top of page

Historical Archives

#074 3カ国平和憲法(戦争放棄、軍隊不保持)について

(2017.11.11)

 今年のノーベル平和賞に、核兵器の廃絶運動に尽力した核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)に授与することが発表された。吉報であるが、日本政府の冷淡な反応が非常に気になる。

 他方、ここ数年、「憲法九条を保持する日本国民」が候補に挙がってきた経緯があるので、戦争放棄や軍隊不保持を内容とする「平和憲法」について考えてみたい。

 

 

 広い意味での平和憲法には次のような類型があるという。

(「世界の現行憲法と平和主義条項」駒澤大学・西修ゼミナール・ホームページ

 https://s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/jnpc-prd-public/files/opdf/218.pdf)

 ① 平和政策の推進(平和を国家目標に設定している国などを含む)

   アルバニア、エジプト、 ギリシャなど。

 ② 国際協和(国連憲章、世界人権宣言などの遵守を含む)

   アルゼンチン、ハンガリー、ポル トガル、ルーマニアなど。

 ③ 内政不干渉

   ブラジル、中国、エチオピア、パラグアイなど。
 ④ 非同盟政策

   アンゴラ、イラン、モザンビーク、ナミビアなど。
 ⑤ (永世)中立

   オーストリア、カザフスタン、マルタ、モルドバ、スイスなど。
 ⑥ 軍縮

   バングラディシュ、カーボベルデ、モザンビークなど。

 ⑦ (平和的)国際組織への参加ないし国家権力の一部委譲

   デンマーク、フランス、ドイツ、 スウェーデンなど。
 ⑧ 国際紛争の平和的解決

   アルジェリア、エクアドル、ニカラグア、パキスタンなど。

 ⑨ 侵略戦争の否認

   フランス、ドイツ、韓国、バーレーンなど。
 ⑩ テロ行為の排除

   ブラジル、チリ、アフガニスタン、東チモール、スーダンなど。

 ⑪ 国際紛争を解決する手段としての戦争放棄

   アゼルバイジャン、エクアドル、ハンガリー、 イタリア、日本。
 ⑫ 国家政策を遂行する手段としての戦争放棄

   フィリピン。

 ⑬ 外国軍隊の通過禁止・外国軍事基地の非設置

   ベルギー、リトアニア、モンゴル、フィリピンなど。
 ⑭ 核兵器(生物兵器、化学兵器も含む)の禁止・排除

   ベラルーシ、カンボジア、コロンビア、 パラオなど。
 ⑮ (自衛以外の)軍隊の不保持

   コスタリカ、パナマ。

 ⑯ 軍隊の行動に対する規制(シビリアンコントロールを含む)

   パプア・ニューギニア、フィリピン、南アフリカ、エチオピアなど。
 ⑰ 戦争の宣伝(煽動)行為の禁止

   クロアチア、リトアニア、タジキスタン、トルクメニスタンなど。

 

(*1項目でも規定のある成典化憲法国 150か国(182か国(2006年当時)中 ))

 

 このように、戦争放棄条項等があることは、いまや珍しくない。1928年の不戦条約や、1945年の国連憲章の武力不行使原則があるのだから、むしろ世界の趨勢といってよい。
 ただし、日本国憲法は戦争放棄(第9条1項)だけではなく、戦力不保持と交戦権否認(第9条第2項)を規定している点で諸国とは大きく異なる。

 

 ◉ 不戦条約(戦争ノ抛棄ニ関スル条約、パリ条約、ブリアン=ケロッグ規約1928年)

 第1条
  締約国は、国際紛争解決のため、戦争に訴えないこととし、かつ、その相互関係において、国家の政策の手段としての戦争を放棄

 することを、その各自の人民の名において厳粛に宣言する。

 第2条
  締約国は、相互間に起こる一切の紛争又は紛議は、その性質又は起因のがどのようなものであっても、平和的手段以外にその処理

 又は解決を求めないことを約束する。

 第3条
  1 本条約は、前文に掲げられた締約国により、各自の憲法上の用件に従って批准され、かつ、各国の批准書が全てワシントンお

 いてに寄託せられた後、直ちに締約国間に実施される。
  2 本条約は、前項の定めにより実施されるときは、世界の他の一切の国の加入のため、必要な間開き置かれる。一国の加入を証

 明する各文書はワシントンに寄託され、本条約は、右の寄託の時より直ちに当該加入国と本条約の他の当事国との間に実施される。
  3 アメリカ合衆国政府は、前文に掲げられた各国政府、及び実施後本条約に加入する各国政府に対し、本条約及び一切の批准書

 又は加入書の認証謄本を交付する義務を有する。アメリカ合衆国政府は、各批准書又は加入書が同国政府に寄託されたときは、直ち

 に右の諸国政府に電報によって通告する義務を有する。

 

 ◉ 国連憲章(1945年)

 第2条

  4 すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対す

 るものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。

 

 

 それでは戦力(軍隊)不保持はどうか。

 

 スイスのNGO「APRED(脱軍備・非武装化を求める協会)」コーディネーターのChristophe Barbey(クリストフ・バルビー/弁護士)によると、島国や小国など世界で軍隊を持たない国は27か国に及ぶという。

 (http://mdsweb.jp/doc/902/0902_45p.html

 

 1.ミクロネシア ミクロネシア、パラオ、マーシャル諸島、キリバス、ナウル。
 2.ポリネシア サモア、トゥヴァル、クック諸島、ニウエ。
 3.メラネシア ソロモン諸島、バヌアツ。
 4.インド洋 モルディブ、モーリシャス。
 5.欧州 リヒテンシュタイン、アンドラ、サンマリノ、バチカン、モナコ、アイスランド。
 6.中米・カリブ海 ドミニカ、グレナダ、セントルシア、セントヴィンセント、グレナディン、セントクリストファ、ネーヴィス、

 ハイチ、パナマ、コスタリカ。

 

 軍隊を持たない大きな理由として、

 

 ① 人口が少なく、領土が狭く、資源がないため経済が小さいことから、侵略してもメリットがない(例: 太平洋やインド洋の小さな島)

 ② あまりにも小国過ぎて、自前の軍隊を持とうとしても、まともな規模の軍を編制できない(例: アンドラ公国、サンマリノ)

 ③ 重要な位置でありすぎて、軍隊を保有したら大国に瞬殺される運命にあり、非武装にせざるをえない(例:パナマやミクロネシア、パラオ、マーシャル参加国などアメリカの圧倒的な影響の影にある=アメリカの裏庭(従属、属国関係)国)

などが挙げられる。

 

 軍隊不保持の形態はいくつかあり、

 

 ① 軍を解体した国として、

  バチカン(教皇直属の市国警備員がある)

  コスタリカ(常備軍廃止。但し、有事には徴兵制を敷き軍を組織できる)

  パナマ(警察や沿岸警備隊などあり)

  ハイチ(国家警察軍あり。但し、書類上は軍は廃止されていない)

  ソロモン諸島 (ソロモン諸島支援ミッションから派兵あり)

  ツバル

  バヌアツ

  モーリシャス(アフリカで唯一。ただし警察隊(約8,000名)、特別機動隊(1,500名規模)あり)

 などがあるほか、

 ②地域的集団安全保障組織への参加により軍を保有していない国として

 アイスランド 

 セントビンセント・グレナディーン 

 セントルシア 

 ドミニカ国

 グレナダ

 などがある。

 一方、

 ③ 軍を解体したものの、クーデターの勃発やテロの発生などにより軍隊を再保有した国として

 コモロ

 モルディブ

 セントクリストファー・ネイビス

 セーシェル

 などがある。

 

 

 注意しなければならないのは、

 

 Ⅰ 非武装中立であっても、

 

 ① 二度の大戦でドイツ軍に侵略されたルクセンブルク(ドイツ軍の通り道としていい場所にあった)や、

 ② 第二次世界大戦がはじまると、友好国であるにもかかわらず、ナチスの占領を恐れたイギリス軍が先手を打って占領したアイス

  ランド(第二次大戦後、半世紀以上にわたって米軍が駐留(2006年完全撤退))。

 のような国もあることに留意する必要がある。

 なお、第二次大戦後のルクセンブルクは、非武装永世中立路線を放棄して、ベネルクス(ベルギー・オランダ・ルクセンブルク)三国同盟および欧州統合の道を歩み、小国の地位を逆用して、欧州司法裁判所や欧州投資銀行など国際機関の設置などにより、成功した。

 

逆に、

 Ⅱ スイスやスウェーデンのように重武装中立国であることに加え、立地と地形に恵まれたことが功を奏して侵略を防いだ国もある。

 こうした中、現在、憲法上、軍を保有しない宣言を明定しているのは、日本、コスタリカ、パナマの3カ国のみとされる。

 

​ ◉ コスタリカ国会のノーベル平和賞特別決議

 このうちコスタリカ国会は、2015年1月20日、「ともに平和憲法を保持してきた日本と中米コスタリカの両国民に共同で2015年度のノーベル平和賞を」との特別決議を満場一致で採択し、Henry Mora Jiménez(ヘンリー・モラ)国会議長の名でアピール声明をノルウェーのノーベル委員会に提出した。但し、授与には至らなかった。

 

 ◉ 決議理由:

 

 ① 平和は人類の共存と発展に特別の価値がある。

 ② 軍事力は道具であり、その本質的な目的は戦争であり、段階的な軍縮が人類の発展や、飢餓や貧困との闘い、より正義で公正な社会のために役立つ。

 ③④資源を軍事ではなく開発や教育に充てる国こそが将来のモデルになる(国連憲章を引用)。

 ⑤ コスタリカ現憲法(1949年発効)第12条「常設の組織としての軍隊はこれを禁止する」を引用。

 ⑥ 国連平和大学の創設や永世中立宣言などに触れ、軍隊の廃止によってコスタリカが地域や世界の平和に貢献した歴史を記述。

 ⑦ 日本国憲法第9条の全文を掲載。

 ⑧ 「この決定を保持することで日本国民もまた世界の社会にとって模範となったうえ、それゆえに経済的、社会的、政治的に大きく飛躍した」と日本国憲法の平和条項の日本と世界における意義を記述。

 ⑨「コスタリカと日本はともに、この規範を65年以上にわたって保持し、再軍備を望む国内外の圧力をはねのけた。それは両国民の平和への使命感が重くかつ深く根ざしていることを示す」と、平和憲法を長年にわたって保ってきた努力を特筆。

 ⑩ ノーベル平和賞が設けられた意義を確認

 ⑪ コスタリカと日本という経済や歴史、文化などがまったく異なった構造の国がなしえたことは「世界のどの国民も軍事力なしに生存し発展できることを示している」と記述。

 ⑫ 両国民にノーベル平和賞を授与することによって、両国が憲法の条文をいっそう維持しようと努めるし、世界の様々な国が軍隊をなくすことにつながり、「国際法を通して紛争を解決することが明らかに優れているというメッセージを世界に送ることになる」と結んだ。

 

 ◉  コスタリカ憲法について

 

 中米コスタリカで1949年に制定された憲法。第12条に「常設的機関としての軍隊は禁止する」と唱い、常備軍を廃止。自衛のための戦争は認めており、国家防衛のために軍隊を再編できると明記。国家の安全は集団安全保障の米州相互援助条約(リオ条約)に頼る。同国は48年に政争から内戦が起き約2000人が死亡。勝利したフィゲレス大統領は軍隊の廃止を決意し、「兵士の数だけ教師を」を合言葉に軍事予算をそっくり教育予算に変え教育国家に転換。中米紛争が起きた80年代には当時のモンヘ大統領が積極的・永世・非武装中立を宣言。その路線を引き継いだアリアス大統領は87年、中米地域の内戦を終わらせた功績でノーベル平和賞を受賞。

 ただし、米ソ冷戦期において米州における相互防衛を謳った米州相互援助条約(リオ条約)と集団的自衛権を認めた集団安全保障機構である米州機構の存在が、コスタリカをして独自の戦力保持を否定させた要因であり、対米追従政策によって強固に裏打ちされたものとも言われることに留意する必要がある。

 また、憲法による常備軍の廃止は、自衛権の撤廃を定めたものではなく、必要がある場合は軍備を再編成することが可能な旨、憲法に記されている(ただしこれは一度も発動されたことがない)こと、さらに、非武装宣言直後、ニカラグアの侵攻を受けた(ニカラグア軍は、アメリカの強い圧力で数週間後に撤退)ことにも留意する必要がある。

 

 ◉  意見

 1946年の日本国憲法第九条は、世界で初めて戦争放棄・戦力不保持・交戦権否認を謳った。

その後日本政府が第九条を世界に宣伝し、推奨してきたならば、今頃、世界には戦争放棄憲法があふれ、軍隊のない国家は相当数に達していたのではないか。

 もちろん、国際政治はアナーキーであり、すべての主権国家を完全に統制しうる最高権力機関はどこにもない。国連とてその任にない。パワー・ポリティクスが幅をきかせ、テロリズムが蔓延する現代にあって、徒に敵愾心を煽り産軍複合体の意向を受けて軍拡に走る国家指導者が相次ぐ事態に好転の兆しもないから、そんなことは見果てぬ夢だと断じる声もあろう。

 しかし、戦争は人類にとって最も愚かなことであり、その悲惨さは類を見ない。「平和構築」の力学が世界の隅々に浸透する時代が来ることを切に望みたい。

 

 参考までに、以下、3カ国の憲法を記す。

 

【日本国憲法】

 第二章 戦争の放棄

 

 第9条  日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使

 は、 国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

  2  前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

 

 

【コスタリカ憲法】

 ARTÍCULO 12.

  Se proscribe el Ejército como institución permanente. Para la vigilancia y conservación del orden público, habrá las

 fuerzas de policía necesarias.

  Sólo por convenio continental o para la defensa nacional podrán organizarse fuerzas militares; unas y otras estarán

 siempre subordinadas al poder civil: no podrán deliberar, ni hacer manifestaciones o declaraciones en forma individual o

 colectiva.

 

 第12条 

 

  常設的機関としての軍隊は廃止する。公共秩序の監視と維持のために必要な警察力は保持する。

  大陸間協定により又は国防のためにのみ、軍隊を組織することができる。いずれの場合も文民権力に常に従属し、単独又は共同し

 て、審議することも声明又は宣言を出すこともできない。

 

 

【パナマ憲法】

 Article 310

  The Republic of Panama shall not have an Army.

  All Panamanians are required to take arms to defend the national independence and the territorial integrity of the State.

  For the preservation of public order, the protection of life, honor and property of those who live under the jurisdiction of

 the State and for the prevention of punishable acts, the Law shall organize the necessary police services, with authority and

 separate roster.

  In the face of external aggression and by authority of the Law, special police services may be organized temporarily for

 the protection of the frontiers and jurisdictional spaces of the Republic.

 第310条

  パナマ共和国は軍隊を保有しない。

  すべてのパナマ国民は、国家の独立と領土の防衛のために武器を取る義務がある。

  公共の秩序の維持、国の管轄下にある国民の生命、名誉及び財産の保護、罰せられる行為の防止のために、法律上の権限と別個の

 名簿をもって必要な警察業務を組織するものとする。

  外部からの侵略に直面した場合、法律による権限によって、共和国の国境や管轄区域を保護するために、特別な警察サービスを一

 時的に組織することができる。

  (注:国境警備隊が3000人ほどいる)

bottom of page