の火山リスクの想定は過小と判断していた。
一方、今回は「大規模な破局的噴火が起きる可能性の根拠が示されていない」などとして正反対の結論を出した。
「運転期間中に大規模噴火が起きる可能性は低い」と主張した四国電の主張を全面的に認めた形だ。その理由は次のような内容だ。
国が原発に重大な損害をもたらす火山噴火に対して具体的な対策を決めていない上、国民の多くもそれを問題にしていない。だから社会通念上、伊方原発の安全性は欠けていない-。
国が想定していないから安全という考えだ。社会通念や想定を超えた福島第1原発事故の反省を踏まえているとは思えない。
たしかに、火山噴火による原発事故の確率は高くはないだろう。だが原発事故は一度起きれば長期間、深刻な事態をもたらす。原発事故を、台風や洪水などの一般的な災害と同様に扱うことが適切だろうか。
最新の地球科学の知見では、火山噴火や地震の予知は不可能なことが明らかになっている。今月6日の北海道地震でもそれは明らかになった。
福島の事故以来、大津地裁などで原発の運転を禁じる司法判断が相次いだが、いずれも高裁段階で覆った。上級審には原発再稼働を進める国の意向が強く影響しているのではないか。司法が行政を追認するばかりでは困る。主体性を発揮して判断してほしい。
伊方再稼働へ/首をかしげる高裁の決定
運転を停止している愛媛県の四国電力伊方原発3号機について、広島高裁はきのう、再稼働を容認する判断を示した。
同じ広島高裁が昨年12月、住民の訴えを認めて運転を禁じる仮処分決定を出したが、四国電の異議を認めてこれを取り消した。差し止めの法的拘束力がなくなり、四国電は再稼働の手続きに入るとみられる。
同じ裁判所でも見解や結論が異なることはあり得る。ただ、今回はあくまでも仮処分の決定だ。広島地裁では運転差し止めを求める本裁判の審理が続いており、決定を高裁が覆せば、進行中の裁判に影響を及ぼす可能性は否定できない。
地裁の判決を待たず再稼働に道を開いた高裁の判断には、首をかしげるしかない。
伊方原発は佐田岬半島の付け根にある。近くに中央構造線断層帯が走り、南海トラフ大地震の影響が危惧される。
最も懸念されるのは、大事故の際の住民の避難である。半島から脱出する道路が寸断されるため、多くの住民が取り残される恐れがある。
国や愛媛県も避難計画に課題があることを認めている。県は今年5月、狭い道路で車両がすれ違えるようにする道路事業の補助拡充などを国に求めたが、抜本的な対策には程遠い。
そうした中、広島高裁は昨年12月の決定で、対岸の九州にある阿蘇カルデラの大規模噴火が及ぼす危険性を指摘した。その上で、再稼働審査で「合格」とした原子力規制委員会の判断を「不合理」と断じた。
今回の決定はこれと正反対の内容だ。「大規模な破局的噴火が起きる可能性が根拠をもって示されておらず、原発に火砕流が到達する可能性は小さい」と述べ、四国電側の主張を全面的に認めた。
原発事故への不安は地元にとどまらない。伊方3号機についても、複数の裁判所で差し止めを巡る仮処分が争われ、28日には大分地裁が判断を示す。きのうの決定は、不安の広がりと向き合ったとは言い難い。
福島第1原発事故をはじめ、大災害は想定を超えた被害をもたらしてきた。司法はその教訓を重く受け止め、安全性最優先の判断をしてもらいたい。
伊方原発の再稼働容認 火山リスクの軽視では
原発の運転差し止めを巡る司法判断で、正反対の決定が下された。判断の根拠がまちまちだと、原発に対する国民の不安を募らせるだけではないか。
広島高裁がきのう、昨年12月に同高裁が命じた四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の運転差し止めの仮処分決定について、不服とする四国電力の異議を認める決定を下した。事実上、再稼働を容認した。
差し止めの根拠とされた火山の噴火リスクをどう判断するか、どんな基準で運転の可否を判断すべきかが争点になった。
運転差し止めを認めた昨年12月の決定は、大規模噴火に対する四国電力の想定が甘く、原子力規制委員会の審査も不十分だと断じた。約130キロ離れた熊本県の阿蘇カルデラで破局的な噴火が起きた場合、火砕流が原発に到達する恐れがあり、立地自体を「不適」とした。
周辺の住民たちが抱く、万が一の懸念を踏まえての判断だったのだろう。
ところが今回の決定は、阿蘇カルデラのリスクについて「大規模な破局的な噴火が起きる可能性が相応の根拠を持って示されておらず、原発に火砕流が到達する可能性は小さい」とし、昨年12月の決定を真っ向から否定した。
国が破局的な噴火の具体的な対策を定めておらず、国民の多くも問題にしていないと指摘し、「伊方原発の安全性は欠けていないというのが社会通念だ」との判断を示した。「噴火による具体的な危険性はない」とする四国電力の主張を全面的に追認した形である。
国に対策がないからといって、火山噴火のリスクを国民が受け入れているとするのは本末転倒である。科学的な「相応の根拠」も示さず「社会通念」で片付けてしまうのは、あまりにも原発のリスクを軽視しているのではないか。地元はもとより海を隔てた広島、山口、大分県などの住民の不安は置き去りにされはしないだろうか。
破局的な巨大噴火の発生は1万年に1回とされる。発生すれば、広範囲に甚大な被害をもたらすのは確実で、原発の危険性だけを問題視することに意味はないとの指摘もあろう。
ただ発生頻度が少ないからといって、対策を怠っていれば、甚大な被害を受けかねない。東京電力福島第1原発の事故から得た教訓を肝に銘じなければならない。わずかなリスクにも、しっかりと安全対策を講じるのは当然のことである。
今回の決定を受け、四国電力は10月中にも再稼働させる方針を明らかにした。だが、運転差し止めを求める仮処分は高松高裁や山口地裁岩国支部、大分地裁でも係争中である。いずれかの裁判で差し止めが命じられれば、再稼働はできなくなる。
伊方原発は「日本一細長い」とされる佐田岬半島の付け根にある。沖合には国内最大級の中央構造線断層帯が走り、南海トラフ巨大地震の想定震源域にも入っている。
伊方再稼働認める 安全性の追求どこまで
安全に絶対はない。だとすれば、許されるリスクはどこまでか。原発の是非を巡って国論が二分される中、社会全体の問題として、改めて考えたい。
四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の運転差し止めを命じた昨年12月の仮処分決定について、広島高裁は四電の異議を認め、決定を取り消した。住民側は不服申し立てを行わない方針で、原発の再稼働が確定する。
東京電力福島第1原発事故後、高裁段階で初めて原発の運転を禁じた仮処分決定は約9カ月で覆ったことになる。四電は10月27日に3号機を稼働させる。
昨年12月の決定は、約130キロ離れた熊本県・阿蘇カルデラで、大規模な「破局的噴火」が起きた際、火砕流が原発に到達する可能性を指摘していた。今回の決定は、そうした大規模噴火が起きる可能性が根拠をもって示されておらず、火砕流が到達する恐れも小さいとし、再稼働を容認した。
ここで問題になっている「破局的噴火」の頻度は、日本の火山全体で1万年に1回程度とされる。阿蘇では約9万年前に起きている。
同じ規模の噴火が発生すれば、周辺100キロは火砕流で壊滅、死者は1千万人を超えるとの研究もある。列島は火山灰で厚く覆われ、国家存亡の危機といえる災害となる。原発の安全性を問うには、いささか疑問の余地がないではない。
発生頻度が著しく小さく、破局的な被害をもたらす災害のリスクは、社会通念上、無視し得るのではないか。12月の決定もそう指摘しつつ、原子力規制委員会が立地審査で用いる火山ガイドを厳格に適用して、運転の差し止めを命じた。
それを受け、規制委はガイドの解説文書を公表し、巨大噴火については、原子力分野以外の法規制や防災対策も考慮していないことを挙げ、危険性は常識的に無視できるとしている。
たとえ「常識的」であっても、そのまま当てはまらないのが原発だ。確実な万年単位の課題がある。高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の問題である。
地下深くに埋めて数万年先まで隔離する方針だが、処分場の候補地選定の手続きは進んでいない。原発は「トイレのないマンション」といわれるゆえんだ。
動かせば出るごみの処理に数万年かかるのであれば、稼働の是非も同じスケールで考えるべきだろう。目先の経済的な理由から、いわんや電力会社の経営改善のために再稼働を急ぐといったことがあってはならない。
伊方原発1、2号機は既に廃炉が決まっている。3号機に対する同様の仮処分は、高松高裁や山口地裁岩国支部、大分地裁でも係争中。四電は住民の根強い不安と、これからも真摯に向き合っていくべきだ。
【伊方高裁判断】危険を矮小化してないか
四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の運転を差し止めた広島高裁が一転、再稼働を認めた。
熊本県・阿蘇カルデラの巨大噴火の可能性をどう評価するかが焦点だったが、「破局的噴火が起きる可能性が根拠をもって示されておらず、原発に火砕流が到達する可能性は小さい」と結論付けた。
昨年12月の仮処分決定を不服として四電側が異議を申し立てていた。四電側の主張が全面的に認められたといってよいだろう。
仮処分はもともと今月30日までの期限付きで、たとえ異議が却下されたとしても、法的には10月から運転が可能だった。それでも判断が覆った影響は大きい。
昨年の決定は東京電力福島第1原発事故後、高裁段階で初めて原発の運転を禁じた司法判断だった。約130キロ離れた阿蘇で大規模な「破局的噴火」が起き、火砕流が伊方原発に達する危険性を指摘。四電の火山リスクなどの想定は過小と判断した。
原子力規制委員会の新規制基準審査では、火山のリスクは「火山影響評価ガイド」に基づき判断する。広島高裁はその規制委の判断も誤りと断じていた。それが一転した。
ガイドは、原発の半径160キロ圏内にある火山の活動可能性や施設への影響を評価するよう求めている。数十年のうちに、火砕流などを伴う巨大噴火が起きる恐れが「十分小さい」と評価できなければ、立地場所として「不適」になる。
だが、現在の科学力で、このガイドがどこまで安全を担保できるかは議論が多い。2016年に九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県)の運転差し止めの仮処分申請を却下した福岡高裁宮崎支部も、ガイドは安全確保の基準として「不合理」と指摘していた。
こうした影響だろう。規制委は今春、ガイドの考え方を表明した。
巨大噴火の可能性は「具体的にあるか、差し迫った状況にあるか」で判断するとした。巨大噴火を想定した法規制や防災対策は原子力分野以外にもなく、リスクは「社会通念上容認される」とも強調した。
リスクの解釈を狭めたといってよい。今回の広島高裁決定も、大噴火のリスクに相当の根拠を求める従来の判断に戻った印象だ。
広島高裁は同時にガイドの不合理性も指摘した。ガイドの位置付けは引き続き問われそうだ。
火山列島である日本では、噴火の危険性は常にある。地震も同様だ。しかも、過去の研究や今後の予測は知見が十分とは言い難い。
巨大噴火が起きるという根拠は確かに不十分だが、起きない根拠もまた乏しいと言わざるを得ない。リスクを矮小(わいしょう)化していないか。国民の大きな疑問や不安はそこにある。
伊方3号機を巡っては28日に、大分地裁が運転差し止めの仮処分の判断を示すが、四電は来月下旬にも再稼働させる準備を進めている。問題点を曖昧にしたままの再稼働は許されない。
[伊方再稼働容認] 火山リスクの評価に差
四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の運転を差し止めた広島高裁の仮処分決定を不服とした四国電の申し立てによる異議審で、同高裁は異議を認め、再稼働を容認する決定を出した。
決定を受け、四国電は近く再稼働の手続きに入る見通しだ。
異議審は、約130キロ離れた熊本県・阿蘇カルデラが及ぼすリスクについて「大規模な破局的噴火が起きる可能性が根拠をもって示されておらず、原発に火砕流が到達する可能性は小さい」とした。
昨年12月の仮処分決定では、阿蘇カルデラで大規模噴火が起きた際、火砕流が原発敷地内に到達する可能性があると指摘。四国電の火山リスクの想定は過小と判断していた。
同じ高裁で、正反対の判断が出たことに戸惑う住民は多いのではないか。
四国電は改めて火山リスクについて住民に説明し、理解を求める姿勢が欠かせない。
運転差し止めを命じた仮処分決定は東京電力福島第1原発事故後、高裁段階で初の判断だった。火山と原発の立地を巡る議論に一石を投じたといえる。
四国電は異議審で「大規模噴火が運転期間中に起きる可能性は低い」と主張。地盤調査を踏まえた地震対策も実施し、3号機の安全性に問題はないとしている。
伊方3号機を巡る同様の仮処分は、高松高裁や山口地裁岩国支部、大分地裁でも係争中で、どんな決定が出るか注目される。
伊方原発周辺では南海トラフ巨大地震や、長大な活断層「中央構造線断層帯」を不安視する声がある。さらに、原発は細長い半島の付け根に位置し、事故時に半島の先端側の住民が安全に避難できるか懸念される。
関係自治体は再稼働を前に、避難計画の実効性を繰り返し検証する必要があろう。
福島の事故以降、全国各地の住民らによる原発の運転や建設の差し止めを求める訴訟の多くは、地震や火山などの災害リスクが争点となっている。
地裁段階で運転差し止めを認めても、高裁が覆し運転を容認するケースも相次いでいる。
火山噴火は、桜島を抱える九州電力川内原発の近隣住民も抱く懸念材料だ。全国で起きる地震や火山活動を見ると、住民が原発に不安を抱くのは当然といえよう。
電力会社や関係自治体は、こうした住民に最大限の配慮をしてほしい。司法の場で再稼働が容認されたとはいえ、自然現象には人間の英知が及ばないことを忘れてはならない。
伊方原発再稼働 「社会通念」は曖昧な基準だ
四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の運転を差し止めた昨年12月の広島高裁の仮処分決定を不服とした四国電の申し立てによる異議審で、同高裁は9月25日、異議を認め再稼働を容認する決定を出した。
広島高裁決定の3日後の28日には、対岸の大分県の住民が同機の運転差し止めを求めた仮処分申し立てに対し、大分地裁が差し止めを認めず却下する決定をした。二つの決定とも、四国電側の見解を全面的に採用し住民側の主張をことごとく退けた。同社は今月下旬に同機を再稼働する方針だ。
火山リスクが焦点
焦点は原発に対する阿蘇カルデラの火山リスクだった。昨年の広島高裁決定は、約130キロ離れた阿蘇で大規模な「破局的噴火」が起きた際、火砕流が原発敷地に到達する可能性を指摘。四国電の火山リスクの想定は過小と判断した。破局的噴火のリスクも考慮するよう求め、原発再稼働を進める国や電力会社に衝撃を与えた。
今回の二つの決定は、1万年に1回程度とされる大噴火のリスクについて「破局的噴火に相応の根拠がなく、社会通念上無視できる」と指摘、従来の国の方針に沿う判断となった。脱原発派には大きな痛手となろう。
正確に予測できず
一方で、先月の広島高裁決定は、原子力規制委員会が安全性を審査するため策定した「火山影響評価ガイド」について、「相当な正確さで噴火の時期と規模を予測できることを前提にしており不合理だ」と指摘している。現在の火山学の知見では、噴火の規模や時期を正確に予測できないことを認めたもので、「想定外」の災害が起きる可能性はゼロではない。
その上で、立地の適合性は「自然災害の危険をどの程度容認するかという社会通念を基準とせざるを得ない」との判断枠組みを示した。しかし、国が破局的噴火の具体的対策を定めておらず、国民の多くも問題にしていないとして、危険性の判断を「社会通念」という観点に委ねるのは、基準が曖昧と言わざるを得ない。自然災害に対する現状の「社会通念」をこのまま容認していくか、改めて議論が必要だ。
伊方原発3号機に対する同様の仮処分は、高松高裁や山口地裁岩国支部でも係争中だ。火山のリスク以外にも、伊方原発は長大な活断層「中央構造線断層帯」に近く、南海トラフ巨大地震の震源域に入るため耐震性も争点になっている。
さらに、同原発は「日本一細長い」とされる佐田岬半島の付け根にあり、重大事故時、半島の先端側に住む住民が孤立する恐れがある。避難するには原発の近くを通り内陸に向かうか、船で対岸の大分県に行くしかない。危険が予想される原発に近づくことは考えられず、海路は天候次第の面があるなど避難計画の実効性も問題だ。
東京電力福島第1原発事故以降、全国各地の住民らによる原発の運転や建設の差し止めを求めた訴訟は、多くが地震や火山などの災害リスクが争点となっている。差し止めを命じたケースが過去5回あったが、電力会社側の異議申し立てを受け後の司法判断でことごとく覆された。住民側は同種裁判への影響を懸念して、最高裁まで争わずに終結している。
「免罪符」とせずに
今回も、火山噴火のリスクに警鐘を鳴らし、高裁段階で初めて原発の運転を禁じた司法判断が9カ月で覆った。裁判長が違うとはいえ、あまり時間を置かず同じ高裁で正反対の結論が出た。しかし、司法判断のハードルが下がったとは言えまい。
電力会社や国は今回の決定を「免罪符」とせず、あらゆる危険を想定し、さらに対策を尽くしていかなければならない。